改訂版『土壇場の恋・あなたならどうする?』

NADIA 川上

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本章

綱吉と竜二 ―― ③

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 シャワーを終え脱衣所に出ると、
 例のイケメン君が ”待ってました”みたいな感じで
 立ってたから。
 思わず俺は ”げっ!”となって、とりあえず
 大事なところは手で隠した。
 
 
「ささ、これにお着替えねー」


 突き出されたのは、大きな紙袋。
 多分中身は服だと思われる。


「って、え? スーツ? 俺じゃ似合わないって」


 まさかスーツ着て外めしって、
 高級レストランとか料亭の類なんか?
 
 そんなの俺、絶対無理! だから。
 

「テーブルマナーが必要な堅苦しい店なんか
 嫌ですよ」
 

 さすがに昨日の今日でオーダーメイドでは
 なさそうだが、やけにサイズが合っている
 その洋服に怯む。 


「そんなの分かってるよ。何でもいいから、さっさと
 着替えろ」
 
 
 上手い具合に言いくるめられ、
 俺はあれよあれよという間に着替えさせられ、
 どこかで見覚えのある黒塗りの高級車に
 押し込まれてしまった。 


 普通、乗車するのが運転手を含め身内だけの場合、
 上座は「助手席」になるハズだが。
 
 運転手はきっちり黒いスーツ姿の何となくチャラい
 感じのお兄さんで。

 助手席にはやけに顔の整った、
 これまた黒いスーツの男が乗っていた。


「あぁ ―― この2人はこれからもちょくちょく
 顔を合わせると思うから紹介しとくな。運転してん
 のが浜尾良守。助手席のおっさんは、俺の秘書
 八木だ」
 

 2人はそれぞれ俺に向かって目礼した。
 
 
「秘書 ―― って?」

「社長……もしや、自己紹介もまだなのですか?」


 ”八木”と言われた男が前を向いたまま言った。
 
 
「あーっ! そういやぁーそうだったな」


 って、ガハハハ ―― と笑い飛ばすイケメン君。    


「俺、竜二竜二、ヨロシクな」

「お、俺、いや、僕は成瀬綱吉です」

「やだなぁ~、そんな急に畏まるなよ。俺の事は
 竜二って呼んでくれや」
 
 
 砕けた口調は相変わらずだけど……
      
 あのマンションといい、
 この高級車といい ―― 
 よもや一般人だとは思ってねぇし。

 よーく見れば、八木さんも、一見チャラい浜尾さんも
 
 ”夜の世界の雰囲気をまとっている”というか……
 気軽には近寄り難い雰囲気がある。
 
 
 
「ええっと……社長さん?」

「あぁ。一応親父から受け継いだ会社動かしてる」

「へぇ~……」


 マジマジと隣を見ていきなりある事を思い出し、
 声を上げそうになって、自分の口を両手で覆った。
 
 
 (嘘、だろ ―― まさか、な……)
 

「何だ。何か言いたそうだな」


 ククッと喉の奥を鳴らして笑う。
 愉悦に揺れる顔まで綺麗で目眩がしてくる。


「……もしかして、祠堂学院の卒業生だったり
 します?」

「まぁな」

「じゃあ……」


 知ってる……

 そっちの事情に疎い俺でもこの男の事は
 知っている。


 手嶌組系筆頭二次団体 
 
 煌竜会 若頭 手嶌 竜二。

 二つ名を ”ハマの狂犬”


 義理人情に厚い反面 ――

 裏切り者には情け容赦ない鉄槌を下す。

 横浜・下町の歓楽街に地上げの嵐が吹き荒れた
 バブル絶頂期 ――
 
 1人で敵対組織の一斉排除にあたり、
 多い時は50人以上の強面達と大立ち回りをして
 全員病院送りにしたって逸話は、
 未だに語り継がれている。
 
 桜木町や元町を根城にちまちまと小遣い稼ぎを
 してた俺らにとって彼は ”神様以上”の存在。
 
 肩を並べ同じ場所に座る事なんかないと
 思っていた……。


 俺って、ツイてる?
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