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31 知る(後半)
しおりを挟む「ベルのおかげで、我が領に学校を設立する許可が下りたんだ。」
兄の言葉を私の脳は、理解するのを拒んでいた。
(どういうこと?意味がわからない・・。)
兄が自分の拳をきつく握りしめるのがわかった。
どこか人ごとで、映画の中の登場人物の話のように現実味が全くなかった。
「クリストフ殿下の妃として、ベルを王家に迎えることを条件に・・・我が領は学校設立の許可を得たのだ。」
「まさか・・。そんな。」
(え?私の結婚と引き換えに、そんな大事なことを認めてもいいの?
でも、それが通ってしまうところが公爵令嬢という価値!?
なんて、重いの・・。重圧で倒れそうだわ!!)
「嘘ではない。だからこそ、記憶を無くしたおまえと殿下の婚約を、今の段階では破棄することが出来なかった。」
「・・・・。」
兄が心配そうに顔を覗き込んできた。
無意識に唇を噛み締めていた。
「そんな、重要な取引があるのなら、婚約破棄など恐ろしいことを提案しないで下さいませ!!」
「ベル?」
兄の驚いた顔が余計に私のちっぽけなプライドを傷つけた。
「正直、私には今日まで公爵令嬢とは何か全く理解しておりませんでした。
しかし、自分の目で領地を見て、そこに住む人達を想像した後に、学校設立をふいにしてまで婚約を破棄したいだの我儘を言うほど、このベルナデット、落ちぶれてはおりません。」
「・・・ベル。」
(多くの人の学びの機会を平気で奪えるほど、兄には私が傲慢に見えるのかしら。兄に信頼されていると思っていたのに・・。私、ちっとも信頼されていなかったのね。悲しいわ。)
兄の自分への信頼のなさに悲しくなって、自分でもはっとした。
(何が悲しいよ・・。兄にそう思わせたのは、私の態度のせいだわ。散々兄に迷惑をかけて、弱音を吐いて、そんな私を今更、信用しろだなんて・・。被害妄想ね。自業自得だわ。)
私は大きく息を吸い、兄の顔を見据えた。
「お兄様、安心して下さい。わたくし、何があっても必ず王妃になります。」
「ベル。そうではない。おまえが決意しなければならないのは、王妃になることではない。だが、おまえのその領民を思う気持ちは素晴らしいな。」
・・・・・・・。
「は?」
「王妃に必ずなることはない。わかるか?」
兄は、私の一世一代の決意をさらりと跳ねのけた。
しかも、兄はやれやれと少し呆れ顔だ。
(どうして、私の決死の思いで言ったことが『斜め上のこと言ってるな、こいつ』って顔されなきゃいけないの?!)
私が戸惑っていると、兄が私の両肩に手を乗せ、正面から顔を近づけてきた。
(え?なに?これって・・・!!)
思わず目を閉じる。
・・・・・・・・。
「目を開けろ。ベル。」
(あ、キスなわけがないわよね・・。まぁ、バレてはいないだろうけど、地味に恥ずかしいわ。)
目を開けると真剣な顔の兄と目があった。
「ベルが今受けている王妃教育は間違いなく、我が国の誇る最高の教育だ。」
(・・・・?最高の教育?)
「いいか、おまえは先のことは一切考えず、最高の教育を自分のものにすることだけに集中しろ。」
(先のことは一切考えない?)
きっと私は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていただろう。
「結婚だの王妃など、不毛なことなど考える必要はない。一つでも多くのことを学べ。おまえが学ぶことで、新しい道が開ける。」
(結婚や王妃が不毛???大丈夫かしらそんなことを言って!!誰かに聞かれたら不敬罪になるんじゃないかしら。)
思わず辺りを見回してみたが、ここは山の上。護衛は近くにはいない。
誰かに聞かれる心配はないだろう。
そして、ようやく兄の意図に気付いた。
「まさか、お兄様。この話をするためにここに連れてきたのですか?」
すると兄はしっれと、「そうだ。」と言った。
「最近のおまえは、あまりにも将来に不安を持っていたみたいだったからな。ベルにとって、今、一番大切なことを伝えたかった。」
溜息をついて、近くにある兄の顔を見つめる。
「屋敷ではダメだったのですか?そのお話。」
「ダメだな。間者がどこにいるかわからないからな。」
そうだ。公爵家にはスパイが普通にいる。しかも、中には自分がスパイだと認識していない人も多い。
誰でも、身分が自分より上の人に情報を提供を求められたら、簡単に報告するのが普通だ。守秘義務という感覚はこちらでは、王族と上位貴族くらいしか存在しない。
(それにしても・・。わざわざ山に登らなくても。)
そう思って、ちらりと兄の後ろに見える景色に目をやる。
(きっとこの風景を見せたかったのよね。それに見ないと理解できなかったわ。大変だったけど。)
恨みがましく兄を見た。
近くで見る兄の顔は恐ろしく整っていて、なんの意図もないのがわかっていたが顔が赤くなる。
それを誤魔化すように、兄に尋ねた。
「私の未来はまだ確定されたわけではないのですか?」
すると兄は穏やかな笑顔を見せた。
「確定された未来というものは存在しない。全てはベル次第だ。」
(ふふふ。全ては自分次第なんて、まるで物語のセリフみたいね。でも学校設立と交換にするほどの婚姻を不毛だなんて、父と兄は何を考えているのかしら?)
そんなことを考えていると、鼻に一瞬、柔らかさを感じた。
驚いて、兄を見ると兄が私の肩から手を離して目を細めた。
「な・・な・・今の、キ・・キス・・!!し、しかも、鼻!!ちょ、お兄様、それは・・・!!」
顔を真っ赤にして声にならない声を出していると、兄が楽しそうに笑った。
「期待されていたみたいだったからな。」
「~~~~~~!!!」
(え?もしかして、キスだと思って目を瞑ったのがバレてた~~!!!
それで、期待に答えた~~~???紳士っ!!怖い!兄の紳士さが怖い!!)
「紳士なら見て見ぬふりをして下さい~~!!紳士の無駄遣いです!!」
「ははは。」
兄が笑いながら、背を向けて護衛の方に歩き出した。
「笑いごとではありません!!」
(くぅ~。こっちはキスでドキドキしてるのに~~!!
兄ってばいつもと全く、ちっとも、全然変わらないし!)
すると、少し離れた兄が何かを呟いた。
「これでも我慢したのだがな。」
「お兄様~なんておっしゃたんですか?聞いてますか!?」
小走りに兄に追いついて、横に並ぶ。
「なんでもない。ほら、近くに数種類の花が群生している場所がある。そこで昼食にするぞ。」
「数種類の花が群生って、つまりはお花畑ですね。」
「そうとも言うな。よし、そこに咲く花の特徴を後日まとめて・・・。」
「さぁ!!お兄様。お花畑で美味しいお弁当を食べましょう!!
何も考えずに、一切思考せずに、ただ美しい景色と、美味しいお弁当を堪能しましょう!!」
そうして、山頂を後にした。
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