雪合戦までの25日間【図書委員長が兵法使ってみた】

たぬきち25番

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雪合戦まであと7日

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(まずは一輪車を借りて、スコップを運ぶか……)

 昼休みになり、これから雪玉の検証を行うので、マフラーと手袋を持ってスコップを取りに行こうと思っていたら、平塚が男子数人に声をかけた。

「悪い、3人くらいスコップ運ぶの手伝って」
「OK、手伝うよ」

 相沢がノリよく声を上げると、清水や山岡もついて来てくれた。
 スコップは6本借りたので、これだけの人数が来てくれたら楽だ。

(一輪車はいらないかもしれないな……)

 頭の中で計画をすぐに修正すると、平岡が井村に声をかけた。

「井村、さっき説明したところにみんなの誘導頼む」
「了解、了解」

 どうやら、平塚は井村にも事前に声をかけていたようだ。

(本当に手際いいな……)

「野沢、タブレットの使用許可もらったから持って来て、写真残す」
「いつの間にタブレットの使用許可なんて取ったんだ?」

 驚いて平塚を見ると、ニヤリと笑った。

「ん? さっき?」
「さっき!?」

 とにかく、うちのクラスの大将は大層な慧眼けいがんだ。
 俺が急いで自分のタブレットを机から取り出そうとしていると、佐々木が目の前に立った。

「私、撮ろうか?」

 意外すぎる提案に驚いていると、西田が笑いながら言った。

「これから練習の記録は、凛香に任せなって。暗号に使えるかもしれないし」
「ありがとう、頼む」
「ん……」

 佐々木は表情の読めない顔で返事をすると俺の背を向けて自分のタブレットを取りに行った。
 俺は、平塚たちに追いつくために早足で後を追った。

「平塚、佐々木が写真撮ってくれるって」

 平塚に報告すると、相沢が声を上げた。

「え!? 野沢が頼んだのか!?」

 向こうから提案してくれたが、最終的に依頼したのは俺のなので、後に責任問題になった時に俺が依頼したと言った方がいいだろうか……

「……うん」

 うなずくと相沢だけではなく、山岡や清水も驚いていた。

「佐々木に頼んだ!? すげぇ……野沢、勇者だな」
「ああ、よくあいつに頼みごととかできたな……」
「話かけたら、怒られそうで怖い」

 驚く3人に向かって平塚が笑いながら言った。

「野沢孔明にかかれば、これくらい朝飯前だって」
「マジか! 野沢孔明ヤバいな」
「さすが、野沢孔明」

 平塚に続いて、山岡と清水が声を上げたので俺は「恐れ多いから止めて」というと、相沢が俺の肩に腕を回して来た。

「なんていうの? 野沢って新発売のお菓子っぽくない?」
「……どういうこと?」

 相沢の例えの意味が全くわからずに尋ねると、相沢が笑った。

「あはは、ごめん、意味わかんない例えで。え~~とほら、自分でいきなり買うのは勇気がいるけど、誰かが食べてると買ってみようかな~~って、で、ツボる、あれ!!」

 清水が小さく笑いながら俺を見た。

「なるほど、わかるかも」
「わかるんだ!?」

 目を開けると平塚が楽しそうに言った。

「つまり、俺が食べてるの見て、相沢たちはおいしそうだって思ったわけだ?」
「あはは、そうそう」

 相沢の言葉に山岡がうなずいた。

「まぁ、確かに野沢って『俺に近づくな』オーラ出てたよな。平塚と普通に話してるの見て『話しかけてもいいヤツなんだ』って思った。最初に平塚が野沢に声かけた時『内心止めておけ』って思った」

 ふと脳裏に五十鈴に以前言われたセリフが思い浮かんだ。
――それは、隠れたくなるからです。

(知らず知らずのうちに壁作ってたんだな……)

