雪合戦までの25日間【図書委員長が兵法使ってみた】

たぬきち25番

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雪合戦まであと3日

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 落ち着こうと思うのに落ち着かない時、人間誰でも1度はあると思う。
 そして、それは本番だったり、最終目的地に到達する瞬間であるとは限らない。

――雪合戦の前の体育館での実践訓練……いよいよこの時が来た。

(きっと、今日の練習で本番も決まる……)

 この練習で修正できる箇所を見つけて、改善することが勝利への鍵だ。
 つまり、今日は軍師である俺にとっては本番以上に重要な日なのだ。
 今日の訓練を確認して勝利への道までの地図の修正や追加をする必要があるのだ。

「野沢~~盾持って行く?」

 相沢に尋ねられて俺は急いでうなずいた。

「ありがとう、頼む!!」
「ん、了解~~」

 相沢が盾を入れてある段ボールごと体育館に運んでくれた。

「野沢、タブレット持って行く許可ってもらってるんだよね?」

 佐々木に確認されて急いで答えた。

「許可取ってある。ただし、佐々木のだけだからよろしく頼む」
「うん」
「野沢、何か持って行くものある?」

 高山に声をかけられて、俺はメジャーとクリップホルダーにA4の紙を挟み、ペンを手に取った。

「クリップフォルダーとペンはわかるけど……メジャーって何するの?」
「いや、実際に指令の場所とか、雪玉を作る間隔とか計量化して記録すれば、本番も楽かなって」
「ああ、なるほどな。確かに」

 平塚は先に体育館に行って準備してくれているので、俺は高山と一緒に体育館に向かった。
 体育館に着くと前のクラスがちょうど練習をしたのだろう。すでに、的とボールが用意してあった。
 
「意外と的大きいな……」

 高山が的を見上げて声を上げた。

「攻めには好都合だけど、守りには厳しい条件だな」

 すると入口付近に立っていた鈴木が眉を寄せた。
 雪合戦の的は想像よりも大きく感じた。
 今はぽっかりと穴が開いているが、当日はこれに障子紙が貼られる。
 障子紙を貼るのは1年の仕事だったので、俺たちは去年この的に障子髪を張る作業をした。

(懐かしいな……)

 もう、去年のことが懐かしく感じる。
 去年はまさか自分が軍師になってこんなに深く雪合戦と関わることになるとは思ってもいなかった。
 少しだけ過去を思い出している俺の意識を戻すように、大将平塚のよく通る声が聞こえた。

「みんな、集まって!! 最初で最後の練習、時間との勝負だ。手早く頼む!! それじゃあ、手順通り【作る】担当、それぞれの的の見える位置い移動して」

 今日は的には障子紙は貼っていないので、目視で的を通過したかどうかを確認する。
 それを確認するためにあらかじめ、【作る】担当を3列の的それぞれの担当にした。
 
「野沢、防具つけるの手伝って」
「うん」

 俺は大将の平塚の防具を付けるのを手伝った。
 大将は背中に的を背負って自由に動く権利がある。だが、無理に的を背負わなくてもいい。
 実際、的を背負って動くのは半数くらいだ。
 平塚は「絶対に動く」と言ったので、的を背負って防具を付けていた。

「重くない?」
「大丈夫、案外軽い」

 大将の的は鉄素材ではないので軽いらしい。

「よし、じゃあ。まずは【守り】無しで何分で的を射貫けるか、計ろう!! 西田号令頼む」
「OK」

 投げる人の横にボールカゴが置かれて、準備が出来た。

「いつでもいいぞ」

 【攻め】の将軍の山岡が周りを見て声を上げた。
 そして西田が、持参したホイッスルを吹いたと同時に、川中がストップウォッチを動かし、佐々木が映像を撮る。
 【攻め】がそれぞれに、的に向かってボールを投げた。
 次々に的を見てくれている人の手が上がった。

(予測よりも随分と早いな……)

 始めの2分でほとんど全ての的は射貫いていたが、平塚の的だけを苦戦していた。
 だが……
 ホイッスルが鳴り響いた。

「4分23秒。平塚を除外したら、2分32秒」

 平塚が顔の防具を取りながら言った。

「俺、絶対動いた方がいいな」
「うん、頼む」

 テニスで鍛えた動体視力は、的確にボールを避けた。
 だが外で雪玉は色が同化するので今日よりも難易度は上がるだろう。

「次、【守り】入って!!」

 【守り】がフェイスガードを付けて、先日作った盾を持ってそれぞれの配置についた。
 そして俺は、平塚に盾を渡した。

「はい。気をつけて」
「ありがとう」

 そして【守り】が配置につくと、将軍の鈴木が手を上げた。そして、山岡の手を上げると西田が再びホイッスルを鳴らした。

(やっぱり、守りが入ると難易度がかなり上がるな)

