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雪合戦まであと10日
しおりを挟む「これ貸出お願いします」
「はい」
放課後は、五十鈴と図書当番の日だった。
「本溜まったし、書棚に行って来る」
「お願いします」
今日の図書館はとても賑わっていた。
来月1年生は、学年でビブリオバトルが開催されるので図書室の利用者が1年を中心に増えているのだ。
この期間は図書室が一番人が多く忙しい。
【ビブリオバトル】
ビブリオバトルとは、『発表者が面白さをみんなに伝えたい!!』という本を発表し、発表を聞いた人が最も読みたいと思った本をそれぞれが投票するというものだ。
1年生は各クラスの代表者3人が、全校生徒や教師や外部の人を招いで発表を行い、それぞれ投票してもらう。
・1年部門
・2年部門
・3年部門
・教師部門
・来賓部門
全部で合計5部門あり、それぞれが投票してそれぞれの部門の優勝者を決める。
来賓には地元本屋さんの店長さんや、周辺の図書館の司書の方を招き審査をしてもらえるだけではなく、選ばれた本は本屋さんや図書館で特集してもらえる。
この学校はこの辺りでは一番歴史が古いため、地域の人と密接にかかわっている行事が多い。
毎年、部門ごとで選ばれる本が変わるのでかなり盛り上がる。生徒は、どの部門の優勝を狙って本を決めるのか、というのも戦略の一つとなる。
どうやら、1年生に告知があったのが先週の木曜日だったために、先週借りた本を返す人と、新たに本を返す人でかなり混雑していた。
この時期、この谷寒東中生は、全学年行事がある。
1年生はビブリオバトル
2年生は雪合戦
3年生はプレゼン発表会
このうち、3年生のプレゼン大会は雪合戦の告知のあった前の週に終わっている。
俺が本を棚に片付けていると、図書館内に五十鈴の放送が流れた。
「皆様、閉館10分前です。すみやかな退館をお願いいたします」
(もうあと10分か、終わるかな……)
急いで本を棚に戻していると、五十鈴が小走りでやってきた。
「皆さん外に出られて、今扉に閉館の札をかけました。パソコンの電源も落としたので、後は返却済の本を片付けるだけです」
「ありがとう、あとは任せて、もう帰っていいよ」
「何言ってるんですか、手伝いますよ!!」
五十鈴は、返却用の棚から数冊手に取ると、奥に向かった。
そして俺は五十鈴に手伝ってもらって、ようやく本の片付けを終えた。
「今日は忙しかったですね」
「うん。この時期は仕方ない」
毎年、1年のビブリオバトルの時はかなり忙しい。
「途中まで一緒に帰りませんか?」
外を見るともう暗くなっていた。
「うん。家どこ? 送る」
「え? いいんですか?」
「うん。もっと早く返却に気付けばよかった。俺の判断ミスで遅くなったし……」
「別にいいのに……でもお願いします」
俺たちは図書室の鍵を職員室に返すと、外に出た。
(う……寒い!!)
今日は晴れているので星が良く見える。だが、星が良く見えるということは、風もそれなりにあり、空気が澄んでいるということで、かなり寒くて思わずマフラーに顔を埋めた。
「お待たせしました」
1年の靴箱は離れているので、五十鈴は走って来た。
「帰ろうか」
「はい」
二人で並んで校門を出た。
「副委員長の家、どこ?」
「柳1丁目です。お花屋さんの裏です」
「へぇ~~じゃあ、通り道だ」
俺は隣で寒そうに震える五十鈴を見て尋ねた。
「そういえば、どうしてマフラーと手袋してないの?」
「ああ、今日昨日少し体調悪くて、念のために午前中に病院に行って、車で送ってもらったので……マフラーと手袋を忘れてしまって……」
「はぁ? 体調悪かったのか? そういう大切なことは早く言って!! 本当に!! 放課後の当番免除したのに!!」
「……そう言われると思ったので言わなかったんです。週に1回しかないし……」
「ごめん。聞こえなかった。とにかく、これと、これして!!」
俺はマフラーを自分の首から取ると、五十鈴に手渡した。
「いいですよ、委員長が寒いです」
「いや、病み上がりの人が隣で震えているのを見る方が精神を病むから!! 俺を助けると思ってつけて」
「……ありがとうございます。それでは……お借りします」
「どうぞ」
俺はコートのポケットに手を突っ込んで歩いた。
やっぱりマフラーと手袋が無いのはかなり寒いだが、隣で病み上がりの人が震えてみるのを見るよりは数倍いい。
(風除けにはなるかな?)
俺は五十鈴の反対側に行くと、彼女に近づいた。
「委員長、突然どうしたんですか?」
「風除け。ないよりいいかな~~。それより、俺がさっきみたいに車道側歩いた方がいいかな?」
五十鈴は俺を見上げて小さく笑った。
「いえ、風除け有難いです。さっきより寒くないです」
(しっかり者の彼女でさえ、車に登校するという非日常の中では忘れ物をしてまうのか……雪合戦の雪玉を作るなんて非日常なことにみんなが戸惑うのもわかるな……)
雪合戦のことを考えていると、五十鈴が前を見たまま口を開いた。
「この時期は日が落ちるのは早いですよね」
「うん。冬って感じ」
街灯の光で口から出る白い息がよく見えた。
少し端を歩くと、ザクザクと足が沈む感覚はする。
こんな町中でも星が綺麗に見えるほど、空気は澄み切っている。
「あ、そうだ。副委員長はビブリオバトルの本決めたの?」
「いえ、まだです。たくさんあって悩んでしまって」
「あ~~わかる」
俺も去年はどの本にするのか、かなり悩んだ。
「委員長のおすすめの本は……本当によかったです。感動しました」
「ありがとう……あれ? どうして、俺の勧めた本知ってるの?」
「委員長の本、3年生部門、教師部門、来賓部門の3部門で3位だったでしょう? 本屋さんに委員長のコメントと本が置いてあったので読みました」
「あ、そうなんだ……」
俺は去年のビブリオバトルで、三部門で3位という、いいんだか、悪いだかよくわからない成績を取ったのだ。
ただ3部門で入賞したのは最近では珍しいらしく、先生に褒められた。
「私も代表に選ばれるように頑張ります」
「はは。うん。楽しみにしてる」
こうして俺は、五十鈴を無事に送り届けて家に戻ったのだった。
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