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雪合戦まであと8日
しおりを挟む今日はスッキリと目が覚めた。
やはり、やるべきことがある日は気が引き締まる。
俺はいつもより早く起きて、パンを焼いて目玉焼きを作った。そしてインスタントのコーンスープをお湯で解いて、朝食を済ませた。
「おはよう……斎、もう行くの?」
「うん。いってきます」
「いってらっしゃい」
ちょうど起きてきた母親に見送られて家を出た。
(今日も寒いな……)
雪も積もっているが、まだまだこれくらいなら登下校に支障はない。
学校の近くまで来て、学校に続くそこそこ長い階段を見上げた。
(まだ大丈夫そうだな……)
まだ雪かきをするほどは積もってない。
これからたくさんの生徒が登校すれば、雪は踏まれてなくなってしまうだろう。
階段を上って学校に着くと、暖房がすでに入ってた。
(誰かいるのか?)
鞄を見ると、相沢の鞄が置いてある。
(相沢、もう来てるのか……)
「おはよ、早いな。野沢」
後ろから声をかけられて、振り向くと平塚が立っていた。
荷物を持っていなかったので、平塚もすでに登校していて、どこかから戻ってきた様子だった。
「朝、原岡先生のところ行くって言ってたから、待ってた」
「平塚、おはよう、早いな。相沢の鞄も置いてあるからもう来てるんだろうけど……」
平塚と一緒に教室に入ると、平塚が「俺が来た時には相沢の鞄はあった」と答えた。
「相沢はいつ来てるんだろう?」
不思議に思っていると、平塚が答えてくれた。
「ああ、相沢たちはたぶん体育館で自主練だから、開門と同時に来てると思う。ほらこの時期、放課後の体育館はいろんなクラブが順番で使うからなかなか使えなくなるだろ? だから朝、解放してるらしい」
「朝!? そうなんだ……」
最近、うちの中学校では部活動が廃止され、みんな外部のクラブに通っている。
地域や民間のクラブチームが放課後の体育館使用権を持っているため、これまでのように部活動同士で話し合って体育館を使用することができなくなったのだ。
ちなみに放課後の体育館にはこの学校の生徒だけではなく、外部からも人が来て使用している。
そのため、雪合戦の練習も以前は放課後に出来たらしいが、今では体育の時間に、本来なら2クラス合同のところを1クラスずつで、他のクラスは保体になるという形で練習しているのでほとんど練習はできない。
だがそれはどのクラスも同じなので特に不満はない。
「原岡先生のところ行こうぜ。車あったから来てるはず」
「うん」
俺は平塚と並んで職員室に向かった。
「原岡先生いますか?」
原岡先生はいつも来るのが早い。平塚が車があったと言っていたが職員室をのぞくと、やはり原岡先生はすでに出勤していた。
「ああ、おはよう。平塚、野沢どうした?」
平塚と二人で職員室に入ると、原先生の前に立った。
「おはようございます」
「おはようございます。相談があります。今日のHRの時、雪合戦の話をしたいので10分ほどお時間もらえませんか? こんな内容を話し合います」
話し合いの内容を見せると、原岡先生は笑って答えてくれた。
「こんなに10分で? はは、いいよ! 私が来なくても授業終わったら勝手に始めて。雪玉作りの許可も取った。校庭の端でなら作っていいぞ。ただし、投げ合うなよ? 人のいない場所に試しに投げるくらいならいいらしいから」
「はい」
俺たちはあっさりと時間を貰えた。
職員室を出ると、平塚が俺を見てニヤリと笑った。
「授業終わったら、黒板に説明書くの頼むな」
「わかった」
平塚とはすでに相談を済ませて万全の状態だった。
後は放課後を待つだけだ――
◇
今日は日差しが暖かくて、窓側の俺の席には日差しが舞い込んでくる。
外の雪の白さが反射して、光をさらに明るくしてくれる。
さらに、教室の中は暖房があり快適な温度だ。
(ふぁ~~、昨日それなりに寝たのにな……)
俺があくびを噛み殺して、モニターを見つめた。
モニターには最後の晩餐の絵が映し出されていた。
そして、ふと考える。
(あの絵の人たち、何を食べているのかな……俺の最後の食事は何だろう?)