 俺としては、壁を作っているつもりはなかったが、周りからはそうは見えなかったようだった。
 相沢が俺の顔をのぞきこんで笑った。

「やっぱさ、同じクラスでも話してみないとわからないもんだな」

 相沢のいうことは本当に正しい。
 西田たちのことも、話をしてみるとイメージほど怖い人々ではなかった。
 また逆に平塚は完璧で一分の隙もない爽やかな人物かと思えば、若干腹黒いところがあったり、こたつに入ると途端に動かなくなったり、イメージと全く違った。
 相沢だってチャラそうだと思っていたが、週末にはボランティア活動をしたり、こうしてスコップを運んだりする雑用を快く引き受けてくれるいいヤツだった。
 そして1人2本ずつスコップを運んでくれた。雪が少しでも積もっていると一輪車は大変なので、相沢たちが手伝ってくれて本当に助かった。
 4人でスコップを運んで校庭に向かうと、校庭のトラックの雪は除雪してあったが、校庭の脇には雪が積もっていた。

「寒いぃ~~」
「早く始めよう!」

 女子同士がピッタリと身体を寄せ合いながらこちらを急かすように声を上げていた。
 学級委員長の井村の誘導のおかげで全員を予定していた場所に誘導できた。
 平塚のスコップを受け取ると、平塚がみんなを見ながら口を開いた。

「それでは早速、どんな雪玉が投げやすいかの検証をします」

(ほとんど全員来てくれたのか……)

   どんな雪玉を作ればいいのかという検証には、ほとんど全員が来てくれた。
 昼休みに学習委員会の集まりがあると言った数人と、欠席者が不参加だったくらいだった。

「とりあえず、スコップは6本あるけど、【作る】担当が使って。その中でスコップ担当選ぶから」

 平塚が説明をした後に、会川が俺の前に歩いて来た。

「野沢。スコップ1つ貸して」
「うん」

 そして会川がスコップを持って流れるように雪を積み上げていく。
 みんなそこに集まって雪玉を手に取った。
 相沢たちもスコップをそ鉄棒にに立てかけると雪玉を作り出した。
 みんなが、それぞれ雪玉を作ろうとすると、クラスで1番成績のいい高山が平塚を見た。

「雪玉の大きさって指定ある?」

 平塚が俺を見たので、俺は高山を見ながら「ないよ」と答えた。

「指定がないなら、【攻め】の好みで【作る】担当に雪玉作ってもらえば?」

 高山の言葉で皆が立ち上がって平塚を見た。

「そうだな。じゃあ【攻め】担当こっち来て~~」

 攻めは今日は6人が参加していた。あと一人は、学習委員会の集まりでそっちに出ている。
 平塚はみんなを見ながら言った。

「一回、グループ制にしてみない? スコップ担当は別で、7人に2人ずつ付いて雪玉を作るっていう」

 その瞬間、数人の女子から殺気を感じた。

(な、何だ?)

 俺が急に不穏な空気になったことに戸惑っていると、相沢が近づいて来て耳に口を寄せた。

「(女子は、イメメンの清水狙い。清水ってあんまり女子と話しないからさ、チャンスだと思ってるんだと思う)」
「(なるほど……清水狙い……)」

 そう言えば、平塚が雪玉作りを提案した時に、清水を名指ししたことに違和感を持っていたが……

「(清水は、イケメンなのか……)」

 俺が呟くと、相沢が俺をじっと見た後に「ぶはっ!!」と笑った。

「どうした!?」

 みんなが一斉にこちらを見ると、少し離れた場所にいた山岡が怪訝な顔をした。相沢がさっと手を上げて「ごめん、なんでもない」と大きな声で言うと、みんなの視線が再び平塚に移った。
 そして相沢が俺の肩に腕を回した。

「(……野沢は、清水がイケメンだと思わないの?)」
「(イケメン……っていう物差しで人を見たことがなかった)」

 相沢はくすくすと笑って「野沢ってやっぱ変わってるわ」と言った。みんな同性をイケメンだと思って見ているのだろうか? 知らなかった……
 すると、佐々木が俺の前に立った。

