ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

40 王族の想い

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 王都付近の森の中。馬車の中には、ネイとヒューゴとアンドリューとローザが乗っていた。
 彼らの耳にもクローディアの演奏は届いていた。
 ローザは目を閉じて音楽を聴きながら口を開いた。

「お兄様のお考えになった曲を、ここまで完璧に弾いて下さるなんて……本当に、クローディア様は素晴らしいですわ」

 ローザがクローディアの奏でる音楽に耳を傾けながら呟くように言うと、彼女は自分の前に座っていたアンドリューを見た。彼は頭を下げて、膝の上に乗せた手のひらを握りしめていた。

「お兄様……どうされました?」

 ローザが心配そうに声をかけると、アンドリューの膝に次々に雫が落ちてきた。

「火龍を見た時……私は、これは奇跡だと、心が震えた。そして、今、言葉に出来ないほどの心と身体の震えをどのような言葉で現せばいいのかわからない。――これも奇跡と呼ぶのだろうか? その言葉しか出て来ない自分が恨めしい……神に、いや彼女には本当に……感謝せずにはいられない……!!」

 アンドリューは大粒の涙を流しながら顔を上げた。

「ハイマの王太子妃、クローディア様にここまでさせたのだ。私は絶対に、ベルンの民を幸せにすると誓おう。――イドレ国よ。我が愛すべき民の暮らすこのベルン国、返して貰おう」

 アンドリューの瞳にはこれまで見たこともないほど強い意思が見えた。

「お兄様……ええ、必ず」

 ローザも力強く頷いたのだった。
 ヒューゴもネイもお互いの顔を見合わせて頷いたのだった。
 
 すると突然馬車が停まって、御者台に乗っていた男が叫んだ。

「ネイ様!! イドレ兵です!! 囲まれました!!」

 アンドリューたちの乗った馬車は、国王と王妃を捜索していた一部の兵に見つかってしまったのだった。ネイは、剣を腰に下げると、アンドリューに向かって言った。

「王子。少々こちらでお待ち下さい」

 馬車を出ようとするネイに向かってヒューゴが大きな声で尋ねた。

「ネイ殿。私も行きますか?」

 ネイは静かに首を振った。

「いえ、ヒューゴ殿はここで、お二人をお守りください。私一人で十分です。無粋な連中など……黙らせてきます」

 ネイはそう言って、馬車を飛び出すと、イドレ国の兵に向かって行った

 アンドリューたちを守るために、ベルン国の騎士団長のネイは静かに、イドレ国の兵に向かって歩いて行った。そして、ひるむことなく兵の前で立ち止まると、兵を見上げながら言った。

「何か用か?」

 イドレ国の兵は、馬車から出て来たネイに向かって吐き捨てるように言った。
 
「……こんなガキが乗っているよな馬車に、国王が乗っているわけがないな……だが一応、中を調べさせてもらう。どけ!!」

 イドレ国の兵士がネイに向かって手を振り上げると、ネイは男の前から消えて、後ろから男の首に剣を当てながら声を上げた。

「イドレ国の兵というのは、随分と野蛮なのだな。ガキだと思う相手にいきなり手をあげるのか? ……民を守るべき兵が、弱き者に平気で手を上げる。これがベルン国なら……重罪だ。……で、そのガキに後ろを取られる気分はどうだ?」

 兵士は、顔を歪ませながら口を開いた。

「おまえ……何者だ?」

 ネイは、男に剣を当てたまま口を開いた。

「我が名は、ネイ・ガーラン。ベルン国の騎士団長。卑怯な手で王宮をかすめ取ったイドレ国兵士諸君。剣を交えるのは初めてだな。折角だ。わが剣、受けて貰おう」

 ネイはそう言うと、剣を当てていた兵を後ろから手刀で気絶させると、素早く剣を抜くと、他の兵士に向かって剣を縦横無人に操り、次々に剣と、手につけていたナックルを駆使して、イドレ兵をなぎ倒した。
 そして、気が付くと五、六人いたイドレ国の兵士は皆、地面に叩きつけたのだった。
 ネイの戦法は剣と拳にナックルを付けての二重攻撃。彼の見た目に似合わず、随分と凶悪な戦闘スタイルなのであった。

 ネイは最後の男を地面に倒すと、剣を鞘に戻した。

「守るべき者のない戦いなど……虚しいだけだ」

 ネイは、そう言うと倒れたイドレ兵をその場に置いて、馬車に戻ったのだった。





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