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雪合戦まであと5日
しおりを挟む今日は日曜日で、午後から平塚に暗号文の報告に行く予定だ。
だが、午前中はヒマだったので、俺は本屋さんに行くことにした。図書館もいいが、本屋さんは俺の癒しの場所だ。
俺はお正月に2万円分の図書カードを両親からお年玉としてもらえる。
すると月にして大体1500円前後の新刊が買える。そして今月はやることがあって本屋さんに来れなかったので、1500円分がまだ残っているのだ。
(今日は何を買おうかな……)
弾む足取りで本屋さんに到着して、一通り棚を見て新刊をチェックしていると近くで、小声で話かけられた。
「(委員長)」
耳元でビクっとして横を向くと、図書副委員長の五十鈴が立っていた。
五十鈴は、真っ白のふかふかの暖かそうなセーターを着て黒のひざ下のスカートに、長いソックスを履いて、さらに腕にはコートをかけており、とても安心できる暖かそうな出で立ちだった。
「……副委員長か……びっくりした」
ほっと胸を撫でおろすと、五十鈴が「驚かせて、すみません。ここであまり大きな声で呼ぶのもどうかと……」と眉を下げた。
確かに書店で大きな声を出すのは、はばかれる。
「いや、あまり声をかけられることがないから驚いただけ」
そう答えると、五十鈴がさらに顔を近づけながら尋ねた。
「どうしたんですか?」
書店なので、大きな声を出したくないというのはわかるが、急に近づかれるとなんだか落ち着かない。
「本を買いに」
五十鈴はその答えにまるで残念な人を見るような視線を向けた。
「……まぁ、ここは書店ですので、ここにいるってことはそうですよね。質問を変えます。何を探しているんですか?」
「……どんな本を買うか探してる」
「まだ買う本は決まっていなかったんですね」
「うん」
「怖い顔で新刊コーナーを睨んでいたので、てっきり目当ての本が見つからないのかと……」
俺は五十鈴が心配になって声をかけたくなるほど普段は怖い顔をしているのだろうか?
無自覚だったので五十鈴の指摘にこちらの方が驚いてしまった。
「え? 俺、そんな怖い顔した?」
「はい」
(俺、黙って考えてるとそんなに怖いんだ……そう言えば、相沢や山岡もそんなことを言ってたよな……)
自分がどう見られているのか、フィードバックがもらえたのだ。今後は対策を立てた方がいいだろう。
(どうするべきか……)
俺が今後について悩んでいると、五十鈴が困ったように言った。
「委員長、また怖い顔に……」
「あ、ああ」
俺は慌てていつものように五十鈴を見ると、彼女が小さく笑った。
「お弁当の時のように、私でお役に立てるなら、探すのをお手伝いしようと思ったんです」
「ああ、そう言えば、あの時は特盛デラックス弁当と出会わせてくれてありがとう」
「いえいえ」
「副委員も本を買いに来たの?」
五十鈴は眉を寄せながら言った。
「はい。図書館で読んでよかった本を買いに来たんです。手元に置いておきたくて……」
「うん。わかる。内容知ってるけど、もう読んだことあるけど、欲しくなる本ってあるよね」
「そうなんです!!」
俺たちが新刊のコーナーの前で話をしていると、スニーカーにジーンズとダウンを着た30代くらいの男性が新刊コーナーを少し離れたところから見ていた。
「あ、俺たち邪魔になってる」
「すみません」
五十鈴と一緒に新刊コーナーの前から去った。
「委員長。本を見ていたのに邪魔してすみません」
「それは気にしなくていいよ。どの本を買うかも決まってなかったし」
そう、俺は珍しく買う本が決まっていなかった。
これまでだったら、すぐに決まっていたし、見に行くコーナーも決まっていた。
でも、ここ数日、色々な人と話をした。みんなそれぞれ興味のあることが違って、考え方も持ち物も違うことに今更ながらに気付いた。
つまり興味が広がったため色々な分野に興味を持ち、欲しい本が増え、買う本を悩んでしまったのだ。
人は何を考え、選択し、それから何を得るのだろう。
俺はじっと五十鈴を見つめた。
「あのさ……つかぬ事をお伺いしますが……」
「また、突然の敬語……何でしょうか?」
「今日はどうしてその服を選んだんだ?」
五十鈴の服は、西田たちの私服とは全然違う印象だ。彼女たちだけではなく、この店にいる女性はどの人も全く違う雰囲気の服を着ていた。
何を考えて、その服を選んだのかが単純に知りたいと思った。
「ええ? 委員長。こっちに」
「うん」
俺たち本屋さんの窓側にある自販機の置いてある休憩スペースに来た。
土曜日だからか、人が多いが空いていた一番奥の二人掛けの椅子に座った。
「どうして、そんなことを知りたいと思ったんですか?」
五十鈴は驚いていたが、説明してくれそうな様子だったので、俺は先に五十鈴に尋ねた動機を話すことにした。
「男子ってさ、みんな似たような服を着てるっていうか……今日だって、店内を見た感じ、年齢に関係なく同じような服装の人多いだろ?」
