ざまぁ対象の悪役令嬢は穏やかな日常を所望します

たぬきち25番

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1巻

1-1

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   プロローグ


 歴史と由緒あるハイマ国の城内の廊下を急ぎ足で歩く。

「ブラッド! 今、戻ったわ。こっちは順調よ!!」

 私、クローディア・ハイマはこの国の王太子妃だ。
 淑女しゅくじょらしくないことは十分理解しているが、裁きの時が差し迫っている今の私に、そんな悠長ゆうちょうなことを言っているヒマはない。
 私が持ち帰った書類を押し付けて名前を呼ぶと、国の筆頭公爵家のブラッド・フュルスト・レナンがその書類を見た後に顔を上げた。


「ああ、ご苦労だった」
「それだけ? こんなに苦労したのにそれだけ?」

 ブラッドは、無表情に非情なことを言い放った。

「クローディア殿……この部分についてはどうなっている」

 私はブラッドの手元をのぞき込んだ。

「あ……」

 ブラッドはあきれたように私を見ていた。


 私は、平穏な日々を目指して、ざまぁを回避したかったはずだ。
 それなのに……気が付けば、人使いの荒い公爵子息に面倒事を押し付けられていたのだった。




「――いずみって、俺のこと好きじゃないよね?」


 藤田泉ふじたいずみ(二十八歳)は思わず言葉を失った。
 そもそも忙しくて寝るヒマもあまりないのに、好きじゃなきゃ金曜の夜にわざわざ時間を作って会わない。

「もう……別れよう」

 ここで、『別れたくない』と言えばいいのかもしれない。でも、同じことを繰り返すのは目に見えている。今よりも時間を作って会えるのかと言われれば、無理だと答えるしかない。それならお互いに傷つけ合う前に別れた方がいいのかもしれない。

「…………わかった」

 味のわからない食事を終えて店を出ると、数分前まで彼氏だった人に「元気で」と言われた。私も「そっちも……」と言って別れた。半年付き合ったのに、随分ずいぶんとあっさりした別れだった。
 それから私は一人で駅に向かった。今日は彼氏と一緒に過ごすはずだったので、一人で歩いていることがひどさびしく思えた。

「危ないっ!!」
「え?」

 気が付くと、車が歩道に突っ込んできた。
 あまりにも突然のことで、私は身体が動かなかっただけではなく、逃げなきゃという思考もなく、意識を失ったのだった。


 ◇


 茶色の長い髪を振り乱し、琥珀こはく色の瞳で相手に威嚇いかくするように声をあげる女性がいる。
 ――フィルガルド殿下は私の婚約者です!! 気安く話しかけるのはやめなさい!!
 女性は、サラサラの金色の髪に緑の瞳の男性の腕につかまっているが、男性は泣きそうな顔で女性に対して懇願している。
 ――お願いです、クローディア!! 私を信じて下さい!! 私は、ただみなと話がしたいのです。あなたをないがしろにしているわけではありません。


 長い長い夢を見た。
 夢の中の私は、少し前に読んだラノベの中の登場人物になっていた。
 侯爵家の令嬢クローディア・フォン・イゼレル。
 そして、彼女は主人公を攻撃する――悪役令嬢というポジションだった。
 クローディアは、ずっと好きだった王太子殿下と政治的な理由で婚約した途端、毎日のようにべったりと殿下にくっつき、お茶会などでも彼を独占して、友人さえも排除しようとする嫌われ者の我儘わがまま束縛令嬢だった。
 逆に言えばそこまで殿下が好きで、執着していたのだ。週に一度彼氏に連絡を取り、月に数回会えば大満足の私とは全く違う。
 どうしてこんな夢を見ているのだろうか?
 夢を見ながら、私は不思議に思っていた。
 だが……

「……夢じゃなかった!?」

 夢だと思っていたのは、どうやら私の記憶だったようで、目が覚めると私は侯爵令嬢クローディア・フォン・イゼレルに転生していたのだ!
 それに気付いた私は、頭を抱えた。

