なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番

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24 共同作業




「ふぅ……終わりました……」

 私が静かにペーパーナイフを置くと隣から拍手が聞こえた。

「いや、すげぇな!! 手元が見えなかった。あまりに華麗に開けるから見とれてたぜ」

 隣を見ると、リカルドが笑顔で手を叩いていた。

「ふふ、ありがとうございます。では、次は提出期限順に並べてもいいですか? 私が書類を並べますので、とりあえず、リカルドは、今、手に持っている陛下からの案件を優先して、早速仕事にとりかかってください」

 書類を処理する場合。
 期限が迫っているのが優先だが、陛下からの書類は最優先事項だ。
 見たところ、陛下からの封書は2通。
 リカルドもそれは知っていたようで、自分で優先して開けていた。だから、今は彼が2通とも持っている。

「え? ああ、さすがだな。じゃあ、悪いが仕分けを頼む」
「はい」

 リカルドは大きな机に書類を並べて確認作業を始めた。
 この時代のインクは、現代のペンのようにすぐには乾かない。
 だからこそ、重厚な執務机ではなく、この書類保管庫の広い机を使って作業をする方が効率がいいのだろう。
 私は自分の仕事をするために作業の続きを再開した。

(期限の書いてないものを結構あるわ……)

 期限が書いていない場合は、中身をある程度見て、順番を決める必要がある。

「リカルド、中身を見て順番を決めてもいいですか?」
「ああ、かまわねぇ」

 私は中身を確認して書類を順番に並べて行った。
 広い机は本当にいい。かなり便利だ。
 リカルドの前に書類がなくなったら、次の書類を移動させる。そうやってリカルドがいちいち動く必要がないようにする。

(この書類を作るには……過去の財務関係の書類が必要ね……)

 私はリカルドが「ふぅ~」と一つの書類を終えたタイミングで彼に尋ねた。

「リカルド、各書類に必要な資料も用意してもいいですか?」

 私が尋ねると、リカルドが目を大きく開けた。

「え? そんなことまでしてくれるのか!? そりゃ……ありがてぇが……いいのか?」
「はい」

 私にとっては別に大変なことではない。書類を作る前に必要な書類を揃えるのは、当然のことだ。

「王宮の女官試験っての最難関だと言われているが……さすがだな……資料も頼みてぇ」

 リカルドは感心したように言った。
 私は女官というだけではなく、前世で社会人経験もある。
 そのことが城でも評価されたのだが、そのことを言わない方がいいだろう。

「はい、お任せください」

 私は書類棚から財務関係の書類を探した。
 棚を少し見たが、整然と並んでいたのでとても探しやすかった。

(これが土地関係……これが、土木関係……あ、あった)

 私は財務関係の書類がひもで綴じてあるファイルを取り出した。そして、パラリと開いて財務状況を見て思わず大きく目を開いた。

(……え!?)

 そして、パラパラとページをめくって、何度も何度も帳簿を確認した。
 
(どういうこと!? かなりの黒字なんだけど……)

 借金にまみれていると思っていたラーン伯爵領はかなりの黒字経営だった。
 正直に言って城よりもよほどいい経営状況だ。
 つまり、この領にはこの財務関係の書類を見る限り……

――借金はない!!

 そう、この領には借金は一切ない。
 どういうことだろうか?
 リカルド個人の借金だというなのなら、別に他の領から借りる必要はない。
 しかもこの帳簿には、リカルドの個人への給与というのも明確に書かかれており、かなりの額だ。
 これだけ個人でもらっている領主はかなり少ないのではないだろうか……

(備蓄、災害費も豊潤にストックしてある。陛下に頼まれた船というのも材料費の支払いはすでに終わってる。防衛費もかなりの額が用意されている)

――借金どころか、こんなに優良な経営状態の領なんてめったにない!!

(え? これってどういうこと?? どうして、ラーン伯爵領が借金しているなんて情報が入っていたの??)

 ちなみに、私はいたのは城だ。
 城には、正確な情報がいくらでも入ってくる。
 全くのデマ情報が、財務関係にも勤務している女官たちから入って来るとは考えられない。
 この状況で考えるとしたら……

(まさか、裏帳簿!?)