人として生まれたら決して避けられない死。
その日をどうやって迎えるのか、俺は昔からよく考える。
小学生の頃に考えた死と、今考える死は違う印象だ。
きっとこれから歳をとるにつれて考えが変わっていくのだろうということは明確だ。
そして今のことに目を向ける。
(こんなに毎日会ってても、やっぱりみんないつかはバラバラになるんだよな……)
俺は一番後ろの端の席なので、教室の中が良く見える。
だからこそ教室の中を見渡しながらそんな風に考える自分がいた。
そう思うと今、ここでみんなで机を並べて同じ内容を勉強していることが不思議だった。
「今日はここまで続きはまた次の授業でやります」
ぼんやりとそんなことを考えている間に、今日の全ての授業が終わった。
(終わった……)
最後の授業が終わった瞬間、俺は黒板に雪合戦についての今日の話し合い内容を書いた。今日はほとんど黒板を使わなかったので、すぐに準備ができそうだ。
俺が半分ほど書いた頃、平塚は慣れた様子で前に立つとみんなを見渡した。
「みんな、10分時間ください。先生に時間もらったので」
平塚の言葉でみんなこちらを向いてくれた。
そして、平塚は黒板に書いてある通りに進めた。
《今日の内容》
・今後の流れの説明
・雪玉検証参加のお知らせ
・体育館練習に向けての準備
・必要な係などの提案
「みんな、10分しかないからな、サクサク行く!!」
平塚が声をかけるとみんなもうなずいた。
これは作戦通りだった。
始めから【作る】係に呼びかけると、他は関係ないと空気になると思い、あえて全体を巻き込む形にした。
「来週の火曜日に体育館での全体練習があります。その時には全てを整えて臨みたいので、逆算して動きます」
平塚が真面目な顔で告げるとみんな雰囲気がピリッと緊張した。
この緊張感を出せる人間は多くはない。きっとこれが、平塚の持っている能力なのだろう。
「まず、雪合戦で勝敗を決めるという雪玉。これは大きくても投げにくいし、小さくても的を狙いずらい。脆くてもダメだし、硬すぎでも作るのに時間がかかるので、ちょうどいい大きさを知る必要があります」
平塚の圧のある言い方に、『たかが雪玉』だとバカにしていた人々が何かに気付いた顔をした。
「ああ、それで、雪玉検証か……さすが平塚だな」
【攻め】の将軍の山岡が声を上げた。それをきっかけにそれぞれが「確かに」「硬い雪玉作るのって意外と大変だよね」と声が上がった。
みんなきっと人生で一度は雪玉を作ったことのある人間ばかりだろう。
平塚の言葉で忘れていた童心の頃の行為を思い出したのだろう。
「明日の昼休みにどんな雪玉が投げやすいのかを検証しようと思うので、雪玉作り担当の人で来れる人は手伝ってほしい。攻めの担当も来てくれると、実際に投げてみてほしい。各、将軍は基本参加で頼む」
平塚は、あえて前の方の席に座っている【攻め】の清水に視線を向けた。
「清水、どう?」
清水は静かに答えた。
「俺、行ってもいいよ」
すると後ろの方で女子がざわついた。
「清水君が参加?」
「私も行こう」
西田たちから以前、清水が小学校の頃にソフトボールをやっていたことと、かなりモテるということは聞いていたが本当みたいだった。
「なぁ……守りだけど、どんな雪玉が投げやすいかっていうのは興味あるかも。俺たちだって雪玉防ぐわけだし」
学級委員の井村が口を開けば、雪玉担当の男子も数人「行こうかな」と言い出した。
「ああ、基本みんな来てくれると嬉しい」
「それなら、基本全員参加でいいじゃん。行くのか、行かないのか考えるのがめんどう。行けない人だけ平塚に言うってことで」
西田が、だるそうに酷く積極的なことを言ってくれた。
(ナイス、西田。顔とテンションと内容が全く合ってないけど助かる!)
「そうだな。基本、全員参加で!! 体育館裏の雪の多い辺りでやろうと思ってる」
平塚の言葉で全員参加の流れが出来た瞬間だった。
ふと西田と目が合うと西田が小さく笑った。もしかして……援護してくれたのだろうか?
すると原岡先生が教室に入ってきたので、平塚が早口で言った。
「今度の学活の時に、盾を作るから段ボール持って来れる人っている?」
数人が手を上げてくれた。
俺が一人で用意しようと思っていたら、平塚が『一人じゃ大変だからみんなに聞いてみよう』と言ってくれたので、かなり助かる。
「スムーズに進みました。みんなありがとうございました」
平塚は爽やかに笑うと、原岡先生の方を見た。
「先生にこの場をお返しします」
先生は笑って「もういいんだ。さすが、うちの大将と軍師は優秀だね~~」というとHRを始めた。
俺は無事に話し合いが終わったことにほっとしたのだった。
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