「あ~~やっぱり、何度起きても、クローディアだ……」

 私は寝れば戻るかと思い、何度か寝て起きてみたが、元の自分に戻ることはなかった。
 戻れないと思った時に私が最初に考えたことは、別れた彼氏のことではなく、仕事の引き継ぎについてだった。部署内で共有していた内容は問題ないだろうが、個人で管理していた内容は迷惑をかけてしまうかもしれないと、申し訳なく思った。
 だが、この状況でどんなに後悔したところでできることは何一つない。だから、私は頭を切り替えることにした。
 とにかく今は、ここにいたら何もできない仕事よりも、私の今後を心配する必要がある。
 悪役令嬢クローディアは、自業自得とはいえ悲惨な最期を遂げる。このままでは命の危険が迫っているのだ。早く対策を立てる必要がある。
 私は、まず、ラノベの内容を思い出していた。


 第一章:出会い編
 クローディアの狂愛に悩まされる王太子フィルガルド殿下と、主人公伯爵令嬢エリスの出会い編だ。エリスは、学園の花壇の前でふさぎ込んでいたフィルガルドの相談に乗る。そんなことが続き、卒業半年前になってエリスに子爵令息との結婚の話が持ち上がった。それをきっかけにフィルガルド殿下は『エリスは王妃に相応しい女性だ』とプロポーズをする。
 第二章:いじめ編
 卒業後エリスはフィルガルド殿下と結婚の約束をするが、嫉妬に狂ったクローディアに執拗しつようにいじめられる。だがそんないじめをきっかけにエリスとフィルガルド殿下はさらに愛を深める。
 第三章:ざまぁ編
 エリスをいじめたクローディアのざまぁ展開。クローディアのせいで、スカーピリナ国の国王の逆鱗げきりんに触れてしまう。フィルガルド殿下とエリスの必死のフォローで国同士の同盟決裂は回避できた。だがこれまで政治的な理由で誰も手を出せなかったクローディアは、この件でこれまでの悪事が表に出て処刑される。クローディア処刑の後は、エリスが正妃となって生涯仲睦まじくフィルガルド殿下を支えて、この物語は終わる。


 もうすでに私の悪評は学園中にとどろいているはずだ。それに殿下とエリスもすでに仲を深めているだろう。それはもうこの際どうでもいい。
 でも処刑は回避したい! 切実に!!
 とにかく今が第一章のどの辺りなのか検証しようと思っていた時。
 ――私はフィルガルド殿下に王宮に呼び出されたのだった。


 ◇


「クローディア、君を傷つけるとわかっていますが……私は伯爵令嬢のエリス嬢とも結婚したいと思っています」

 ……ああ、やっぱりだ。
 城に着いた私を待っていたのは、予想していた通りの展開だった。
 やはりこの呼び出しは第一章の終幕の山場。『悪役令嬢クローディアに殿下が、エリスを側妃にすると告げる』という場面だった。
 ラノベでは、この話を聞いたクローディアが激昂げきこうしてカップを殿下に投げつけたりして暴れ出す。それを護衛騎士とクローディアの兄のカインが力尽くで押さえ付けるのだ。
 クローディアは『許さない! そんなことは許さない!!』と騎士や兄に押さえられながらも暴言を吐いたり、暴れたりする。
 だが……実はこの部屋には城の会議などの記録を取る正式な記録書記官が控えているのだ。ここでの様子が第三章で暴露されて、クローディアは『王族であるフィルガルド殿下にひどい態度を取っていた』と糾弾されるのだ。
 私はチラリと周りを見た。フィルガルド殿下の周りには屈強な騎士が三人。それにフィルガルド殿下付きの文官が二人の計五人に、私の兄のカイン。そして……記録書記官が一人、目を光らせていた。
 いた~~彼だ! 記録書記官!!
 私は記録書記官を見つけて奥歯を噛み締めた。私としては、この場で婚約を解消したい。
 政治的な理由での結婚なので、無理だとは思うが言うだけ言ってみることにする。
 私は望みをかけて婚約解消の方に話がいくように舵取りしてみることにした。

