雪合戦までの25日間【図書委員長が兵法使ってみた】

たぬきち25番

文字の大きさ
22 / 28

雪合戦まであと5日

しおりを挟む
 


 今日は日曜日で、午後から平塚に暗号文の報告に行く予定だ。
 だが、午前中はヒマだったので、俺は本屋さんに行くことにした。図書館もいいが、本屋さんは俺の癒しの場所だ。
 俺はお正月に2万円分の図書カードを両親からお年玉としてもらえる。
 すると月にして大体1500円前後の新刊が買える。そして今月はやることがあって本屋さんに来れなかったので、1500円分がまだ残っているのだ。

(今日は何を買おうかな……)

 弾む足取りで本屋さんに到着して、一通り棚を見て新刊をチェックしていると近くで、小声で話かけられた。

「(委員長)」

 耳元でビクっとして横を向くと、図書副委員長の五十鈴が立っていた。
 五十鈴は、真っ白のふかふかの暖かそうなセーターを着て黒のひざ下のスカートに、長いソックスを履いて、さらに腕にはコートをかけており、とても安心できる暖かそうな出で立ちだった。

「……副委員長か……びっくりした」

 ほっと胸を撫でおろすと、五十鈴が「驚かせて、すみません。ここであまり大きな声で呼ぶのもどうかと……」と眉を下げた。
 確かに書店で大きな声を出すのは、はばかれる。

「いや、あまり声をかけられることがないから驚いただけ」

 そう答えると、五十鈴がさらに顔を近づけながら尋ねた。

「どうしたんですか?」

 書店なので、大きな声を出したくないというのはわかるが、急に近づかれるとなんだか落ち着かない。

「本を買いに」

 五十鈴はその答えにまるで残念な人を見るような視線を向けた。

「……まぁ、ここは書店ですので、ここにいるってことはそうですよね。質問を変えます。何を探しているんですか?」
「……どんな本を買うか探してる」
「まだ買う本は決まっていなかったんですね」
「うん」
「怖い顔で新刊コーナーを睨んでいたので、てっきり目当ての本が見つからないのかと……」

 俺は五十鈴が心配になって声をかけたくなるほど普段は怖い顔をしているのだろうか?
 無自覚だったので五十鈴の指摘にこちらの方が驚いてしまった。

「え? 俺、そんな怖い顔した?」
「はい」

(俺、黙って考えてるとそんなに怖いんだ……そう言えば、相沢や山岡もそんなことを言ってたよな……)

 自分がどう見られているのか、フィードバックがもらえたのだ。今後は対策を立てた方がいいだろう。

(どうするべきか……)

 俺が今後について悩んでいると、五十鈴が困ったように言った。

「委員長、また怖い顔に……」
「あ、ああ」

 俺は慌てていつものように五十鈴を見ると、彼女が小さく笑った。

「お弁当の時のように、私でお役に立てるなら、探すのをお手伝いしようと思ったんです」
「ああ、そう言えば、あの時は特盛デラックス弁当と出会わせてくれてありがとう」
「いえいえ」
「副委員も本を買いに来たの?」

 五十鈴は眉を寄せながら言った。

「はい。図書館で読んでよかった本を買いに来たんです。手元に置いておきたくて……」
「うん。わかる。内容知ってるけど、もう読んだことあるけど、欲しくなる本ってあるよね」
「そうなんです!!」

 俺たちが新刊のコーナーの前で話をしていると、スニーカーにジーンズとダウンを着た30代くらいの男性が新刊コーナーを少し離れたところから見ていた。

「あ、俺たち邪魔になってる」
「すみません」

 五十鈴と一緒に新刊コーナーの前から去った。

「委員長。本を見ていたのに邪魔してすみません」
「それは気にしなくていいよ。どの本を買うかも決まってなかったし」

 そう、俺は珍しく買う本が決まっていなかった。
 これまでだったら、すぐに決まっていたし、見に行くコーナーも決まっていた。
 でも、ここ数日、色々な人と話をした。みんなそれぞれ興味のあることが違って、考え方も持ち物も違うことに今更ながらに気付いた。
 つまり興味が広がったため色々な分野に興味を持ち、欲しい本が増え、買う本を悩んでしまったのだ。
 人は何を考え、選択し、それから何を得るのだろう。
 俺はじっと五十鈴を見つめた。

「あのさ……つかぬ事をお伺いしますが……」
「また、突然の敬語……何でしょうか?」
「今日はどうしてその服を選んだんだ?」

 五十鈴の服は、西田たちの私服とは全然違う印象だ。彼女たちだけではなく、この店にいる女性はどの人も全く違う雰囲気の服を着ていた。
 何を考えて、その服を選んだのかが単純に知りたいと思った。 

