116 / 308
第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
40 王族の想い
しおりを挟む王都付近の森の中。馬車の中には、ネイとヒューゴとアンドリューとローザが乗っていた。
彼らの耳にもクローディアの演奏は届いていた。
ローザは目を閉じて音楽を聴きながら口を開いた。
「お兄様のお考えになった曲を、ここまで完璧に弾いて下さるなんて……本当に、クローディア様は素晴らしいですわ」
ローザがクローディアの奏でる音楽に耳を傾けながら呟くように言うと、彼女は自分の前に座っていたアンドリューを見た。彼は頭を下げて、膝の上に乗せた手のひらを握りしめていた。
「お兄様……どうされました?」
ローザが心配そうに声をかけると、アンドリューの膝に次々に雫が落ちてきた。
「火龍を見た時……私は、これは奇跡だと、心が震えた。そして、今、言葉に出来ないほどの心と身体の震えをどのような言葉で現せばいいのかわからない。――これも奇跡と呼ぶのだろうか? その言葉しか出て来ない自分が恨めしい……神に、いや彼女には本当に……感謝せずにはいられない……!!」
アンドリューは大粒の涙を流しながら顔を上げた。
「ハイマの王太子妃、クローディア様にここまでさせたのだ。私は絶対に、ベルンの民を幸せにすると誓おう。――イドレ国よ。我が愛すべき民の暮らすこのベルン国、返して貰おう」
アンドリューの瞳にはこれまで見たこともないほど強い意思が見えた。
「お兄様……ええ、必ず」
ローザも力強く頷いたのだった。
ヒューゴもネイもお互いの顔を見合わせて頷いたのだった。
すると突然馬車が停まって、御者台に乗っていた男が叫んだ。
「ネイ様!! イドレ兵です!! 囲まれました!!」
アンドリューたちの乗った馬車は、国王と王妃を捜索していた一部の兵に見つかってしまったのだった。ネイは、剣を腰に下げると、アンドリューに向かって言った。
「王子。少々こちらでお待ち下さい」
馬車を出ようとするネイに向かってヒューゴが大きな声で尋ねた。
「ネイ殿。私も行きますか?」
ネイは静かに首を振った。
「いえ、ヒューゴ殿はここで、お二人をお守りください。私一人で十分です。無粋な連中など……黙らせてきます」
ネイはそう言って、馬車を飛び出すと、イドレ国の兵に向かって行った
アンドリューたちを守るために、ベルン国の騎士団長のネイは静かに、イドレ国の兵に向かって歩いて行った。そして、ひるむことなく兵の前で立ち止まると、兵を見上げながら言った。
「何か用か?」
イドレ国の兵は、馬車から出て来たネイに向かって吐き捨てるように言った。
「……こんなガキが乗っているよな馬車に、国王が乗っているわけがないな……だが一応、中を調べさせてもらう。どけ!!」
イドレ国の兵士がネイに向かって手を振り上げると、ネイは男の前から消えて、後ろから男の首に剣を当てながら声を上げた。
「イドレ国の兵というのは、随分と野蛮なのだな。ガキだと思う相手にいきなり手をあげるのか? ……民を守るべき兵が、弱き者に平気で手を上げる。これがベルン国なら……重罪だ。……で、そのガキに後ろを取られる気分はどうだ?」
兵士は、顔を歪ませながら口を開いた。
「おまえ……何者だ?」
ネイは、男に剣を当てたまま口を開いた。
「我が名は、ネイ・ガーラン。ベルン国の騎士団長。卑怯な手で王宮をかすめ取ったイドレ国兵士諸君。剣を交えるのは初めてだな。折角だ。わが剣、受けて貰おう」
ネイはそう言うと、剣を当てていた兵を後ろから手刀で気絶させると、素早く剣を抜くと、他の兵士に向かって剣を縦横無人に操り、次々に剣と、手につけていたナックルを駆使して、イドレ兵をなぎ倒した。
そして、気が付くと五、六人いたイドレ国の兵士は皆、地面に叩きつけたのだった。
ネイの戦法は剣と拳にナックルを付けての二重攻撃。彼の見た目に似合わず、随分と凶悪な戦闘スタイルなのであった。
ネイは最後の男を地面に倒すと、剣を鞘に戻した。
「守るべき者のない戦いなど……虚しいだけだ」
ネイは、そう言うと倒れたイドレ兵をその場に置いて、馬車に戻ったのだった。
573
あなたにおすすめの小説
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
(第18回恋愛大賞で奨励賞をいただきました。応援してくださった皆様、ありがとうございました!)
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を助けようとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。