12 / 28
雪合戦まであと15日
しおりを挟む「野沢! ちょっといい?」
「いいよ、どうした?」
給食が終わって、図書館に行こうとしたら平塚に呼び止められた。振り向くと平塚が嬉しそうな顔をしながら親指と人差し指で丸を作った。
「山岡、将軍OKだって」
「そっか、よかった」
山岡は『恐らく受けてくれるだろう』とは予想していたが、無事に受けてくれてほっとした。
安心していると、平塚が俺のすぐ近くまで来て口を開いた。
「これから鈴木に声をかけようと思うんだけど、一緒に来てくれないか? 鈴木は忙しいから、しっかりと説明した方がいいかもしれないし」
確かに鈴木は美化委員長で、ハンドボールのゴールキーパー。さらに県選抜の選手でとても忙しい。
今日は図書の当番ではなく、ただ本を読みに図書室に行く予定だったので問題ない。
「わかった。付き合う」
「どうも、行こう」
俺は歩き出した平塚の横を歩きながら尋ねた。
「鈴木ってどこにいるんだ?」
「ああ、中庭にいるらしい」
「中庭?」
中庭に着くと、ザクッザクッと土を掘り返す音が聞こえて、花壇の方を見た。すると十数人が花壇の前に集まっていた。
俺はこんな寒いのに、鈴木がなぜ中庭にいるのかわからなかったが、ようやく鈴木が中庭にいた理由を理解した。
背が高く姿勢のいい鈴木は、すぐに見つかった。彼女はどうやら美化委員長として花壇の整備をしているところだった。
平塚と一緒に花壇の前でビニールを持っていた鈴木に声をかけた。
「鈴木、委員会の活動中にごめん、少し時間もらえる?」
鈴木はこちらを見ると、隣にいた女子生徒が「先輩、袋は私が……副会長とお話どうぞ」と言って鈴木から袋を受け取った。鈴木は「ありがとう、じゃあ少しだけ」と言って後輩に任せると俺たちを見た。
「平塚と野沢? 珍しい組み合わせだな。生徒会のことか?」
平塚が困ったように鈴木を見た。
「いや、違う。雪合戦のこと」
「雪合戦? ああ、そうか……平塚が大将で、野沢は軍師か。わかった。話を聞く」
せっかく鈴木を見つけたというのに、俺は鈴木よりも、鈴木の後ろで慣れた手つきで土を掘り起こしている同じクラスの会川のスコップ使いの見事さに見とれてしまった。
(すごい、早い……会川、器用だな……)
会川は、次々に土を掘り起こしている。他にもスコップで土を掘り起こしている人はいるが、とても会川には敵わない。他の人の3倍くらいの速さで地面を掘り起こし、器用に枯れた草などを取り除いている。
とにかく丁寧で、仕事が早い。
「野沢、どうした?」
鈴木から声をかけられて、俺は意識を鈴木に向けた。
「悪い。会川って、器用だなって思って」
鈴木は会川を見た。
「ああ、正直助かっている。真面目だし、仕事は早いし、研究熱心だ。彼のおかげで昼休みで作業が終わるんだ。美化委員会の救世主だ」
鈴木の言葉を聞いて平塚が呟くように言った。
「スコップの扱いが得意で、仕事が早くて、真面目、しかも研究熱心」
そして平塚が俺をすごい勢いで見て叫んだ。
「野沢!!」
どうやら、平塚も俺が言いたいことに気付いたようだ。俺と平塚は顔を見合わせてうなずいた。
「なんだ? 会川に用事だったのか? 呼ぶか?」
鈴木の言葉に、平塚が急いで声を上げた。
「鈴木と会川に用事があるんだ」
「ああ、私と、会川か……」
鈴木が「会川、ちょっといいか?」と会川を呼んでくれた。会川は「ちょっと待って、きりのいい所まで終わらせる」というと、さっきよりもスピードを上げてスコップで土を掘り起こした。
早い、本当に早すぎる。
俺が見とれていると、隣で平塚が鈴木を見ながら言った。
「鈴木、守りの将軍引き受けてくれないか?」