「かしこまりました。それでは殿下、婚約解消の手続きをいたしましょう」

 私がさも当たり前の展開だというように、大きく頷きながら答えると、殿下はこの世の者ではない者に会ったような恐怖と驚きが混じった顔をした。
 あ、この顔。私が暴れると思ってたな?
 さすがに失礼だと思うが……実際、ラノベでは暴れていたので、殿下の態度も仕方ないといえる。
 だが驚いていたのは、殿下だけではなく、私の兄を始め騎士や殿下付きの文官たちも同じだった。きっとここにいる全員が私が暴れることを想定していたのだろう。
 想定外のことにあまりにもみなが動かずしゃべらないので、私は「契約書はありますか?」と笑顔で文官に尋ねると、フィルガルド殿下が慌てて口を開いた。

「婚約解消の手続き? いえ、待って下さい。私はクローディアとの結婚を解消する気はありません」

 ああ、殿下が正気に戻っちゃった……やっぱり婚約解消は無理だったか……
 やっぱり流れで婚約解消に持っていくことはできなかった。私はここでざまぁ回避ができなかったことにがっかりしたが、もう一度だけクローディアの美貌を存分に利用して粘ってみることにした。

「なぜです? ……伯爵令嬢がお好きならその方と結婚すれば、よろしいのではなくて?」

 上目遣いで、殿下をじっと見つめると、殿下がゴクリと息を呑んだ。
 さぁ、フィルガルド殿下。言ってくれ!
 私と婚約解消すると言うのだ!!
 私が祈るようにじっと、フィルガルド殿下を見ていると、殿下がさらに言いにくそうに言った。

「君を……王妃に……エリスを側妃に迎えたいと思っています」

 ああ~~。やっぱりダメだったかぁ~~。
 やはり政治的な問題でどうしても私は殿下と結婚する必要があるらしい。
 フィルガルド殿下は眉を下げながら気まずそうに言った後に、譲歩案を示した。


 ・公の場ではクローディアを最優先する。
 ・エリスと自分は離宮に居を構える。
 ・クローディアの日常を脅かすようなことはしない。
 ・王太子妃として、城での最高の待遇を約束する。
 ・クローディアの希望は可能な限り叶える。


 この結婚が回避できないのは初めからわかっていたので受け入れよう。
 だが! 
 私にはどうしても回避したいことがある。せめてそれだけは未然に防ぐことにする。
 私はこぶしひざの上で握りしめながら、じっと殿下を見つめて言った。

「フィルガルド殿下。私と結婚した場合、私との子供はどうされますの?」

 ――そう、私は殿下とは子供を作る行為は絶対にしたくない。
 結婚するのは仕方ない。もうあきらめた。政略結婚なんて、令嬢一人で止められるはずがない。
 でも、子供まで強制されたら話は別だ。
 絶対に、それだけは受け入れられない! だってその行為は私だけではなく、子供まで不幸にしてしまうからだ。
 心臓がかなりうるさい。
 もし殿下が『絶対に作る』と言ったらどうやって交渉しよう。
 私は、固唾かたずを呑んで殿下の返事を待っていた。

「子供は……君がほしいと言うのなら……」

 私は、すぐに記録書記官を見た。
 聞いたかね、記録書記官君? 
 フィルガルド殿下は今、凄くイヤそうにナイスな言葉を言ってくれたよ。

「そうですか……それは、子供に関しては、私の意思に従う……と解釈してもよろしいでしょうか?」

 私は真剣な顔で尋ねた。これが私のこれからを左右する重大な問いだからだ!
 この国では王太子の正妃に子供ができずに、側妃にできた場合は、正妃との離縁が認められていたはずだ。それがなくとも、二年夫婦の営みがなく『白い結婚』だと認められた場合には、たとえ王族といえども身分など関係なく離縁が可能だ。結婚するのが回避できないのなら、せめて『白い結婚』で円満に別れて、余生をのんびりと過ごしたい!

