5 / 12
本章
綱吉と竜二
しおりを挟む目が覚めれば、見慣れない天井に見慣れない部屋。
一番最初に思い浮かんだ言葉は
”また、死ねなかった……” だ。
少年は名を ”成瀬 綱吉”という。
いくら払っても一向に減らない借金。
返済期日が迫るたび逃げ回る生活に
ほとほと疲れ果て ――、
竜二達の乗ったセルシオが急停止した
道の傍にあるビルの屋上から飛び降りたのだが……
”ここでこうして目が覚めた”という事は
まだ自分は生きている、という事だろう。
綱吉はこれまで少なくとも5回はそんな自殺を
試みて来たが。
いずれも失敗 ―― 未遂で終わっていた。
リストカットしても・睡眠薬でも・
真冬の海に飛び込んでも、何故か誰かに発見され、
一命を取り留めてしまうのだ。
前回は踏切に立ち走ってくる列車へ飛び込もうとした。
けど ――
つい自分の身体がバラバラになった状態を
想像してしまって、思いとどまった。
だから今度こそ ”確実に死ねるよう”
飛び降りに変更したのだ。
結局は死ねなかったのである……。
(とりあえず、今何時なんだろ?)
部屋にある壁掛け時計は8時を示している。
(あぁ ―― 店長に休みの連絡入れてねぇや……
クビ確定)
「とりあえず起きなきゃ……」
―― ズドンッ!
まだ寝惚けていたせいでベッドから思い切り落ち、
したたかにお尻を打ちつけた。
「いててて……」
―― バタン!
「おい、何してる」
勢いよく扉が開いたと思えば、
駆け込んで来たのはパジャマ姿でも凛々しい竜二だ。
彼を見た瞬間、綱吉は ”あれっ”こいつと何処かで
あったような気がする……と思ったが、どうしても
思い出せず彼の端正な顔を見つめたまま固まった。
「大丈夫、か?」
「は? あ、何って……とりあえず、起きようと
思いまして……」
そう言い終わったところで、綱吉の腹の虫が
ギュルギュル~~っと鳴った。
「良かった。身体は丈夫そうだな」
「は、ぁ、お陰さまで」
(こいつは、何なんだ?)
そう思いつつ立とうとすれば、
さっきベッドから落ちた時に打ったお尻以外が
その頃になって痛み出し、立てず、
よろけてその場にへたり込んだ。
あぁ、情けねぇ……
「どうした?」
「あ、い、いや……」
「どこか痛むのか?」
「ん ―― まぁ、そんなとこです」
彼は「はぁー」とため息をつき
綱吉を軽々と抱き上げベッドに座るようにして
ストンと置いてくれた。
そして綱吉に目線を合わせるようにしてしゃがむ。
「どこが痛い?」
「どこって……全部? みたいなー」
「診るぞ」
綱吉が止める間もなく、
シャツがめくり上げられ、
竜二は大きく目を見開いて驚いた。
両親が自殺後、それといった身寄りのない綱吉は
譜系を末端まで辿ってやっと見つかった遠縁の
親戚宅に預けられた。
彼が見て驚いたのは、綱吉の身体の至る所に残った
傷痕だ。
遠縁の叔母やその家族から連日殴る・蹴るの暴力を
加えられていたから、そんな怪我の跡なんて
そう簡単に消えるわけがない。
家業柄、この手の疵なら見慣れている竜二は、
綱吉の疵が喧嘩や自傷で出来たモノではないと
ひと目で見抜いた。
・
「誰にやられた」
「……」
初対面の名も知らない男に教える義理はない。
学校の友達にさえ言っていないのに……
言えるはずなんてないんだ。
(ってか、そんなのあんたに関係ないじゃん)
と、思って、綱吉は目線を逸らし黙り込んだ。
すると急に竜二は立ち上がり隣の部屋へと
綱吉を残して行ってしまった。
怒らせてしまったのだろうか?
いや、きっとあきれたんだ、と考えていると
救急箱らしき物を持ってきて、また綱吉の近くに
しゃがんだ。
「手当てしてやるから全部脱げ」
「別にいいよ」
「ちっとも良かぁない。従わねぇなら押さえつけてでも
脱がすぞ」
恐る恐る竜二の表情を見れば、
真顔だったので怖くなって渋々服を脱ぐ。
昨日の傷や今までの傷……それら全てが竜二によって
手当てされていく。
そんな竜二を見ながら綱吉は ”変な奴だな~”
なんて思っていた。
「ほら、もういいぞ」
そう言われて、脱いだ服を急いで身に着けた。
男同士とは言えど、知らない人に裸を見せるのは
少し恥ずかしかった。
「ありがとう……」
「で、誰にやられたんだ?」
(話し蒸し返すなよ……そんなのあんたが知った
ところで、何の得にもならないだろ)
しかし竜二はよほど知りたいのか?
綱吉の肩をガッツリ掴み、ばっちり視線も合わせ
半端ない威圧をかけてくる。
「……」
「話すのが辛いなら無理に話せとは言わねえが、
誰かに言って楽になる事もある」
思いがけない竜二の優しい口調と言葉に、
頑なな綱吉の心も微かに揺れ動く……が。
そんなすぐには素直にも、
目の前のイケメンの事も信じる事ができず、
綱吉はだんまりを続けた。
「……」
「ま、いいか。お前の身の上話は追々聞くとして、
腹減っただろ? 朝飯できてっから」
と、竜二は妙に弾んだ足取りでこの部屋から
出て行った。
1人に戻ったところで、
改めて室内を見回してみた。
…… …… ……
今まで世話になっていた叔母の家だって、
旦那(叔父)が開業医だから世間一般的に言って、
ちょっとは裕福な家庭だったと思う。
だけど、この家は ――
壁に掛けられている絵画や無造作に置かれている
アンティークの置物ひとつ取っても
叔母の家とは桁違いの金持ち臭が漂っている。
『ツナ~っ! 早く来いよぉー』
隣室から聞こえてきた声に
”はーい”って返事をして慌てて立ち上がり、
ふと思った。
……??
(俺、あいつにいつ名前教えたっけ?)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる