我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

文字の大きさ
42 / 145
共通ルート

40 知らされた真実

しおりを挟む
2人がお茶の席につくと、トリスタン様がにっこりと笑った。

「ねぇ。ベル。この国に音楽芸術学院が作られることは知ってる?」
「はい。」

(知ってますよ~~!!私はそこに入りたいんですから~~。)

「そこに入学するかい?」
「え?」

私はあまりのことにパニックになっていた。

「え?え?音楽芸術学院に入学?
だって、私、殿下のおまけじゃ・・。」

その言葉にトリスタン様が悲しい顔をした。

「はぁ~。そう思うよね・・。
だから私は反対したのに・・。」
「え?」
「いや。なんでもないよ。」

そして、トリスタン様に真剣な顔で見つめられた。

「いいかいベル。
君はおまけなんかじゃない。
君は君が思うように生きていいんだよ。
私はそれを助けるよ。
だから困った事があったらすぐに相談してくれ。
今回のようにエリックに相談してくれればいいから。」

私は思わず兄を見た。

「お兄様に?」

トリスタン様は優雅に笑った。

「ああ。恥ずかしいけど、エリックから報告を受けるまで私は君がまるで自分を殿下のおまけのように思っているなんて思いもしなくてね。
エリックが教えてくれて助かった。」
「お兄様が・・。」

(・・・?でも、お兄様はどうして、この方に相談したのかしら?)

チラリとお父様の顔を見ると、お父様と目が合って微笑まれた。

(どうして、お父様に言わなかったのかしら?
それともお父様に言って下さったからこそ、この方がいらした??
この方、音楽関係の方なのかしら??)

私はトリスタン様を正面から真っすぐに見つめると、にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。
私、音楽芸術学院に入学したいです。
よろしくお願い致します。」

すると、トリスタン様に抱きしめられて頬擦りをされた。

「ああ~~なんて可愛いんだ~~。
ベル~~可愛い~~。
我が最愛の娘ベルナデット!!」

・・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。

(最愛の娘?え?誰が?)

聞き間違えたのだろう。
そうだ。そうに違いない。

「・・・・最愛の娘・・・娘?」

どうやら知らない内に声に出していたらしい。
私が固まっていると、父が溜息をついた。

「ねぇ。トリスタン・・・。
もう少し、他のタイミングはなかったのかい?」

すると、父が近づいてきて視線を合わせた。

「こんな形で知らせることを許しておくれ。
君の本当の父親は、私ではなくトリスタンなんだ。」
「え?」

私は思わず、トリスタン様を見た。
すると、今度はトリスタン様が優しい顔で私を見た。

「黙っててごめん。
私が君の父のトリスタンだよ。
ベルの母親はね、隣国にいる。
理由があって一緒には住めないんだけど、いつもベルのことを思ってるよ。」
「私の本当のお母様?」
「ああ。君の母親はブリジットって言うんだよ。」
「ブリジット・・?」

(え?隣国?ブリジット??
え?どういうこと?)

そこまで考えて、寒気がした。
どうして今、そんなことを私に教えたのだろう?
もしかして、私はここから追い出されるのだろうか?

私は急に不安になって、父、アトルワ公爵を見た。

「私はこれからどうなるのですか?
ここにいてもいいのですか?」

父とは本当の親子ではない。
きっと私は泣きそうな顔をしていたのだろう。

「もちろんだよ。不安にならなくていい。
ずっとここにいていいんだよ。」

そう言って、アトルワ公爵が抱きしめてくれた。

(追い出されなくてよかった。)

「これからはなんとお呼びすればいいでしょうか?」
「これまで通りでいいよ。
私はベルナデットを本当の娘のように思っているからね。」

父はそういうと、また私を抱きしめてくれた。

すると横からトリスタン様の声が聞こえた。

「あの・・ベル・・。
出来れば、私は父と呼んでほしいのだけど・・。
ダメかい?今更、図々しいかい?」

そして、私の実父は眉を寄せて泣きそうな顔をした。

(またそんな顔して・・。
でも私この顔に弱いのよね~。
これって血のせい??)

「では、父上とお呼びします。
お父様はお父様だけですもの。」
「ありがとうベル~~~。
充分だよ~~。
実は7年前からずっと呼ばれたかったんだよ~~~!!
夢だったんだ~~~。
ベルに父と呼ばれたかった~~。」

(7年前!!赤ちゃん!!それ私、赤ちゃん!!)

私はトリスタン様を見て、「父上」と言った。
すると、実父は破顔した。

それから、実父は私に頬擦りをしまくり、頭をなでまくった後、名残惜しそうに帰っていった。
どうやら恐ろしく多忙な中、このためにわざわざ来てくれたようだった。




見送りを終え、部屋に戻る兄の背中を見てはたと気付いた。

(あれ?じゃあ、私、兄と兄妹じゃない・・・?)

私は不安になって、「お兄様!!!」と大きな声を出して引き留めてしまった。

「なんだ?」

兄がいつものように振り返った。
呼び止めてしまったものの兄になんと言って声をかければいいのかわからなかった。

それに、兄との関係が変わってしまうのも寂しかった。

(今までずっと側にいられたのに・・。)

私が固まっていると、兄が小さく笑った。

「もう一度一緒に演奏するか?」

兄の言葉に私は思わず口元が上がった。

「はい!!ぜひ!!」

その日は兄と心ゆくまで演奏した。
兄のチェロの音と私の音が溶け合う感覚はとても優しく穏やかで甘美だった。



演奏が終わり、そろそろ就寝の時間になった。
私たちは楽器を片付け、部屋を出ようとした。

「ベル。」

すると、兄から呼び止められた。

「なんですか?お兄様?」

すると、兄はつかつかと近づいてきて、私の頬にキスをした。

(え??)

私は驚いて兄の顔を見た。
すると、兄が小さく笑った。

「ベル。私たちは兄妹ではない。」

その言葉に胸にトゲが刺さったような痛みを感じた。
兄に他人だと線を引かれたようで、私は胸が痛くなった。

(兄の側を離れるのは・・つらい・・な・・。)

「私は妹にこんなことはしない。忘れるなよ?」

そう言って、今度はおでこにキスをした。

「おやすみ。よい夢を。」

そのまま、部屋を出て行った。

私はそのまま、へたへたと床に座り込んでしまった。
兄にキスをされた、頬とおでこが熱かった。

(妹にこんなことはしない?・・え?
・・・・何それ?
え?・・)

そして、真っ赤になって熱を持った顔を両手で覆った。

(それって、まるで私のことが・・・。
え?何それ?・・え?)

心臓が壊れそうなくらい脈を打っていた。

今日はたくさん驚くことがあった。

音楽芸術学院への入学許可
本当の父親は、トリスタン様
そして、母親は、隣国のブリジットさん。

だがそれらのすべてよりも、先程の兄の言葉は私に衝撃を与えた。
それから私は、マリーの手を借り、部屋の戻ったらしいが、詳しく覚えていない。
とても眠れそうもないと思ったが、私はいつの間にか眠っていた。

夢の中でベルナデットが笑った気がした。
もしかしたら、彼女が眠りを手伝ってくれたのかもしれない。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない

櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。  手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。 大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。 成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで? 歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった! 出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。 騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる? 5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。 ハッピーエンドです。 完結しています。 小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

処理中です...