「記録書記官様。先ほどの殿下のお言葉をどう残されるおつもりですか?」

 私は、殿下ではなく記録書記官を見ながら言った。記録書記官は驚きながらも背筋を正して言った。

「は、はい! 『御子については、イゼレル侯爵令嬢が望む場合はもうける』と、記載いたしました」

 ――言質は取った。しっかりと……
 これは、正式な記録書記官が残す文書。例え国王であったとしても簡単には破棄できない正式な記録文書だ。もし何か言われてもこの記録から正式な書類を作ることが可能だ。それほどまで効力のある記録に、私は正妃になるにもかかわらず、殿下との子供について誰からも何も言われない権利を手にしたのだ!
 よし! 白い結婚の同意ゲット!!
 私は殿下と子供ができるような行為をする気はない。それに二年も経てば殿下とエリスの間には子供ができるだろうし、世継ぎができてしまえば、周りの貴族も何も言えなくなる。つまりその間我慢すれば、晴れて白い結婚が認められて私は自由だ!!
 私は殿下を見ながら言った。

「わかりました。殿下のお好きにどうぞ」

 そう答えて、私はようやく、第一章の山場が終わったことにほっとしていた。
 きっとこれで、第三章のざまぁを少しだけ回避したはずだ。なぜなら私は殿下にカップを投げつけてケガもさせていないし、暴言も吐いていない! 凄い! 
 ……よく考えてみれば、当たり前のことのような気もするが……それに何より、白い結婚を約束されたのだ! とにかく、交渉はすこぶる上手くいった。
 ざまぁを回避して気を抜いたら、殿下が無表情に私を見ながら言った。

「君は……本当にクローディアなのですか?」

 殿下と私の間に沈黙が流れる。答えにくい質問をされてしまった。
 どう答えようかと悩んでいると、頭上から声が聞こえた。

「フィルガルド殿下。妹のあなたに対する気持ちはご存知のはずだ。このような不誠実な話を聞かされたにもかかわらず、令嬢らしく気丈に振舞う妹に対してそのような心ない物言い……いささか配慮に欠けるのではありませんか?」

 兄はクローディアを嫌っているはずなのに……
 私が不思議に思いながら兄を見ていると、殿下が青い顔で言った。

「確かに配慮に欠けていたようです。すみませんでした……クローディア」
「いえ……それでは失礼いたします」

 私はこれ以上余計なことを言って記録書記官に弱みになりそうなことを書かれないように、兄と一緒にそそくさと退出した。
 私はそれから馬車乗り場で兄と別れて、馬車で侯爵家に戻ったのだった。


 ◇


 フィルガルド殿下から『お飾りの王太子妃契約』を提案された数日後、王家から正式に侯爵家に書状が届いた。
 意外なことに父は、『これでは当初の条件と違う。陛下に婚約の解消を願い出るか?』と言ってくれた。一方、母は『王族に嫁ぐということは、そういうこともあると覚悟するべきです』と静かに言った。母は隣国のダラパイスの王族だったので、父よりもかなり冷静な態度だった。
 普段無口で、私に関心のないように見えた父が婚約の解消を言い出してくれた時は『もしかして、このまま婚約解消できちゃうかも~~』と浮かれていた。


 そんな私の元に、兄のカインがやってきた。
 私と二人になることを頑なに拒否していた兄が私の部屋に来たので、私だけではなく侍女や執事も驚いていた。

「クローディア。話がある。少しいいだろうか?」
「はい……どうぞ」

 兄は一人で私の私室に入ると、「クローディアと二人になりたい」と言って人払いをした。そして私と兄は向かい合ってソファに座った。ラノベでは、兄のカインは我儘わがままな妹のことをイゼレル侯爵家の恥だと言って嫌い、第三章ではずっと殿下とエリスの味方をしていたはずだ。そんな兄が私と話なんて、いい予感はしない。

「夜分にすまない。単刀直入に言おう。クローディア……父上はああ言ったが、王家に嫁いでくれないか? 離縁しても構わないし、もし離婚後、再婚できないようなら、生涯クローディアの面倒は私が見ると約束しよう」

 やはり結婚の打診だったが、それだけではなく『生涯面倒を見る』という私にとって魅力的な提案付きだった。
 兄は話し合いの席でも私に殿下と結婚させる気満々だった。だが父が反対したのに、なぜそんなことを言うのだろうと気になった。