「くじ作ったけど……タブレットで……」

 すると相沢が俺から離れて声を上げた。

「マジで!? 仕事早いじゃん!! 平塚~~佐々木がタブレットでくじ作ったって~~!!」

 平塚がにこやかに笑った。

「本当か? ありがとう」

 そして【作る】人々を見た。

「くじを引くでもいい?」

 みんな戸惑っていたが、このままでも埒が明かないと思ったのか、うなずいた。

「俺、会川と一緒にスコップするわ。【作る】選んでみたけど、俺そういえば不器用だったわ。それに俺が抜ければ、14人になってちょうど2人ずつになるだろう?」

 小川がさっと輪の中から抜けて、スコップを持った。
 佐々木は「14人……」と呟くとタブレットを操作した。
 そしてみんなの前に出した。

「選んで」

【作る】担当が一人ずつくじを選んだ。
 
「じゃあ、佐々木頼む」

 平塚の声で佐々木がタブレットで結果を出した。

「な……」
「嘘」

 運命とは時に残酷なものだ。
 女子が焦がれた清水の雪玉担当は、両方とも男子生徒だった。男子生徒は、女子の視線に怯えていたが……

「じゃあ、残り12分で、それぞれ投げやすい雪玉検証して」

 平塚の声で佐々木が俺の前に立った。

「写真撮ってくる」
「ありがとう」

 佐々木は川中と西田と共にみんなの写真を撮りに向かった。
 俺はその場にしゃがみこんで雪玉を作ってみた。
 久しぶりに作った雪玉はすぐにホロリと崩れてしまった。

(意外と脆いな……)

「水の使用ってOKだっけ?」
「水は不可だよ!」

 俺が声を上げると、高山が「不可かぁ~」と言った。

「うわっ!! 坂田、早っ!!」

 声のした方を見て立ち上がると、学級副委員長の坂田が凄い勢いで雪玉を作っていた。
 坂田は作りながらみんなを見上げてドヤ顔で言った。

「私、雪だるま作るの趣味だから」

(雪だるまが趣味!?)

 すると坂田のペアの仲野が腰を上げた。

「なんか、俺、いらなくね? スコップするわ。雪がある程度集まってた方が作りやすいことが発覚したから。そして坂田専属のスコップ師になる!!」

 平塚が坂田を見た。

「坂田一人でもいい?」
「うん。専属スコップが居た方がうれしい」

 坂田は一人だが、明らかに他の人よりも雪玉作りが早い。早すぎる。異次元だ。
 しかも、彼女は……うちのクラスのエース。山岡のグループだ。
 
「どの大きさがいい? 山岡の投げやすい大きさで量産するよ」

 瞬時に作った形の違う雪玉を山岡は手に持って次々に投げた。

「あ~~さっきのいい」

 坂田はすぐにさっきの大きさを再現した。

「これ?」

 再び山岡が誰もいない場所に投げた。かなり遠くまで投げれるようだ。
 坂田は、山岡をじっと見た。

「じゃあ、これで作る。固さは?」
「最高」
「うん」

 すると、鈴木が少し離れた場所に立った。

「山岡~~今の投げてくれないか?」
「え!? 投げ合うのは……」

 俺が声を上げると鈴木が答えた。

「私に当てなくてもいい。球速を見たい」
「あ、なるほど」

 すると相沢たちも「俺も見たい」と言って鈴木の近くに移動した。
 平塚が俺の側に来て耳元で言った。

「大丈夫。投げるな、と言われてない。投げ合わなければOK]

 本当に大将には恐れ入る。確かにその通りだ。
 一方的に山岡一人が投げるを投げ合うとは言わない。

「俺も見たい。どのくらいの速さで雪玉が飛んでくるのか」

 そして坂田が作って、山岡が投げるという流れが出来た。
 山岡は正確に同じところに投げるので、鈴木は自分の手を出した。

「うわっ!! 鈴木大丈夫か?」
「大丈夫……なるほど、こんな感じなのか」

 さすがハンドボールのキーパーだ。手袋をしているといえ、手を伸ばすことに躊躇がない。
 鈴木を筆頭に皆が受けてみたいと言い出したので、山岡はひたすら同じ場所に雪玉を投げた。
 その間にも、他の【攻め】と【作る】担当は、もくもくと「これはどう?」「こっちのが投げやすい」としこ錯誤を繰り返していた。
 佐々木たちも、雪玉を撮影してた。

(なんとかなりそうだな)