ちなみに俺は白のパーカーに黒のワイドパンツだが、色は違っても似たような服装の男性ばかりだ。
年齢に関係なく似た服装だ。
「え? そうでした?」
「うん。女の子って、そうじゃないからさ、副委員長はどうしてその服を選んだのかな、って」
五十鈴は少し考えて口を開いた。
「なるほど、そうですね……この服にたどり着くまで色々ありました……」
「色々……?」
五十鈴の顔をじっと見つめると、五十鈴が力強く頷いた。
「はい。私はまず、SNSで『可愛いな』と思う女の子の真似をしました。でも、自分が着るとどうしてもその子みたいに見えなくて」
人の真似から入るというのは、ファッションに限らずあらゆる学問を始める時に始める通る行程だ。
(なるほど、なるほど)
じっと五十鈴を見ていると彼女が話を続けた。
「自分には合わないなぁ、と思うアイテムを少しずつ変えているうちに、自分の好きなスタイルとか、好きなブランドがわかるようになって、好きと似合うを両立させるために試行錯誤した結果がこのファッションです」
女の子の服装にはそれほどの英知が含まれるているのかと驚愕した。
「そんなに……」
「そうですね……結構大変です。服は……」
試行錯誤を重ねたと聞いたわけではないが、再び五十鈴を見ると、この服は五十鈴を上手く引き立てていた。
制服を着ている時よりも明るく、柔らかい印象だ。
だからだろうか、いつもよりも話が弾んだ気がした。
「確かに、その服は副委員長に良く似合ってる。可愛いよ」
「……はぁ? え?」
素直な感想を口にすれば、五十鈴がなぜか動揺していた。そしてしばらく俺から視線を逸らした後に、再び俺を見た。
「委員長、私に去年のビブリオバトルがどうだったか、教えてください」
「ビブリオバトル? いいよ」
服装について貴重な意見を聞かせてくれたのだ。俺は喜んで話をすることにした。
その後、俺は五十鈴とビブリオバトルの話をした。
いつもは図書館なのでできるだけ最低限の会話にしているが、ここでは周りもおしゃべりをしているので、周囲を気にする必要もなくいつも以上にゆっくりと話をした。
ちょうど話が途切れた頃、五十鈴が俺の顔をじっと見た。
「委員長、前に無理だと言われたのでしつこいかもしれませんが……やっぱり休日に私と会うのは無理ですか? 別に特別なことをしなくてもこうして書店で会って話したりするだけでもいいのですが……」
「え? 無理じゃないよ。そんなこと言った?」
図書館ではあまり話はできないので、こんな風にビブリオバトルの相談だったり、委員会のことと関係ないことで俺に話があるというのなら、俺は基本的にはヒマなのでいつ呼び出してもらっても構わない。
「言いましたよ……副会長と遊んだって聞いた日に……」
「副会長って、平塚と……? 無理? そんなこと……あ!!」
俺は少し考えて、彼女に誤解を与えてしまったことに心当たりがあったのですぐに謝罪した。
「ごめん、そういう意味じゃない」
「え?」
「北斎展に行くのが無理だって言ったんだ。もう終わったし……副委員長と話をするのが無理なわけじゃない」
俺は自分の言葉が足りなかったことを反省した。
「あ、北斎展……それは確かに無理ですね。なるほど、そういう意味での無理……なんだ。……じゃあ、こうやって休日に会ってくれるんですか?」
「うん……俺でよければ……」
俺がどこまで彼女の助けになれるのかわからないが、行事のことやテストのこと少し上の人の話を聞きたいという気持ちはよくわかるのでうなずいた。
すると五十鈴が嬉しそうに笑って「じゃあ、よろしくお願いします」と言ったのだった。
クラスメイトだけではなく、後輩とまで少し仲良くなれて俺はくすぐったいような気持ちになった。
◇
その後、平塚との約束の時間になったので、五十鈴と別れて書店を出ることになった。
書店を出ると、五十鈴が「また」と言った後に俺を見上げた。
「委員長って、私の名前知ってますか?」
「うん、知ってるよ。五十鈴琴葉だろ?」
名前を呼ぶと五十鈴は、今日見た笑顔の中で一番嬉しそうに笑った。
「ふふふ、正解です!! もちろん、私も知ってますよ。野沢斎先輩」
そして笑ったまま俺を見た。
「斎先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ」
これまでなんとなく、図書委員長と副委員長と呼んでいただけなので、名前を呼ばれても問題ない。
五十鈴は笑って、「斎先輩、また学校で!!」と言って帰って行った。
名前で呼ばれただけなのに、心臓が少し早くなった気がした。
そして、平塚の家に昨日西田たちから聞いたことを伝えに行った時に、母が買ってきた焼き菓子を持って行くと、「とうとう本格的な菓子折り来た!!」と平塚が驚いて笑ったのだった。
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