鈴木が会川から平塚に視線を移しながら口を開いた。
「守りの将軍? いいけど……私でいいのか?」
「鈴木が適任だと思う」
真剣な顔の平塚を見て鈴木が答えた。
「わかった。引き受ける」
「ありがとう!!」
鈴木が将軍を引き受けてくれた後、会川がこっちにやってきた。
「鈴木に平塚に野沢……何? 生徒会で何かあったのか?」
会川は俺たちを見ながら首を傾けた。
「会川、雪玉作りの将軍をやってくれないか?」
平塚は前置きもなく、単刀直入に会川に打診した。
会川は一瞬何が何だかわからない、といった顔をした後に慌てて両手を前に出しながら首を横に振った。
「は? 将軍!? 俺が!? いやいや、キャラじゃないって!!」
平塚はためらうことなく、会川の手をきつく握った。
「頼む、そのスコップ使い、そんなに早い中学生は滅多にいない!!」
「あ……なるほど……スコップ」
将軍という言葉よりも、スコップという言葉で会川は冷静さを取り戻した。
(さすが平塚だ……会川の態度が一瞬で変わった)
静かになった会川に鈴木が口角を上げながら言った。
「いいじゃないか、ちなみに会川は種団子作りも脅威的なスピードだ。きっと最高の雪玉を作ってくれるはずだ」
「種団子って??」
平塚が尋ねると鈴木が答えてくれた。
「植物の種を肥料と共に混ぜて発芽しやすくする方法だ。泥団子をイメージしてくれればいい」
どうやら、種団子というのがあり、美化委員会ではそれを作る機会があるようだ。
泥団子をイメージすればいいと言われたが、泥団子は雪玉と同じ手で丸めるのでかなり近い。
「それ最高だな! 会川頼む」
「頼む」
俺も平塚と一緒にお願いすると、会川が困ったように言った。
「わかった。スコップで掘り起こすのも、団子作るのも得意だし……引き受けるよ」
鈴木と会川が将軍を引き受けてくれたことで、一気に2人も将軍が決まった。
(残すところは……)
「指令か……」
平塚がまるで俺の頭の中を読んだように反応した。そう……後は指令の将軍だけだ。平塚が俺を見た。
「明日の学活で適任者がいないか、みんなに相談してみるか……」
「うん」
俺がうなずくと、平塚は笑って鈴木を見た。
「何か手伝うことある? 俺も手伝うよ」
鈴木の言葉を聞いて俺も慌てて声を上げた。
「俺も手伝う」
すると鈴木が俺たちを見て笑った。
「平塚と野沢の手伝ってくれるのか、助かる。では、会川が堀り起こした場所の枯草を袋に入れてくれるか?」
「OK!!」
「わかった」
そして俺と平塚も美化委員の花壇整備を手伝った。
昼休みが終わる10分前に全ての作業を終えて「最速記録だ! ありがとう」と言って鈴木にお礼を言われて少しだけ嬉しくなったのだった。
65
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てた国のその後を見守ってみた。
satomi
恋愛
侯爵令嬢のレナは公然の場でというか、卒業パーティーで王太子殿下イズライールに婚約破棄をされた挙句、王太子殿下は男爵令嬢のラーラと婚約を宣言。
殿下は陛下や王妃様がいないときを狙ったんでしょうね。
レナの父はアルロジラ王国の宰相です。実家にはレナの兄が4名いますがみんなそろいもそろって優秀。
長男は領地経営、次男は貿易商、3男は情報屋、4男は…オカマバー経営。
レナは殿下に愛想をつかして、アルロジラ王国の行く末を見守ろうと決意するのです。
次男監修により、国交の断絶しているエミューダ帝国にて。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる