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第六章 最強チーム、強大国へ
48 【最北部、囮部隊:クローディア組】
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「あの煙……レオンたちの戦闘、そろそろね」
私が呟くと、ダグラスとフィルガルドがほとんど同時に「そうだな」「そうですね」と言った。
ブラッドが予定通りに、レオンたちに合図をしたということは、ラウルとガルドたちの作戦も成功したのだろう。よかった、とほっとしていると、私たちの元に兵が青い顔で走ってきた。
「皇帝陛下、このような物が!!」
「何だ? 矢文か?」
兵は弓矢に何か紙が巻き付けられている物を持ってきた。
ダグラスが中を見るとさらに眉を寄せた。
「これは……いたずらか?」
「いたずら??」
ダグラスが、私とフィルガルドに矢文を見せてくれた。
「これは……楽譜??」
矢文には楽譜が書かれていた。
「これは……ん~~弾いてほしいという要望にしては物騒ですね」
フィルガルドが首を傾けながら言ったが、私はすぐに楽譜の違和感に気付いた。
この曲知ってる。でも……あれ? これって『As-Dur』だよね?? なんか記号の位置がおかしくない? ラに♭が付いてる?? 前はこんなところに記号なんてなかった……
この楽譜は、楽譜の始めに『ラ』の音には『♭』を付けて弾くようにと指示が出ている。それなのに『ラ』の音符に♭が付いていることに違和感を覚えた。
しかも以前、この楽譜を見たが『ラ』に個別に『♭』はついていなかった。
この楽譜……おかしい……
そう思った時だった。
――敵あり、警戒せよ!!
「え?」
頭の中に文字が浮かんだ。
この感覚、時々頭に浮かんでくるあの感覚……
これ、クローディアの記憶だ!!
私は声を上げた。
「近くに敵がいるかも!! 警戒して!!」
私の声に、ダグラスが叫んだ。
「もしかしてこの楽譜、暗号文か!? 警戒を!! くそっ!!」
兵が警戒態勢を取った時、いるはずもない運河の北側に船団が現われた。
「有り得ない!! 旧トランの船が北上したとの話は来ていない!!」
私は思いっきり声を上げた。
「すぐにブラッドに救難信号を出して!!」
兵たちが動くと、目の前に大きな背中が見えた。
黄金色の髪が太陽に反射して煌めいていたが、私は震えながら声を上げた。
「フィルガルド!!」
フィルガルドが振り向くと、真剣な顔で言った。
「大丈夫、これ以上、最愛の妻を泣かせるような無粋な男になるつもりはありません。私もあなたも無傷で国に戻る。絶対に!!」
するとフィルガルドの前にレガード、アドラー、リリアが構え、私の後ろにアリス、ジーニアスが私とダグラスを囲むように陣取った。
イドレ国の兵も、剣を抜いて敵に備えた。
そして船のすぐ横で、ダラパイス国から取り寄せた大量の煙を出す花に火がつけられた。
これでブラッドが見つけてくれるはずだ。
「旧トラン国の船です!! 3隻!! 高速船1隻、数分後に接触します!! 揺れに備えて下さい」
フィルガルドが私の方を見ると、「クローディア」と叫んで腰を抱き寄せて頭を守るように抱きしめてくれた。
そして次の瞬間、大きく船が揺れた。私も必死でフィルガルドに抱きついた。
「う……!!」
思わず声を上げたが、フィルガルドのおかげで無事だった。フィルガルドの力強い腕がゆっくりと離されて視線がぶつかった。
「ありがとう」
私がフィルガルドを見上げてお礼を言うと、フィルガルドが微笑んだ。
「無事でよかった。では、クローディア、私の後ろから離れないで下さい」
フィルガルドは私から離れると剣を抜いた。
船の先ではすでに戦闘が始まっているようで、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる。
フィルガルドから離れるとダグラスが私のすぐ側まで来た。
「まさか、ヤツラ……こんなところに船を隠してたのか……見張りが甘くてすまなかった。あなただけでも絶対に生きて……」
私がダグラスを見ながら言った。
「大丈夫。すでにブラッドに知らせた。それにこの船には……最強の側近と、侍女たちが乗っているの。あなたも絶対に無事に戻す」
ダグラスは驚いた顔で、私を見た。
「最強の側近と、侍女たち?? この状況でこんなことを言うのか? ははは! では、お手並み拝見といこう」
そしてレガードがフィルガルドに向かって声を上げた。
「3人ですが、鶴翼の陣で応戦します!! フィルガルド殿下、クローディア様を!!」
「わかった」
鶴翼の陣とはじゃんけんのチョキのような陣形だ。
レガートとアドラーが両側に立ち敵を防ぎ、それでも防ぎ切れなかった敵を、リリアが倒す。
フィルガルドは、さらに3人をすり抜けた敵を相手にする。
