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雪合戦まであと4日
しおりを挟む月曜日の朝は身体が重い気がする。
以前、どうしても重く感じて休みの間に体重が増えたのか、と思って体重計に乗ってみたが特に変化はなかった。
もしかして、2日間も家にいたので身体がなまってしまうのかと思って、土日も学校はないが通学路を往復した。
するとそれほど身体が重いとは感じなかったので、やはり身体を動かさなかったからかもしれないという結論になった。
(今回の休みは……西田の家に行ったり、書店に行ったり結構動いた気がするけど……)
それでもやはり、一日学校にいるときよりは動かなかったのかもしれない。俺は身体が重いと感じながらも45リットルのビニール袋の中に、集めておいた段ボールを入れた。
「資源ゴミをまとめてくれてるのね、ありがとう」
母親が嬉しそうに、にこにこするので罪悪感を覚えながら答えた。
「いや……これ資源ゴミじゃなくて、学校に持って行く。段ボール濡れると困るから保護してる。悪いけど、資源ゴミは母さんがまとめてほしい……」
資源ゴミは、新聞やその他の紙も含まれる。
両親の部屋からも資源ゴミが出るので、俺は頼まれれば持って行くが、まとめるのは任せている。
母親は少し考えて、声を上げた。
「ああ、学校に……そうか、盾か!!」
「うん。そう。よくわかったね……」
「だってもうすぐでしょう? 懐かしいな~~頑張ってね! あ、そうだ。その日休み取ったから、斎の勇姿を見に行くね!!」
母親が学校に来るのは参観日くらいなので、どうして見に来るのか本気で理由がわからずに尋ねた。
「なんで!?」
「ふっ、ふっ、ふっ。実は……甘酒係になったの。まぁ鍋で温めるだけだけど、係になれば堂々と見学できるでしょう? 学校からお手伝いのお知らせが来て、斎が軍師になるっていうから急いで休み取ったんだから!!」
「それは……ありがとう。でも仕事、大丈夫だったの?」
「どうしたしまして。うん、みんなに『息子が軍師になりました』って言ったら『懐かしい』って快く『行って来い』って言ってくれたし」
母親の会社は地元密着型の会社なので、雪合戦のことも理解があるようだ。
「へぇ~~そんな感じなんだ……」
「そう、職場に伝えたのも早かったし、だから問題なし。いってらっしゃ~~い!!」
「いってきます」
まさか母親が見に来るとは思わなかったので驚いてしまった。
まぁ、母親が見に来ても来なくてもやることは変らないのだが……
扉を開けて外に出ると、風が吹いていた。しかも雪も結構降っている。
(結構降ってるな……できるだけ濡れないように……)
ビニール袋で保護しているが、出来るだけ雪に当たらないように身体で保護しながら学校に向かった。
◇
「おはようございます」
「おはよう」
学校の前までくると、片側の階段の雪が除雪されていた。
消防団の方が2人で除雪してくれたようだ。
今は、反対側を除雪してくれているので、俺は通り過ぎる時にあいさつをした。
「おはようございます。ありがとうございます」
一人にあいさつをすると、俺を見て手を止めて笑った。
「おはよう。あ、もしかしてそれ、盾か?」
「はい」
「あはは、そっか。頑張れよ~~」
「ありがとうございます」
大変なはずなのに消防団の男性は嬉しそうに笑ってくれた後に作業を再開した。
雪合戦で勝敗が決まれば、消防団の方は1人。生徒が4人。合計5人で除雪することになるが、決まるまでは消防団の方が2人で除雪してくれるようだ。
俺たちは親や先生だけではなく、地域の人にも支えられている。
――地域に生かされている。
ふと、そう……感じた。
俺は段ボールをぎゅっと握りしめて、もう一人の消防団の方にもあいさつをして教室に向かった。
教室に着くと、相沢や平塚たち運動部の荷物はあったが、本人はいなかった。だが、西田がすでに登校していた。
こんな時間に西田に教室で会うのは滅多にないことだった。
内心驚いていると、西田が俺を見て笑った。
「おはよ、野沢早いね」
「うん。最近は、いつもこのくらいに来てるけど……西田は早いね」
「ああ、段ボール持って来たからさ、濡れないように親に送ってもらった」
「ありがとう!!」
確かに西田も段ボールを持って来ると言ってくれていたが、まさか車を出してまで持って来てくれるとは思わなかった。
「別に……約束したし……」
ぶっきらぼうに答える西田を見て、今までの俺なら怖いと思ったかもしれないが、今では怖いとは思わなかった。
俺は西田の顔を見て大切なことを思い出した。
「あ……私服さ」
「私服? ああ、この間の作戦会議の?」
