我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

文字の大きさ
87 / 145
【サミュエル】(学院発展ルート)

16 選択した未来

しおりを挟む



私は、女王になると言ってしまった。

そう。

言ってしまったのだ……。




一度、深呼吸をしてもいいだろうか?

ついでに、頭を抱えてもいいだろうか?

ついでに現実逃避をするために、超絶技巧のヴァイオリン曲を弾いてきてもいいだろうか?


ココハドコ?

ワタシハダレ?


あまりの荷が重すぎる決断に、私は、真っ白の灰になってしまった。

「ところで、ベルとサミュはキスはしてるんでしょ?」

真っ白に燃え尽きている私に、再び女王陛下の爆弾が落とされた。

(お母様!! な、なんてことを聞くんですかぁ~?!)

「キ、キス……あいさつ程度でしょうか」

隣を見ると、女王陛下のご質問を無視する訳にもいかないサミュエル先生が真っ赤な顔で、母の質問に答えていた。

(ああ!! サミュエル先生になんて質問を!! 私の母が破廉恥ですみません!!)

私は穴に入りたい程の羞恥心を感じた。

「え? そうなのかい?? 困ったなぁ~」

すると実父が訳のわからないことを言ってきた。

「困るとは?」

私は思わず実父を不審な目で見てしまった。

「いやね。お披露目式では、たくさんの人の前で愛を誓わなければいけないんだ。
数代前までは、初夜をみんなに披露していたんだけど……。
それはちょっと……ってことになって、キスの披露になったんだ。
最低でも30分以上は必須だな。まぁ大体1時間くらいみんなの前でキスすることになるけど、キスしたことなくて大丈夫かな?」

(ん? 聞き間違えかな? 今、とてつもなく恐ろしい単語が出なかった?)

「初夜披露ではなくてよかったでしょ?」

お母様は「ふふふん」と得意げに言った。

「初……初夜披露?」

サミュエル先生が真っ赤な顔で呟くように言った。

「いや、それはなくなったから。代わりに1時間くらいのキス披露でいいからね」

実父が慌てて言った。


ーー……1時間のキス披露。


もう一度、深呼吸をしてもいいだろうか?

ついでに、頭を抱えてもいいだろうか?

ついでに現実逃避をするために、超絶技巧のヴァイオリン曲を弾いてきてもいいだろうか?


ココハドコ?

ワタシハダレ?

ダレカタスケテ。


「あの、一応お伺い致しますが、冗談ってことは?」

私は、母と実父の顔を見た。


「ふふふふ。……冗談じゃないわ」

お母様は笑ってない目で見つめた後、真剣な顔で私を見た。

「はははは。……冗談なら…どれほどよかったか」

実父が遠い目をした。

「何が悲しくて、可愛い娘のキスシーンを延々と見せられなきゃいけないんだ!!
本当なら、嫁になんて出したくないんだ!!
ああ!! 見たくない!! 見たくない!! 見たくな~~い!!」

すると母が実父を見た後、私とサミュエル先生を見た。

「ということで本当よ? 理解した?」

どうやら、やっぱりこれは事実のようだ。
冗談ではないらしい。
私が愕然としていると、サミュエル先生に両手を握られて、見つめられた。

視界の端に両親がソロリソロリと隣の部屋に移動している姿が見えた。
気が付くと、部屋には私とサミュエル先生の2人だけになっていた。

「あの……ベルナデット様。
本当に私が相手でもいいのでしょうか?」

「え?」

サミュエル先生が不安そうな顔で私を見つめていた。

「みんなの前で、キ、キスをして愛を示す相手が私でもいいのですか?」

サミュエル先生の手が震えていた。

(ああ、私は肝心なことが見えていなかったのね)




そうだ。

怒涛の展開ですっかり忘れていたが、これは私とサミュエル先生が今後、共に歩むという誓いなのだ。
『女王打診』に『キス披露』と爆弾発言ばかりで、大切なことを見落としていた。

私は小さく息を吐くとサミュエル先生を見つめた。

「私が共に歩みたいと思っていた相手は昔からあなただけです」

「え? 昔から?」

私は自分の言葉に今更ながら驚いた。

「そう……昔から」

(ああ、そうか……私ずっと、サミュエル先生のことが好きだったんだ)