「後ろはお任せ下さい!!」
アリスが声を上げると、私はジーニアスに向かって言った。
「ジーニアスは、私と一緒に居た方がいいんじゃない??」
するとジーニアスが真剣な顔で言った。
「いえ!! 戦う術はありますので、ここでクローディア様をお守りします」
「え!? ジーニアスも戦えるの??」
「はい!!」
ジーニアスと話をしていた時だった。
「クローディア。来るぞ!!」
ダグラスが私を抱き寄せた。そして、なだれ込んで来た敵にレガードが真っ先に剣を振った。さらに、その横ではアドラーが剣を抜いた。
――始まる……
私は手をきつく握ったのだった。
◇
第一の甲板を通過した兵がレガード、アドラー、リリアが待機している第二の甲板に足を踏み入れた。
まず先陣を切ってレガードが剣を抜いたかと思うと、数人を同時に地面に倒した。身体の動きがしなやかなので、踊っているようだが、今のレガードは剣舞のように力強い。
レガードの大きく切れのある動きで、相手が踏み込むのをためらうのがよくわかる。
そしてその横ではアドラーが流れるように剣を振っていた。
川の流れのように早くて、淀みない。
アドラーの周りの兵はまるでアドラーの剣に引き寄せられるかのように見える。その証拠にアドラーは先ほどの位置からほとんど動いていないように見える。
まさに、二人の剣は正反対の『動』と『静』だった。
レガードは以前より確実にパワーが上がっている。切れのある動きに力が加わり、さらに一度に多くの兵を倒していた。以前の動きも優美で美しいと思えたが、今のレガードは力強く惚れ惚れする。
一方アドラーは、まるで相手の考えを読んでいるかのように動ごいていた。きっと多くの剣士の動きを記憶して、剣の軌道などで相手の動きを読んでいるのだろう。その様子はまるで相手の考えを読めるかのような動きになっている。ラウルやレガード、レオンなどタイプの違う人々と多く訓練したからかもしれない。
しかもその動きを無理なくできるようになっていた。バランス感覚が格段に上がったのだろう。
「レガードも、アドラーも格段に動きが良くなっている……」
思わず呟くと、ダグラスが驚きながら私を見た。
「クローディア、側近の動きが変わったことがわかるのか?」
「ええ。だって……ずっと一緒にいるから……でも、普段は守られていて、戦っている姿は見ないから、こうして久しぶりに見ると違いがよくわかる……」
そしてさらに兵士が流れ込んできて、二人をすり抜けた兵がリリアの前に立った。
リリアは短い剣ではなく、皆と同じ剣を振っていた。
リリアはとにかく、相手の剣をいなすのが天才的だった。
誰一人として、リリアの剣に触れることができない。
まるで磁石のN極をN極が反発するように、剣をかわされる。そして剣がすり抜けた瞬間に攻撃されるのだ。
「あなたの侍女は……護衛を兼ねていたのだな……」
ダグラスがリリアの動きを見ながら呟いた。
「ええ。本当に……凄いでしょ?」
「ああ……」
ずっと私の側に居てくれたリリアは、侍女としてもかなり優秀だが、剣士としても超一流なのだ。
ふと、リリアの背後から一人の剣士が襲って来た。
「リリア、危ない!!」
そう思ったが、リリアが身体を低くして、足払いをして男性二人を倒しながら、アドラーが自分の相手をしていた兵とまとめて倒した。
体術と状況を巧みに利用した連携攻撃。
息の合った兄と妹の連携攻撃をダグラスも見ていたようで、唖然としていた。
3人はかなり強いが、何しろ兵の数が多く、リリアをすり抜け、5人が階段までたどり着く。
そしてリリアの声かけの後、フィルガルドが階段の前で剣の柄に手を置いた……ところまでは私も肉眼で確認したが、次の瞬間兵士が3人同時に空中に浮かび、まるでスローモーションのようにゆっくりと階段を下に飛ばされた。
フィルガルドの剣は早すぎて全く見えなかった。
さらに二人の兵がやってきたが、剣のぶつかり合う音さえ聞き取るのがやっとというほどの速さだった。
私も一度レガードに剣を持たせてもらったが、剣というのはかなりの重量がある。
その剣をこれだけ早く扱えるようになるまで、フィルガルドは一体どれほどの訓練をしたのだろう……
子供の時からフィルガルドは本当に多忙だった。
覚えることも多く、公務などもあり休む時間さえほとんどなかった。
それなのにハイマのためになる画期的な物を作ったり、事業を見直したり、楽器まで演奏できる。
この腕前を見る限り、剣だって相当訓練したはずだ。
さらに二人の兵士がフィルガルドの前に来たが、フィルガルドはほとんど姿勢を変えることなく、一瞬で相手を倒した。まるで食物連鎖の頂点に君臨する大型の鳥類が、悠然を眼下をみているような威圧を感じる。
私はフィルガルドの剣技を見て、こみ上げてくる涙を必死で抑えた。
――お願いです、クローディア!! 私を信じて下さい!!