 みんなの様子を見てほっとしていると、そして隣に立っていた平塚が呟いた。

「上手くいったな……」

 俺は平塚を見ると「うん」と言って笑った。
 平塚も笑うと、大きな声を上げた。

「みんな~~あと3分!! そろそろ片付け始めよう!! 仲野たち自分の使ったスコップの片付け頼むな」
「了解!」

 俺は使わなかったスコップを手に取った。すると、高山が「手伝う」と言ってスコップを持ってくれた。

「ありがとう」
「どういたしまして……雪合戦って結構熱い競技だったんだな」

 笑う高山を見て俺も笑って答えた。

「うん、熱い」
 
 そして高山とスコップを運ぼうとしていると、会川が俺の持っていたスコップを1つ持ってくれた。

「手伝うよ」
「ありがとう」

 そして高山と会川というこれまで話をしたこともない人たちとスコップを戻しに行くことになった。
 仲野たちはギリギリまで使って各自片付けると言っている。
 高山が、会川を見た。

「会川ってスコップ使いすごいな」
「うん。園芸好きなんだ。それで美化委員でスコップ使ってる時に、野沢たちにスカウトされた」
「なるほな。会川って美化委員なんだ」
「うん。去年からずっと」

 俺はずっと気になっていたことを聞いた。

「そう言えばさ、美化委員で新しく掲示板にポスターを担当したの誰か知ってる?」

 会川が俺を見た。

「ポスター? それ、俺だ」
「会川?」
「うん。何か問題あった?」

 不安そうに俺を見る会川に慌てて答えた。

「いや、ポスターの端はセロハンテープで補強してあったから、丁寧な仕事だなって」
「あ、気づいてくれたんだ。ポスターの端って破れ易いから……」

 高山が驚きながら会川を見た。

「そんなことしてたのか? 会川に常に彼女がいる理由がわかる。気が付く男ってヤツだな。それ、モテる絶対能力だな」

 モテる能力……俺は少し考えて口を開いた。

「真似すれば俺にもできるかな?」

 すると会川と高山が酷く驚いた顔で俺を見た。そしてすかさず高山が声を上げた。

「え!? 野沢もそういうこと考えるんだ」
「高山は考えないのか?」

 俺がつい高速で尋ねると、高山は肩を落としながら答えた。

「考えてるから勉強頑張ってるんの。それに勉強ぐらいじゃん、努力がそのまま返ってるのって。勉強って健気で好感が持てる」
「そんな風に勉強を語ってるの人を始めてみた。でも……高山も野沢もすぐに彼女できそうだけど……」

 会川が感心したように高山を見ながら言った。

「聞いたか、今の、彼女いるヤツの余裕発言」

 高山が俺を見ながら彼には珍しく大きな声を上げた。

「聞いた。でも経験者の予感は当たりそうで、素直に嬉しいから問題なし」

 高山が俺の言葉を来て楽しそうに笑った。

「あはは、野沢ってよくわかんないところでポジティブ!!」

 俺は高山と会川と少しだけ……打ち解けることが出来た気がした。
 結果、今日の昼休みはとても充実したものになった。







 そして、その日の放課後、俺が図書室に行こうとしていると、西田たちが俺の前に立ちふさがった。
 西田が俺を見ながら声を上げた。

「野沢、明日の午前中、私の家に集合で!!」
「え? 西田の家?」

 予想外の提案に驚いていると、川中が小声で言った。

「暗号とかどんなこと伝えるかを、決めよう」
「ああ、なるほど、それは助かるかも。平塚にも伝える。ところで、午前中って具体的には何時? そして、西田の家はどこ?」
「平塚ぁ? まぁ、いいけど……時間は……え~と10時で、ドラックストアのカメハナの前集合」
「わかった」
「じゃあ、明日ね!!」

 西田たちと分かれると、俺は生徒会室に向かった。
 ノックをして「平塚いますか?」と外から声をかけると平塚が出て来た。

「どうした?」

 俺は西田の家に行こうと誘うと、平塚は困った顔で「明日はテニスの練習あるから、野沢に任せた! 結果だけ教えて」と言って生徒会室に戻って行った。

(明日俺だけで行くのか?)

 小さく息を吐くと、図書室に向かったのだった。





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