「お父様が反対されているのに、お兄様はどうしてそこまで私と殿下を結婚させようとするのですか? 私はお父様もお許し下さったので、殿下と結婚したくはありません……」

 じっと兄を見つめると、兄が息を吐きながら言った。

「クローディアは、やはりもう殿下と結婚する気がないのか……」
「はい」

 兄は私を真っすぐに見ながら現在の状況を説明してくれた。


 近年、この国から少し離れた場所に非常に好戦的な王が生まれ、瞬く間にイドレ国という大国を作り上げた。そんなイドレ国の侵攻を恐れた周辺諸国は、同盟を組むことにした。だが同盟の維持というのは難しいものであった。
 国際関係は薄氷を踏むような危うい状況で、ハイマ国はダラパイス国の王族の血族であるクローディアに頼る必要があった。
 クローディアが王族になり、ハイマ国とダラパイス国の繋がりを諸外国に示すことで、同盟関係を強固にすると共に、他の同盟国へ牽制する意味もあった。
 クローディアの婚姻のおかげで、イゼレル侯爵家はハイマ王家から交易路整備の許可をもらい、ダラパイス国に出資してもらって、交易路を確保した。そのおかげで、イゼレル公爵家は繁栄。だが、その裏で多くの貴族の不満を買っていた。


「実は今、我がイゼレル侯爵家は、国内に敵が多い」
「それ……私が王家に嫁げば解決するのですか?」
「ああ。お前を不当な条件で王家に嫁がせることで貴族間のバランスを保つ。だから頼む。情勢が落ち着くまでは王太子妃として耐えてくれ」

 不当な条件で王家に嫁がせる。凄く政治的で清々しささえ感じるほど潔い理由だ。
 だが……同盟関係や、他の貴族との関係にも私の結婚が関わっているのなら、無下にもできない。
 重い、重過ぎる……背負った使命が重過ぎて眩暈めまいがしそうだ。
 私はもう一度兄に念を押した。

「離婚して戻ってきても本当にここに置いてくれますか?」

 私が不安そうに聞くと兄が強く頷きながら言った。

「ああ、契約書を作ってもいい。白い結婚が認められたら、安心して離縁してくれ」

 ――どうやら、私はお飾りの王太子妃になる運命らしい。

「わかりましたお兄様。――私、王家に嫁ぎます」
「そうか! クローディア……感謝する」

 こうして私は、結局フィルガルド殿下の出した条件で王家に嫁ぐことになったのだった。


 ◇


 兄に『王家に嫁いでくれ!』と懇願された翌日。
 兄に説得された父は迷いながらも、フィルガルド殿下が側妃を迎える件を承諾するために登城した。
 父が陛下に返事をすると、すぐに私たちの結婚式の日取りが伝えられた。
 王家のこの尋常ではない対応の早さ……絶対に殿下と私を結婚させるという強い執念を感じる。
 しかも、私たちの結婚式は卒業式の数日後だ。
 通常は卒業式の後に一年は結婚式の準備をするので、卒業式の後すぐに結婚式というのはあまり例のないことだった。
 側妃を王宮に迎えて結婚式の準備を始めるまでに、正妃との結婚から最低でも半年間は期間を開ける必要がある。きっと殿下は愛する主人公エリスと早く結婚したくて焦っているのだろう。
 私としても早めに結婚した方が早く離婚できるので、異論はない。卒業式と結婚式まではあと半年もある。私は残された時間、のんびりと学園生活を送ろうと思っていた。


 ――ところが、現実はそんなに甘くはなかったのだ。


 私の結婚式が卒業後すぐだと父から伝えられた翌日。
 私が学園に行く用意をしていると、王宮の王妃教育担当の女官と、城の護衛騎士が焦った様子で侯爵邸に乗り込んできた。

「クローディア様。半年後に結婚式が決まりました!」
「ええ。……そのようですね?」

 私は、驚きながらも頷いた。
 これまで学園を休んで王妃教育を行う時には、遅くとも前日には連絡が来ていた。
 昨日は連絡が来なかったので、てっきり今日は学園に行ってもいいのかと思っていたのだが……


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