ふと、必死にクローディアに呼びかけるフィルガルドの顔が脳裏に浮かんだ。
フィルガルドのこれまで置かれていた状況はかなり過酷な状況だったはずだ。
それなのに、なぜ……こんなにもフィルガルドは……気高いのだろう?
きっと彼は、周囲のせいにすることなく、王として自分を高めることだけを考え……生きてきたのだろう。
私は、これまで見たことがなかった王者の風格の漂うフィルガルドの表情から目が離せなかったのかったのだった。
◇
かなり大勢の兵が私たちの乗っているクイーンイザベラ号に船に乗り移っているようだ。
私たちの乗っているクイーンイザベラ号は甲板が、かなり広く、三層構造になっている。私たちはその最上部にいる。
一番広い甲板に、イドレ国の兵が待機している。
そして二番目の甲板に、レガード、アドラー、リリアが待機し、その上に私とフィルガルド、ダグラス、アリス、ジーニアスが待機している。
本来ならここまで来るのは大変だが、すでに敵の兵士はレガードと、アドラーとリリアのいる場所まで到着し、レガードとアドラーが剣を振っていた。
レガードとアドラーの剣はかなり早くて、次々に兵が倒れていく。リリアも、確実に兵を仕留めているため、ここまで来ない。
「ジーニアス様、後ろ矢が来ます!! 私が弓兵を倒します。ある程度、弓を防げますか?」
アリスが暗器を持って叫ぶと、ジーニアスが声を上げた。
「アリス嬢。お任せ下さい!! この量の矢でしたら、防げると思います」
ジーニアスは、ムチを両手に取り出すとムチをしならせた。しかもムチが剣のようになっている。
「え? ジーニアスの武器ってムチっぽい……剣なの?? しかも二本!? 意外過ぎる!!」
「クローディア様、絶対に近くに来ないで下さい」
そしてジーニアスが二本のムチを振るとまるで剣の壁のように矢が叩き落とされている。
甲板の死角からアリスが暗器を投げて、弓兵を倒して行く。
「ジーニアス……凄い……そんな武器を……」
私が唖然としていると、リリアの声が聞こえた。
「申し訳ありません、数人左から抜かれました、フィルガルド殿下、お願いします!!」
するとフィルガルドが剣を持って階段の前に立った。
「任せてくれ」
そして、フィルガルドが剣を振ると一度に三人が階段から転げ落ちた。
何……今の……全然見えなかった……
私が唖然としていると、ダグラスが小声で言った。
「なんだ、あの脅威的な早さは……もしかしたら、ランヴェルトより早いかもしれない」
そしてダグラスが悔しそうに言った。
「……ハイマの王太子の剣、てっきり飾りだと思っていたが……全然飾りじゃないじゃないか……あの動き、一流の剣士だ。王族で研究者で剣豪など、とんでもない男だな……」
しばらくしてジーニアスがムチを止め、アリスが息を吐いた。
そしてフィルガルドが剣を止めるとゆっくりと周りを見渡して、剣を鞘に納めた。
しばらくして階段を上ってくる音が聞こえて、レガードとアドラー、リリアが姿を見せた。
「クローディア様。全ての兵を……仕留めました」
「ありがとう!! これで一安心ね、あ……ブラッドに連絡を……」
私がみんなにお礼を言った時だった。ダグラスが遠くを見ながら眉を寄せた。
「どうやら、安心するのは早そうだ」
「え?」
前を見ると、高速船の数倍ある大型船が3隻こちらに向かって近づいて来た。今度の船は先ほどとは比べ物にならない。
ブラッド!!
私は恐怖で心の中でブラッドの名前を呼んだのだった。
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