「ええ? 委員長。こっちに」
「うん」

 俺たち本屋さんの窓側にある自販機の置いてある休憩スペースに来た。
 土曜日だからか、人が多いが空いていた一番奥の二人掛けの椅子に座った。

「どうして、そんなことを知りたいと思ったんですか?」

 五十鈴は驚いていたが、説明してくれそうな様子だったので、俺は先に五十鈴に尋ねた動機を話すことにした。

「男子ってさ、みんな似たような服を着てるっていうか……今日だって、店内を見た感じ、年齢に関係なく同じような服装の人多いだろ?」

 ちなみに俺は白のパーカーに黒のワイドパンツだが、色は違っても似たような服装の男性ばかりだ。
 年齢に関係なく似た服装だ。

「え? そうでした?」
「うん。女の子って、そうじゃないからさ、副委員長はどうしてその服を選んだのかな、って」

 五十鈴は少し考えて口を開いた。

「なるほど、そうですね……この服にたどり着くまで色々ありました……」
「色々……?」

 五十鈴の顔をじっと見つめると、五十鈴が力強く頷いた。

「はい。私はまず、SNSで『可愛いな』と思う女の子の真似をしました。でも、自分が着るとどうしてもその子みたいに見えなくて」

 人の真似から入るというのは、ファッションに限らずあらゆる学問を始める時に始める通る行程だ。

(なるほど、なるほど)

 じっと五十鈴を見ていると彼女が話を続けた。

「自分には合わないなぁ、と思うアイテムを少しずつ変えているうちに、自分の好きなスタイルとか、好きなブランドがわかるようになって、好きと似合うを両立させるために試行錯誤した結果がこのファッションです」

 女の子の服装にはそれほどの英知が含まれるているのかと驚愕した。

「そんなに……」
「そうですね……結構大変です。服は……」

 試行錯誤を重ねたと聞いたわけではないが、再び五十鈴を見ると、この服は五十鈴を上手く引き立てていた。
 制服を着ている時よりも明るく、柔らかい印象だ。
 だからだろうか、いつもよりも話が弾んだ気がした。

「確かに、その服は副委員長に良く似合ってる。可愛いよ」
「……はぁ? え?」

 素直な感想を口にすれば、五十鈴がなぜか動揺していた。そしてしばらく俺から視線を逸らした後に、再び俺を見た。

「委員長、私に去年のビブリオバトルがどうだったか、教えてください」
「ビブリオバトル? いいよ」

 服装について貴重な意見を聞かせてくれたのだ。俺は喜んで話をすることにした。
 その後、俺は五十鈴とビブリオバトルの話をした。
 いつもは図書館なのでできるだけ最低限の会話にしているが、ここでは周りもおしゃべりをしているので、周囲を気にする必要もなくいつも以上にゆっくりと話をした。
 ちょうど話が途切れた頃、五十鈴が俺の顔をじっと見た。

「委員長、前に無理だと言われたのでしつこいかもしれませんが……やっぱり休日に私と会うのは無理ですか? 別に特別なことをしなくてもこうして書店で会って話したりするだけでもいいのですが……」
「え? 無理じゃないよ。そんなこと言った?」

 図書館ではあまり話はできないので、こんな風にビブリオバトルの相談だったり、委員会のことと関係ないことで俺に話があるというのなら、俺は基本的にはヒマなのでいつ呼び出してもらっても構わない。

「言いましたよ……副会長と遊んだって聞いた日に……」
「副会長って、平塚と……? 無理? そんなこと……あ!!」

 俺は少し考えて、彼女に誤解を与えてしまったことに心当たりがあったのですぐに謝罪した。

「ごめん、そういう意味じゃない」
「え?」
に行くのが無理だって言ったんだ。もう終わったし……副委員長と話をするのが無理なわけじゃない」

 俺は自分の言葉が足りなかったことを反省した。

「あ、北斎展……それは確かに無理ですね。なるほど、そういう意味での無理……なんだ。……じゃあ、こうやって休日に会ってくれるんですか?」
「うん……俺でよければ……」

 俺がどこまで彼女の助けになれるのかわからないが、行事のことやテストのこと少し上の人の話を聞きたいという気持ちはよくわかるのでうなずいた。
 すると五十鈴が嬉しそうに笑って「じゃあ、よろしくお願いします」と言ったのだった。
 クラスメイトだけではなく、後輩とまで少し仲良くなれて俺はくすぐったいような気持ちになった。







 その後、平塚との約束の時間になったので、五十鈴と別れて書店を出ることになった。
 書店を出ると、五十鈴が「また」と言った後に俺を見上げた。

「委員長って、私の名前知ってますか?」
「うん、知ってるよ。五十鈴琴葉だろ?」

 名前を呼ぶと五十鈴は、今日見た笑顔の中で一番嬉しそうに笑った。

「ふふふ、正解です!! もちろん、私も知ってますよ。野沢斎先輩」

 そして笑ったまま俺を見た。

「斎先輩って呼んでもいいですか?」
「いいよ」

 これまでなんとなく、図書委員長と副委員長と呼んでいただけなので、名前を呼ばれても問題ない。
 五十鈴は笑って、「斎先輩、また学校で!!」と言って帰って行った。
 名前で呼ばれただけなのに、心臓が少し早くなった気がした。

 そして、平塚の家に昨日西田たちから聞いたことを伝えに行った時に、母が買ってきた焼き菓子を持って行くと、「とうとう本格的な菓子折り来た!!」と平塚が驚いて笑ったのだった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした

まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】 その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...