こんな状況に追い詰められるまで、私は自分の心に気づけなかったのだ。
私はサミュエル先生を見つめた。

「昔からずっとあなたのことが好きです」

するとサミュエル先生に抱きしめれた。

「……夢みたいだ……ずっと、私だけが……あなたのことを……好きだと……」

サミュエル先生は泣いてた。
私もいつの間にか泣いていた。


涙を流しながら、サミュエル先生と見つめ合った。


サミュエル先生の顔が段々と近づいてきた。


私は自然に目を閉じた。
すると唇に体温を感じた。
とても柔らかい感触に私たちは夢中になっていた。



ーー……これが、初めてのキスだった。


初めてのキスは涙で少しだけしょっぱいと思った。


+++


「ふふふ。まさか、あの小さかったサミュと娘のベルがねぇ」

ブリジットは隣室で、微笑ましげに目を細めた。
彼女にとって娘との思い出より、サミュエルとの思い出の方が多い。
ブリジットにとって、サミュエルは唯一の生徒だった。

「人生何があるかわからないね」

トリスタンがブリジットの肩を優しく抱き寄せた。

「ふふふ。そうね。まさか、サミュがベルにヴァイオリンを教えてくれることになるなんて」

ブリジットが嬉しそうに笑うとトリスタンが目を細めた。

「驚くのはまだ早いよ」

「え?」

「ベルの演奏は本当に君の音色にそっくりなんだ」

「ふふふ。もうそれは何度も聞いたわ。早く聴きたいわ。あの2人の音色が。
それにあの2人を見てると昔を思い出すわ」

ブリジットが笑うとトリスタンがブリジットにキスをした。

「懐かしいね」

「そうね。サミュはあなたほど強引じゃないみたいだけど」

「そう? あの子だって、表に出してないだけだよ。いざとなったら私なんて太刀打ちできないくらい強引な気がするな~彼」

「ふふふ。そうかもね……確かにそうかもね」

そう言って2人はまたキスをした。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





【 在りし日のブリジットとトリスタン エピソード出現 】
 Episode CLOSE(・・・coming soon)


【 在りし日のブリジットとサミュエル エピソード出現 】
 Episode CLOSE(・・・coming soon)







しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】氷の王太子に嫁いだら、毎晩甘やかされすぎて困っています

22時完結
恋愛
王国一の冷血漢と噂される王太子レオナード殿下。 誰に対しても冷たく、感情を見せることがないことから、「氷の王太子」と恐れられている。 そんな彼との政略結婚が決まったのは、公爵家の地味な令嬢リリア。 (殿下は私に興味なんてないはず……) 結婚前はそう思っていたのに―― 「リリア、寒くないか?」 「……え?」 「もっとこっちに寄れ。俺の腕の中なら、温かいだろう?」 冷酷なはずの殿下が、新婚初夜から優しすぎる!? それどころか、毎晩のように甘やかされ、気づけば離してもらえなくなっていた。 「お前の笑顔は俺だけのものだ。他の男に見せるな」 「こんなに可愛いお前を、冷たく扱うわけがないだろう?」 (ちょ、待ってください! 殿下、本当に氷のように冷たい人なんですよね!?) 結婚してみたら、噂とは真逆で、私にだけ甘すぎる旦那様だったようです――!?

「転生したら推しの悪役宰相と婚約してました!?」〜推しが今日も溺愛してきます〜 (旧題:転生したら報われない悪役夫を溺愛することになった件)

透子(とおるこ)
恋愛
読んでいた小説の中で一番好きだった“悪役宰相グラヴィス”。 有能で冷たく見えるけど、本当は一途で優しい――そんな彼が、報われずに処刑された。 「今度こそ、彼を幸せにしてあげたい」 そう願った瞬間、気づけば私は物語の姫ジェニエットに転生していて―― しかも、彼との“政略結婚”が目前!? 婚約から始まる、再構築系・年の差溺愛ラブ。 “報われない推し”が、今度こそ幸せになるお話。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

処理中です...