 守りが入ると、かなり的に当てるのは難しくなる。

「終わり!! 5分!!」

 結局、5分で的を射貫けたのは4つだった。
 
(これをどうとるべきか……)

 【攻め】が弱いのか、【守り】が優秀なのか……
 俺が考えていると、佐々木が声を上げた。

「野沢、来て」
「うん」

 俺は佐々木のところに走った。
 
「見て」

 佐々木はこの短い間で静止画にしてくれていた。

「あ……」

 よく見ると、右にかなり雪玉が偏っていた。
 そして俺は配置を見た。
【守り】中央には、ハンドボールゴールキーパーの鈴木、そして左には動きの素早い相沢。この二人の守る場所は全く抜かれていない。だが、彼らの前に【攻め】主力山岡と、清水がいた。

(二人に右に移動してもらうか……)

 俺が静止画を見て考えて、佐々木を見ると佐々木が「山岡と清水を右にずらした方がいい」と思うと言った。
 俺は頷くとみんなを見た。

「山岡と清水、右から投げてくれないか?」

 二人は「わかった」というと右に移動してくれた。
 そして俺は平塚を見た。

「もう一回いい?」
「もちろん、まだまだ時間はある」

 そう言って再び的を背負ったので、俺は防具を着けた。
 鈴木、山岡の合図で、西田がホイッスルを鳴らして再びの勝負が始まった。

「終わり!! 5分!!」

 手を上げていた人数を急いで数えた。

(1、2、3、4、5、6……今度は6!!)

「次は、暗号を使ってみよう!!」
「了解」

 その後、何度か実際に実践した。
 それで、俺たちの強みと弱みを知ることが出来た。

「あのさ、作った雪、少し高くできないかな?」

 清水の提案に山岡も頷いた。

「ああ。しゃがむ時間がロスだよな……」
 
 だが、競技には、盾以外の板は持ち込み不可だ。
 すると、川中が口を開いた。

「あのさ、バレーのレシーブの練習の時にボールを打つ人に手渡すんだけど、それってどうかな?」

 平塚がそれを聞いてみんなを見た。

「それいいかも、今、少し試そう。【攻め】と【作る】ペアになってボールを雪玉に見立てて渡してみて」

 【作る】担当がそれぞれの【攻め】側に移動すると、ボールを攻めに手渡した。

「ああ、いいかも」
「うん、かなり投げるのに集中できる」

 そこまで終わったところで、先生の声が聞こえた。

「はい、そこまで!! 片付けを始めてくれ」

 みんな、先生の号令で体育館中に広がったボールを集めた。
 平塚が先生の後に大きな声を上げた。

「悪いボール集めは、守り以外で頼む。守りはさっきの場所に立ってて、距離計るから!!」

 すると守りは残ってくれたので、俺が測ろうとすると、会川が走って来た。

「手伝うよ。こっち持つ」
「ありがとう」

 会川に手伝ってもらって平塚を含む守りの位置を無事に計り終わった。俺が会川にお礼を言うと会川は「気にしなくていい」と笑ってくれた。
 その後、体育が終わると、西田たちが近づいて来た。

「指示細かいかもね」
「うん。そうだね、俺もそう思った。暗号も少し修正しよう。あまり細かい指示じゃ動けない」
「だね」

 実際にやってみると、足りなかった点や問題点を発見することが出来た。
 しかも当日は、これに対戦相手もいる。つまり前から雪玉が飛んでくる中でこれを実践する。
 西田たちと話をしていると、相沢が俺の肩に腕を回しながら言った。

「野沢、どう?」
「結構、改善点ある」
「うわっ、野沢のノートすごっ!!」

 相沢がノートをのぞき込みながら声を上げた。俺はいつものように図や棒人間を多用してまとめただけだ。
 俺は言語化するよりも視覚情報を残す方が得意なので、まずは図や動きをメモして、その後言語化してコメントを書き残すスタイルを取っている。
 そして平塚が歩いて来て俺の手元をのぞきこんだ。

「見せて」
「うん」

 平塚にノートを見せると、平塚が笑った。

「本当に、わかりやすいな……暗号か、確かに練った方がいいな。コートに入ってしまうと想像以上に周りが見えなくなる」
 
 相沢も頷いた。

「ああ、外から状況を教えてもらえるのは有難い。フライ弁当って言われて、俺、左意識したし、凄い効果!!」

 暗号も単純なものだったが、機能しているようだった。
 こうして多くの課題も残したが、同時に手応えを感じて体育館での最初で最後の実践練習が終わった。



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