「うん。良く似合ってたよ」
西田が目を大きく開けて唖然としながら口を開いた。
「…………は?」
「だから、私服。西田に似合ってたよ」
寒そうだと思ったのは確かだ。
でも彼女には彼女の好きな服があり、それを大事にしているのだ。自分の物差しだけで判断するのは浅はかだ。
そう思って、土曜日の西田たちの服装を思い出すと、みんなとても似合っていたのだ。
俺が笑うと、西田が立ち上がり大きな声を上げた。
「野沢、段ボール。こっち!! 確認して!!」
「う、うん。待って」
俺は慌てて自分の席に鞄を置きに戻った。
「(時間差で褒めるなよ……)」
だから聞こえなかった、西田の呟きは……
◇
その日の学活では盾を作ることになっていた。
「今日は盾を22個作ります」
平塚の言葉に鈴木が声を上げた。
「20個って……確か、10個しか使えないんだよな?」
鈴木の質問に平塚がすかさず答えてくれた。
「そう、でも一度の試合で段ボールの盾は弱くなるだろうから、1試合目と1試合目で盾を変える」
「そういうことか……わかった。いいな、それ」
鈴木の言葉で教室全体が、盾を作ることにかなり強力的な空気になった。
そんな空気の中、平塚が声を上げた。
「じゃあ、班作って全部で6班できるから、1、2、3、5班が4つで、人数少ない4、6班が3つ作ってくれ」
俺は廊下にある補助テーブルを前に持って来て、段ボールやガムテープを並べた。
「前に道具あるから持って行って」
平塚の言葉でみんなが班を作ったり、材料を取りに来た。
俺が前に立っていると、相沢と山岡が近づいて来て相沢が俺の肩に腕を回しながら笑った。
「試合ごとに盾を変えようっていうの、野沢の案だろ?」
「うん、よくわかったな?」
驚いて相沢を見ると相沢が楽しそうに笑った。
「わかるって!」
「そうそう、他のクラス10個しか作ってねぇし、やけに段ボール多いよなって思ってたんだけどな。なるほどな」
「確かに試合で使用できるのは10個だけど、2試合するからな」
山岡がニヤリと笑いながら言った。
「腹黒くていいな」
「うん。いい意味でな」
相沢と二人でうん、うんとうなずいている。
(腹黒いっていい意味があるんだ……)
俺が言葉の意味について考えていると平塚の声が聞こえた。
「みんな~~1つの盾に使用できるガムテープの長さは50センチまでだからな~~」
「こまかっ!!」
誰かが俺もそう思ったということを代弁してくれた。
だが、きっと長さを指定したのは、何か理由があるのだろうということはなんとなくわかった。
「いいこと考えたんだけど……これって穴を開けて髪ゴム使えば、手にフィットしない? 穴のところにガムテープ貼れば規定以内だし」
鞄にたくさんキャラクターを付けている木村が盾を見ながら声を上げた。
すると、一緒にいた佐藤もうなずいた。
「それ、余ったガムテープでズレないように持ち手つけたら持ちやすくない?」
「そうだ、こうすれば、もっと安定しない?」
その2人をきっかけに女子数人が、盾の改良案を出してくれた。
「相沢、ちょっとこれ持ってみて~~」
「今行く」
(ただ盾を作るだけじゃなくて持ちやすい工夫をしてくれるのか……)
それぞれの班で規定の範囲内で試行錯誤が始まった。
規定の大きさに切った段ボールに、太さ5センチほどの取っ手を裏に段ボールで取りつけるだけの単純な工作。それなのにみんなの意見でどんどん持ちやすい盾に変化していた。
正直、これは嬉しい誤算だった。小学生の低学年でも作れる簡単な工作だ。わざわざ時間を取ったのは、みんなで分担して盾という小道具を手早く作ってしまうためだった。きっとみんな面倒だと、手早く作って自分のしたいことを始めるかと思ったが、予想に反してみんな真剣だった。
みんなの様子を見てると、ふと目の前に平塚の顔があり、驚いたがなんとか声を出さずに済んだ。
「ど、どうした?」
動揺しながら尋ねると、平塚が俺にだけしか表情が見えないのをいいことに、ニヤリと笑って見せた。
「(みんながこんな単純な工作に積極になってくれるなんて、予想外なんだけど?)」
自分から動いてくれる組織を作りたい。
今、まさに目の前ではその光景が繰り広げられている。
「(なぁ、野沢。どうしてこうなったと思う?)」
「え? さ、さぁ?」
「(いつでもいい。野沢なりに分析して俺に教えて?)」
「は?」
平塚は黒い笑みを受べた後に、班を周り始めた。
(どうしてこうなったか、分析!?)
俺はまたしても難易度の高い要求を突き付けられてしまったのだった。
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