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雪合戦まであと20日
しおりを挟む土曜日、学校は休み。
外は重たい灰色の雲に覆われて寒そうな色だが、部屋の中はあたたかいし、最近電気を変えたばかりなのでとても明るい。真っ白な壁紙に反射して、なお明るく感じる。そんな壁にはポツンと洋菓子店のカレンダーが飾ってある。
以前、母親に『殺風景過ぎるから推しのポスターでも飾れ』と言われた。そのため、近所の洋菓子店のケーキのカレンダーを飾ったら、俺の推しを見た母親が遠い目をした後に、テストの後にはケーキを買ってきてくれるようなった。これまでは俺の誕生日とクリスマスにしか食べられなかった洋菓子店のケーキが定期的に食べられるようになった。
推しのカレンダーの効果は絶大だ。ちなみに今月はプリンだ。美味しそうだが今月はテストがないので食べることはできないだろうと思う。
そんな自室で図書室で借りた本を片手に、平塚にわかりやすいように説明するための準備をしていた。
そして、ほとんどまとめ終わったところで、手を止めて息を吐いた。
(……兵法を選んでよかった。これも副委員長のおかげだな……)
実は図書副委員長の五十鈴が言ったこと。
・相手を知る。
・どうやって仲良くなれるか考える。
・一緒にいる、話しかける。
これは、そのまま兵法でいうところの戦略に当たる。
・現状を知る
・対策を練る
・行動を起こす
この3つは兵法における戦略の基本だ。
つまり五十鈴は意識していたのか、無意識か知らないが、彼女がもしも恋愛する場合は、兵法の戦略通りに動けるということだ。
(五十鈴はすごいな……もしも、彼女に好きな人が出来たら上手く行くんだろうな……いや、今はそんなことを考えている場合じゃないな)
俺は五十鈴のことは置いておいて、まとめたことを実践できるように考えることにした。
まずは、兵法の基本、【成し遂げたいこと】を決める必要がある。
ゴールがなければ目的地にはたどり着けないように、何のために兵法を使うのかを決める必要がある。
俺は平塚との会話を思い出しながら、紙に書き出していくことにした。
(え~~と平塚の要望は、『雪合戦を利用して、働く人が楽しく、生きがいを持ちながら働けるような組織作りの試作』そして今回の場合は……生き甲斐……生き甲斐? 生き甲斐っていうのがなんだろう。達成感とそんな感じかな? つまり『皆が達成感を味わえること』か?)
【達成条件:クラスのみんなが達成感を味わえること】
紙に書いて、俺はペンを置いた。
(達成感って……全く具体的な目標じゃない……)
そして今度は頭を抱えた。
(達成感ってよく聞くけど、具体的には何!? どういう状況!?)
「………………」
俺はしばらく考えてペンを置いた。
(俺は、達成感というこんな身近な言葉の本質がわからない!!)
ネットや辞書で調べてみたが、なんだか平塚のいう生き甲斐とは違う印象だ。
つまり俺の設定した達成感という言葉が違っている可能性が高い。
(ん~~ダメだ、これ以上頭が動ない。何か飲むか……)
俺は机から立ち上がってリビングに向かった。
リビングでは母がパソコンと資料を広げて持ち帰った仕事をしていた。キッチンに立ってお湯を沸かしていると、母に声をかけられた。
「斎~~何飲むの?」
「ココア」
「私にも入れて~~練らなくてもいいから、おもいっきり贅沢に粉入れて甘くして~~」
「いいけど……」
母親がココアを作る時は火で練って作る。だが俺は粉を入れてお湯を入れるだけだ。
自分の分は袋に書かれている分量分の粉を入れて、母親の分はプラス1杯分の粉を入れてココアを作った。
コースターを引き出しから出すと、母親の分をリビングのテーブルに置いた。
「はい」
「ありがとう~~!!」
母親は手を止めてお礼を言うと俺を見上げた。
「斎は、今何してるの?」
「今? 悩んでる」
「は? え? 何? どうした?」
母親は慌てて俺を見た。
「俺、軍師になった」
すると母親が目を大きく開けた。
「ああ。もうそんな時期か。斎、軍師になったんだ。かっこいいじゃん~~大将は誰?」
「平塚」
「平塚君、わかる、適任……あ、もしかしてそれでこの前、お家にお邪魔したの??」
「まぁ……」
すると母親はあからさまに顔をニヤニヤさせた。
「何? 気持ち悪いんだけど」
「気持ち悪いって……息子が辛辣……でもそうか、軍師になったから悩んでるのか。へぇ~~へぇ~~」
