我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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31 知る(後半)

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「ベルのおかげで、我が領に学校を設立する許可が下りたんだ。」

兄の言葉を私の脳は、理解するのを拒んでいた。

(どういうこと?意味がわからない・・。)

兄が自分の拳をきつく握りしめるのがわかった。
どこか人ごとで、映画の中の登場人物の話のように現実味が全くなかった。

「クリストフ殿下の妃として、ベルを王家に迎えることを条件に・・・我が領は学校設立の許可を得たのだ。」
「まさか・・。そんな。」

(え?私の結婚と引き換えに、そんな大事なことを認めてもいいの?
でも、それが通ってしまうところが公爵令嬢という価値!?
なんて、重いの・・。重圧で倒れそうだわ!!)

「嘘ではない。だからこそ、記憶を無くしたおまえと殿下の婚約を、今の段階では破棄することが出来なかった。」
「・・・・。」

兄が心配そうに顔を覗き込んできた。
無意識に唇を噛み締めていた。

「そんな、重要な取引があるのなら、婚約破棄など恐ろしいことを提案しないで下さいませ!!」
「ベル?」

兄の驚いた顔が余計に私のちっぽけなプライドを傷つけた。

「正直、私には今日まで公爵令嬢とは何か全く理解しておりませんでした。
しかし、自分の目で領地を見て、そこに住む人達を想像した後に、学校設立をふいにしてまで婚約を破棄したいだの我儘を言うほど、このベルナデット、落ちぶれてはおりません。」
「・・・ベル。」

(多くの人の学びの機会を平気で奪えるほど、兄には私が傲慢に見えるのかしら。兄に信頼されていると思っていたのに・・。私、ちっとも信頼されていなかったのね。悲しいわ。)

兄の自分への信頼のなさに悲しくなって、自分でもはっとした。

(何が悲しいよ・・。兄にそう思わせたのは、私の態度のせいだわ。散々兄に迷惑をかけて、弱音を吐いて、そんな私を今更、信用しろだなんて・・。被害妄想ね。自業自得だわ。)

私は大きく息を吸い、兄の顔を見据えた。

「お兄様、安心して下さい。わたくし、何があっても必ず王妃になります。」
「ベル。そうではない。おまえが決意しなければならないのは、王妃になることではない。だが、おまえのその領民を思う気持ちは素晴らしいな。」

・・・・・・・。

「は?」
「王妃に必ずなることはない。わかるか?」

兄は、私の一世一代の決意をさらりと跳ねのけた。
しかも、兄はやれやれと少し呆れ顔だ。

(どうして、私の決死の思いで言ったことが『斜め上のこと言ってるな、こいつ』って顔されなきゃいけないの?!)

私が戸惑っていると、兄が私の両肩に手を乗せ、正面から顔を近づけてきた。

(え?なに?これって・・・!!)

思わず目を閉じる。


・・・・・・・・。

「目を開けろ。ベル。」

(あ、キスなわけがないわよね・・。まぁ、バレてはいないだろうけど、地味に恥ずかしいわ。)

目を開けると真剣な顔の兄と目があった。

「ベルが今受けている王妃教育は間違いなく、我が国の誇る最高の教育だ。」

(・・・・?最高の教育?)

「いいか、おまえは先のことは一切考えず、最高の教育を自分のものにすることだけに集中しろ。」

(先のことは一切考えない?)

きっと私は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていただろう。

「結婚だの王妃など、不毛なことなど考える必要はない。一つでも多くのことを学べ。おまえが学ぶことで、新しい道が開ける。」

(結婚や王妃が不毛???大丈夫かしらそんなことを言って!!誰かに聞かれたら不敬罪になるんじゃないかしら。)

思わず辺りを見回してみたが、ここは山の上。護衛は近くにはいない。
誰かに聞かれる心配はないだろう。
そして、ようやく兄の意図に気付いた。

「まさか、お兄様。この話をするためにここに連れてきたのですか?」

すると兄はしっれと、「そうだ。」と言った。

「最近のおまえは、あまりにも将来に不安を持っていたみたいだったからな。ベルにとって、今、一番大切なことを伝えたかった。」

溜息をついて、近くにある兄の顔を見つめる。

「屋敷ではダメだったのですか?そのお話。」
「ダメだな。間者がどこにいるかわからないからな。」

そうだ。公爵家にはスパイが普通にいる。しかも、中には自分がスパイだと認識していない人も多い。
誰でも、身分が自分より上の人に情報を提供を求められたら、簡単に報告するのが普通だ。守秘義務という感覚はこちらでは、王族と上位貴族くらいしか存在しない。

(それにしても・・。わざわざ山に登らなくても。)

そう思って、ちらりと兄の後ろに見える景色に目をやる。

(きっとこの風景を見せたかったのよね。それに見ないと理解できなかったわ。大変だったけど。)

恨みがましく兄を見た。
近くで見る兄の顔は恐ろしく整っていて、なんの意図もないのがわかっていたが顔が赤くなる。
それを誤魔化すように、兄に尋ねた。

「私の未来はまだ確定されたわけではないのですか?」

すると兄は穏やかな笑顔を見せた。

「確定された未来というものは存在しない。全てはベル次第だ。」

(ふふふ。全ては自分次第なんて、まるで物語のセリフみたいね。でも学校設立と交換にするほどの婚姻を不毛だなんて、父と兄は何を考えているのかしら?)

そんなことを考えていると、鼻に一瞬、柔らかさを感じた。
驚いて、兄を見ると兄が私の肩から手を離して目を細めた。

「な・・な・・今の、キ・・キス・・!!し、しかも、鼻!!ちょ、お兄様、それは・・・!!」

顔を真っ赤にして声にならない声を出していると、兄が楽しそうに笑った。

「期待されていたみたいだったからな。」
「~~~~~~!!!」

(え?もしかして、キスだと思って目を瞑ったのがバレてた~~!!!
それで、期待に答えた~~~???紳士っ!!怖い!兄の紳士さが怖い!!)

「紳士なら見て見ぬふりをして下さい~~!!紳士の無駄遣いです!!」
「ははは。」

兄が笑いながら、背を向けて護衛の方に歩き出した。

「笑いごとではありません!!」

(くぅ~。こっちはキスでドキドキしてるのに~~!!
兄ってばいつもと全く、ちっとも、全然変わらないし!)

すると、少し離れた兄が何かを呟いた。

「これでも我慢したのだがな。」


「お兄様~なんておっしゃたんですか?聞いてますか!?」

小走りに兄に追いついて、横に並ぶ。

「なんでもない。ほら、近くに数種類の花が群生している場所がある。そこで昼食にするぞ。」
「数種類の花が群生って、つまりはお花畑ですね。」
「そうとも言うな。よし、そこに咲く花の特徴を後日まとめて・・・。」
「さぁ!!お兄様。お花畑で美味しいお弁当を食べましょう!!
何も考えずに、一切思考せずに、ただ美しい景色と、美味しいお弁当を堪能しましょう!!」

そうして、山頂を後にした。
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