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しおりを挟む子供たちは何がなんだかわからないという様子だったが、ペロの話を聞くうちに少しだけ状況を理解したようで、男の子が恐る恐ると言った様子で口を開いた。
「……家……ない」
「私も……」
消え入るように口にした言葉はしっかりと俺の耳に届いた。
「あなた方はどこから来たのですか?」
「……オスリダッド孤児院」
そしてペロの耳にも届いたようで、ペロは俺の顔を見た。
「総長。どうやら、この子たちとは関わらない方がいい」
珍しく真剣な顔で俺を見上げるが、内容がとても納得できそうにない。
「なんで?」
「恐らく、この子たちを連れていたら、この辺り一帯の町には入れません」
よくわからないが、面倒な組織が運営している面倒な場所から連れて来られた子供ということは理解できた。
「へぇ~~」
この世界のことはよくわからない。
だが、どの世界でも人間というのは同じような組織を作り、同じような行動をする可能性がある。
「仕方ねぇな。お前ら、俺と来るか?」
二人は驚いた顔で俺を見上げた。
「え……?」
「……!」
驚く子供たちの横でペロが目を輝かせて大きな声を上げた。
「さっすが、総長です!! ヤンキーの中のヤンキーです!! 真のヤンキーは捨て猫を放っておけない!! 雨の中傘を差して、保護するのです!!」
「ペロ……お前のその偏った知識はどこで手に入れたんだよ……」
俺が肩を落としながら尋ねると、ペロは胸を張って言った。
「私は優秀ですので、その辺りの常識も地球にいた三ヶ月間に学びました!! 総長がご存知ないだけで、割と常識的な知識です」
「……あ、そう」
俺は伸びをした後に言った。
「仕方ねぇな。定住するのが難しいなら、旅にでも出るか。ここじゃない場所ならこいつらが暮らせる町もあるだろう」
「はぅ~~!! そうですよ!! そうです!! 冒険ですよ!! これぞ異世界転生の醍醐味!! 異世界転生の真骨頂ですっっ!!」
一人だけやけにテンションの高いペロは放っておいて、俺はペロを見て完全に引いている二人を見ながら言った。
「お前ら名前は?」
二人は顔を見合わせて小さな声で言った。
「25番」
「……28番」
(名前じゃなくて、番号で呼ばれるような場所で育ったのか……どうするかな……俺がつけてもいいもんなのか? でも番号で呼ぶってのはないよな……)
二人に名前を付けてもいいのか、考えてていると二人は俺を見上げた。
「名前、欲しい」
「……私も……欲しい」
俺は二人を見ながら言った。
「俺が付けてもいいか?」
二人は頷いたので、俺はまず目の赤い女の子を見た。
「紅ってのはどうだ?」
「くれない? ……くれない、ふふ。くれない」
そして女の子は嬉しそうな顔をした。
そして、俺は今度はわくわくしていると言った顔をした男の子を見た。
「シキってのは……どうだ?」
「……シキ。うん。かっこいい」
二人とも名前を気に入ってくれてよかった。
「じゃあ、荷馬車も手に入れたことだし、行くか!!」
俺が御者台に向かうと二人もついて来た。
「こっちに乗りたいのか?」
二人共大きくうなずいた。
元々、大きな男が3人も乗っていたのだ。
二人がここに乗っても全く問題はない。
「じゃあ、乗れ。行くぞ」
二人は御者台に乗ると、ペロもいそいそと御者台に乗り込んで、俺を見上げた。
「さすが総長!! 荷馬車も扱えるのですか?」
「いや? ペロがするんじゃねぇの?」
「……」
「……」
二人で顔を見合わせて固まっていると、シキが小さな声で言った。
「……出来る」
俺とペロは同時にシキを見た。
「マジか、助かる!!」
「いや~~ナイスです! シキさん!!」
そして、シキが手綱を持つと馬車が動き出した。
空は快晴。
どうやら俺は異世界で、スローライフ生活ではなく、冒険をすることになってしまったようだった。
俺は上機嫌に鼻歌を歌っているペロに向かって尋ねた。
「そう言えば、こっちの世界には魔物とか、魔法ってのはあるのか?」
するとペロが「ああ」と言って声を上げた。
「魔物はもちろんいますよ~~いろいろな種類が!! それに魔法はないですが、精霊の加護を受けて魔法に近い力は使えるようになります。でも精霊の加護を持つ人間はあまりいません」
どうやら、魔物は普通にいるのに魔法はなく、特殊な力ってのはレアってことを理解した。
「ああ、魔物はいるのか。そして精霊を探さなきゃ、特別な力は使えねぇのか……まぁ移動中に見つけたらでいいか……」
「見つける? 他にも精霊を探すのですか?」
「他?」
なんとなく嫌な予感がしてペロを見た。
「もしかして……」
ペロは俺の意図を汲み取ったようで、ドヤ顔で答えた。
「申し遅れました。私は地の精霊ペロです!! ちなみに総長にはすでに私の加護がありますよ。それはもうべったりとたっぷりと加護を塗りつけてあります。加護だくさん福袋状態です!!」
どうやら俺は、すでに地の精霊の少し重たい加護を持っていたようだった。
「もしかして、この世界でも動物とか魔物って話しねぇの?」
俺が、紅に尋ねると大きくうなずいた。
「動物、話、しない」
「へぇ~~」
ペロが得意気に背中を反りながら言った。
「まぁ、そうでしょうとも。私は精霊ですか!! ふっふっふ!!」
「はぁ、ペロ。それ、割と大切なことだから、すぐに言え」
「はい!!」
俺はため息をつくと、シキを見た。
「今日眠れそうな場所を探す。小屋を見つけたら教えてくれ」
「うん」
そして今度は紅を見た。
「紅も頼むな」
「うん」
「もちろん、私も探しますよ~~らんらら~ん。小屋小屋~~こっYEAH~~」
俺は保護した二人とテンション高めの精霊を連れて今日の寝床を探すことにした。
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