「いや、どうして嬉しそうなわけ?」
「だって悩んでいるっていう割に目が輝いてるし……これは勘だけど、今の悩みを乗り越えたら、斎、いい男になりそう。あ~~楽しみ~~」
俺には母親が上機嫌な理由が全くわからない。
「はぁ、いい男って……たかが雪合戦じゃん」
母親はますますニヤニヤしながら言った。
「たかがね~~まぁ、今はそうだよね。でも5年いや、半年後には違う感想を持つんじゃない?」
母親も俺と同じ谷寒東中の出身だ。そんな母親の言葉が妙に耳につく。
「母さんたちの時も(雪合戦)あったの?」
「もちろん、あったよ! あの時は面倒だと思ってたけど、今思えばやってよかったと思う。でも、戻れるならもっと真面目にやればよかったと思うよ」
「ふ~~ん」
俺はキッチンに戻って、自分の分のココアとコースターを手に持った。
「じゃあ」
「うん。ありがとう」
リビングを出て、自分の部屋に戻ると、机の上にコースターとカップを置いてベッドに寝転がった。
「雪合戦って、母さんの頃から続いてるのか……長いな……」
そもそもなぜ、俺たちの学校には雪合戦なんて伝統が残っているんだろう。
もしも雪合戦を戦だとしたら、それをすることの意義を考える必要がある。
(そもそも中学生が雪合戦って……しかも、的を用意してその的に当てるっていう比較的平和なルールだし……)
玉入れとか、ストラックアウトの雪バージョンといえなくもない。
合戦と言う割には平和なのに、毎年わざわざ『大将』だの『軍師』だの『将軍』だのおおげさな呼び方をして教師は皆を盛り上げようとしている。
(どうして雪合戦なんてしてるんだ?)
俺はベッドから起き上がって、椅子に座るとココアを一口飲んでルーズリーフを取り出した。
雪合戦というくらいだから、戦いだ。
(あえて戦いをする意味か……)
ここで参考になりそうな考え方は、やはり武有七徳という考え方だろう。
【武有七徳】
戦という武力を使う目的は7つあるという考え方。
1 暴力を禁じる
2 戦争をしない
3 (国)などを安定させること
4 功績を認めやすくすること
5 人を安定させる
6 みんな仲良くさせる
7 経済を豊かにして財を成すこと
これを今回の雪合戦に当てはめるとこうなる。
1 生徒同士のケンカを防ぐ
2 雪かきの不平不満を解消し、勉学に集中できる環境を作る
3 生徒の心を安定させる
4 功績を認めやすくすること
5 生徒を安定させる
6 みんなを仲良くさせる
7 勉学に集中できる環境を作る(勉強効率を上げることが生徒にとっての財)
つまり、雪かきという大変な作業に対する不平不満を、雪合戦をすることで解消しているのかもしれない。
例年、雪合戦まではやりたくないとの不満の声が上がるが、雪合戦の後は皆黙々と雪かきをしている印象だ。
(そうか……雪合戦で、あえて勝者を作ることで、生徒全員が不平不満を言うことを押さえたのか……)
つまり、雪かきという苦行に対して、生徒が一丸となって反抗されることを恐れた学校側が、一クラスだけ勝者として学校側につかせることで、不平不満を押さえて勉強に集中できる環境を用意することにしたのかもしれない。
また2年だけというのも功を奏している。
1年と3年は関係ないので、そもそも不満を持つこともない。
(生徒の不平不満を押さえて、勉学に集中できる環境を作るためにあえてこんな伝統を?)
きっとこのシステムでうまくいっているから、今も伝統として残っているのだろう。
残っている伝統にはやはりそれなりの理由があるのかもしれない。
雪合戦の意図に気付いて、俺はあることに気付いた。
(あれ……『勝利よりも人がどうすれば気持ちよく動いて、生産性を高めることができるのか』って平塚、同じようなこと言ってるな……)
きっと将来起業することを本気で考えている平塚は、すでに経営とか運営の視点で物事を見ている。
だからこそ、この雪合戦を考えた人と同じ視点を持っているのだろう。
だとしたら……
「平塚と直接、話をした方が早そうだな……」
これは平塚と直接話をした方がいいかもしれない。ちょうど、明日は平塚と会う予定がある。
(明日、話してみるか……)
俺はカップを手に持つと、少し冷めて飲みやすくなったココアをゆっくりと味わったのだった。
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