 私は財務関係の資料を持ってリカルド机の前に立った。
 リカルドは顔を上げて、私を見て微笑んだ。

「お、さすがだな、初見でよくわかったな」
「はい、とても綺麗に整理されていたので……」

 私はリカルドを見ながら真剣な顔をした。

「リカルド、大切なことを聞きます。どうか正直に答えてください」

 リカルドは私を見てごくりと息を呑んだ。

「わかった、正直に話すと誓う」

 私はじっとリカルドの瞳を見て答えた。

「裏帳簿はありますか?」
「……は?」

 リカルドは、目を大きく開けた後に少し考えて呟いた。

「(本当に俺とイリスさんの常識は違うんだな……帳簿だけでも面倒なのに、わざわざ裏帳簿なんてそんなだるいこと考えるのも眩暈するが……女官だったイリスさんはきっと、それでたくさん苦労した人間を見てきたんだろうな……)」
 
 そしてリカルドは、私を見て真剣な顔をした。

「イリスさん、この領にも、俺にも裏帳簿なんてものはねぇ!!」

(裏帳簿がない!? ないんだ!?)

 では、私の聞いた女官たちからの情報が間違っていたのだろうか?
 ラーン伯爵領に多額の借金があるというのは有名な話だ。

「もう一つ、聞きます」

 リカルドも真剣な顔をした。

「ああ、なんでも聞いてくれ!!」
「ラーン伯爵領には各領から借りた多額の借金があると聞いたのですが……」

 私の問いかけにリカルドは「ああ、そのことか……」と言った後に、リカルドは、はっとしたように立ち上がった。

「イリスさん、もしかして……俺に借金があるって思ってたのに結婚してくれたのか?」

 私はうなずいた。

「はい。むしろ、あの時、リカルドがパーティーに行けなくて、借金がさらに多くならないために結婚しました」

 リカルドは震えた後に、私を見た。

「あ~~ダメだ。イリスさん……抱きしめていいか?」

 なぜそんなこと聞かれるのかわからないが、私はうなずいた。するとリカルドに抱きしめられた。

「きゃっ!!」

 そして気が付くと、私はリカルドに抱き上げられていた。

「突然、どうしたんですか?!」

 私が驚くと、リカルドが嬉しそうに笑いながら言った。

「だって、イリスさんは領民と俺のために、借金があって大変だと思っている男の結婚を受けてくれたってことだろ!?」

 確かにあの時は、借金のせいでラーン伯爵領に何かあったら困ると思って結婚した。

「はい……」

 そしてリカルドはますます目を細めた。

「俺がもっと条件のいい他の令嬢と結婚するかもっていうのも、予想だが借金のためだろ? なぁ、絶対そうだろう?」

 もしもリカルドに借金がなければここまで不安になることもなかったと思う。

「……はい。私と結婚しても何のメリットもありませんので……」

 リカルドが私を抱き上げたままきつく抱きしめた。

「無理だ。こんなの無理だ。離せるわけがねぇ!!」

 リカルドはきつく抱きしめて、私の頭に頬を寄せた後に、再び私を見つめた。

「好きだ、大好きだ。やっぱり、一生離したくねぇ。生涯、俺の伴侶でいてくれ!! 大丈夫、俺には借金なんてねぇから!! 条件とか気にせず自由に伴侶を選べるから!!」

 私はリカルドをじっと見た。

「私は何も持っていません。それでもいいですか?」

 リカルドは首を振った。

「何言ってんだ。イリスさんは全部持ってる。俺の欲しいものを全部持ってる!!」

 私は嬉しくてリカルドの首に両手を回した。

「本当に、ずっと側に居てもいいんですか?」
「ああ!!」

 リカルドの顔が近づいて来たので私は目を閉じようとしたが、その時だ。
 ノックの音が聞こえて、ガチャリと扉が開いて、ロウが入って来た。

「失礼します。ああ、やはり返事はないと思ったらこちらでしたか……手の届かない書類でもありましたか? 私が取りましょうか?」
 
 ロウはこの状況をどうやら、書類が届かないと勘違いしたようだ。

「ロウ~~!!」

 リカルドが青筋を立ててロウの名前を呼んだ。
 だが、ロウは機嫌が悪いのか不機嫌そうに答えた。

「若、不本意ですがご報告いたします。あのバラは無事に植えてもらうことになりました。ちなみに、世話を頼むとムートは『幻の黒いバラ、ひゃほ~~さすが若、見る目ある~~!! さてと、どんな土を作ろうかな~~ルンルン』と言って狂喜乱舞していました。本当にみんな意味がわからない!!」
 
 どうやら、黒いバラは思いの他、庭師には好評だったようだったようだ。
 リカルドと顔を見合わせて二人で笑うと、リカルドが私を下に降ろしてくれた。

「イリスさん、とりあえず、すぐに返事が必要な分を終わらせたら、ゆっくり話をしよう」
「はい。では必要な書類を揃えます」

 私は他の書類に必要な書類を集めるために棚に向かった。

(あの噂は間違いだったってこと? 財務部に勤めている子たちから聞いたんだけどな……)

 私は首を傾けながらも必要な書類を探したのだった。
 
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