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彼女と愛息と芋ようかん
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今日、大地の通っている区立麹町小学校は
創立記念日でお休み。
俺は半年ぶりに有給を取って、
日頃淋しい思いをさせている大地に
ちょっとしたサービスのつもりで、
前々から強請られていた水族館と
ポケモンセンターへ行き、
その帰りにデパ地下の食品売り場へ
立ち寄った。
時間は午後1時を少し過ぎたところ ――。
「ね、ね、お父さん。ホントに今日は
ずーっと一緒ですか?」
「おぉ、ずーっと一緒だ」
「途中で社長さんの所へ行ったり
しませんか?」
「あぁ、今日は大丈夫。
ちゃんと有に頼んできたからな」
有(たもつ)ってのは秘書兼アシスタント兼
雑用係だ。
「わーい、じゃ、お昼ご飯はお父さんのオムライスが
食べたいです!
「オッケーお安いご用だ……なぁ大地、
いつもあんまり一緒にいてあげられなくて
ごめんな」
「ううん ”ごめんね” は
言いっこなしです。大地はお仕事してる
お父さんも大好きだから」
子供は親の背中を見て育つ、
とは良く言ったものだ。
今、この老舗デパートの地下食品売り場
では”全国駅弁フェア” なる催し物を
開催中で、平日でも結構な人混みだ。
「うわぁぁ~想像以上の混み具合だなぁ……
大地ぃ、手、離しちゃだめだぞ」
「はぁ~い」
って、返事は良かったが。
久しぶりのお出かけに大地は何時になく
ハイテンションで。
1分1秒でも早く目的の和スウィーツを買いに
行きたくてウズウズしている。
「ね、お父さんっ、見つけた! あそこだよ。
芋ようかんのお店」
「――では、大地隊員、ゲットの前に偵察だ。
先に売り場を見てきて下さい」
「はいっ! 了解です。宇佐見隊長」
大地は喜び勇んで俺より2~3歩先に
売り場へ小走りで行った。
そして、
お目当ての芋ようかんを発見し大喜び。
「うわぁぁ、お父さん。あったよ、あった!
永禄堂の芋ようかん!」
「おぉ! ホントだ、あったな」
って、手を伸ばした芋ようかんに
もうひとつ手が横から伸ばされてきて。
それは女性のしなやかな手で ――。
2人同時に声を上げた。
「「あ ―― っ」」
「すみませ ――」
と、言いながら互いを見れば、何と!
「なんだ、和巴 ――」
「宇佐見さん……」
プライベートの宇佐見さんはスーツじゃなくて、
ラフなデニムとニットを着てた。
髪の毛はきちんとセットされていて、
無精ひげもさっぱり剃られていた。
恰好はどうであれ、ほんとにかなりのイケメン。
「あ ―― その節はどうも、です……」
「いやはや何とも……」
「……お父さん? どうしたですかぁ?
芋ようかん、買わないんですか?
偵察、失敗ですかぁ?」
「あ、いや、大地……」
「あ ―― お子さん、ですか?」
「は、はぁ ―― ハハハ……」
和巴はその芋ようかんを手に取り、
大地の前に屈んで芋ようかんを手渡した。
「はい、どうぞ」
大地はつい条件反射で受け取ってしまってから、
俺の様子を伺っている。
「あ、どうもすみません ―― ほら大地、
こうゆう時はちゃんとお礼しなきゃ」
「あ、はい! ありがとうございました」
「いいえ、どう致しまして。―― 大地くんは
幾つですか?」
「8才です」
「アハハ ―― いい子だ。ここだと歩いてる人が
たくさんだから、パパがお会計するまで、小母さんと
あっちで待っていようか」
「パパじゃあないです。お父さんです」
「あ、そっか ―― あっちでじゃあお父さん、
一緒に待とうね。―― 宇佐見さん、私達あそこの
休憩スペースにいますから、会計して来ていい
ですよ」
「あ、そうか? 助かる。すぐ戻るんで」
俺がレジで芋ようかんの会計を済ませ
2人の待つ休憩スペースへ向かうと、
和巴と大地はずっと前からの顔見知りの
ような雰囲気で和気あいあいと語らっていた。
実は彼女を”落とす”戦略として、
大地にひき会わす、って考えてたから、
俺にとってこの状況は凄くラッキーだった。
「アハハハ ~~ そっかぁ、偵察隊だったのー」
「はい。偵察大成功ですぅ ――あっ、お父さん」
「ごめんな、何か子守りさせちまったみたいで。
それに芋ようかん譲ってくれてサンキュ。大地の
奴、卵アレルギーがあって、子供が好きそうな
ケーキとかビスケットとか食えないんだ」
「まぁ。そうだったの ―― けど、この店の
芋ようかん、美味しいですよね」
「はいっ。すっごく美味しいです。――あ、でも……」
「んー? 何かな」
「……和巴さん、芋ようかん、食べられません」
「だ、大地……」
「美味しいモノは、仲良く分けて食べましょうって、
先生が言ってました。独り占めはダメだって。
あ ―― うちは、お父さんと僕の2人だから、
2人占めだけど……」
和巴と俺は思わず笑ってしまった。
「要するに大地は ”和巴さんもご一緒にいかが”
って言いたいのかなー?」
「そうです。お家で皆んな一緒に食べればいいです」
大地 グッジョブ!
「そんな……とんでもない」
「ふふふ……悪いけど、この子の言う通りに
してやって? こんなに活き活きしてんの
久しぶりなんだ」
「……そうですかぁ? では、お邪魔でなければ」
何か、大地のわがままをゴリ押しする形に
なってしまったが。
俺の狙い通り和巴は図々しいお願いを快く
聞き入れてくれた。
創立記念日でお休み。
俺は半年ぶりに有給を取って、
日頃淋しい思いをさせている大地に
ちょっとしたサービスのつもりで、
前々から強請られていた水族館と
ポケモンセンターへ行き、
その帰りにデパ地下の食品売り場へ
立ち寄った。
時間は午後1時を少し過ぎたところ ――。
「ね、ね、お父さん。ホントに今日は
ずーっと一緒ですか?」
「おぉ、ずーっと一緒だ」
「途中で社長さんの所へ行ったり
しませんか?」
「あぁ、今日は大丈夫。
ちゃんと有に頼んできたからな」
有(たもつ)ってのは秘書兼アシスタント兼
雑用係だ。
「わーい、じゃ、お昼ご飯はお父さんのオムライスが
食べたいです!
「オッケーお安いご用だ……なぁ大地、
いつもあんまり一緒にいてあげられなくて
ごめんな」
「ううん ”ごめんね” は
言いっこなしです。大地はお仕事してる
お父さんも大好きだから」
子供は親の背中を見て育つ、
とは良く言ったものだ。
今、この老舗デパートの地下食品売り場
では”全国駅弁フェア” なる催し物を
開催中で、平日でも結構な人混みだ。
「うわぁぁ~想像以上の混み具合だなぁ……
大地ぃ、手、離しちゃだめだぞ」
「はぁ~い」
って、返事は良かったが。
久しぶりのお出かけに大地は何時になく
ハイテンションで。
1分1秒でも早く目的の和スウィーツを買いに
行きたくてウズウズしている。
「ね、お父さんっ、見つけた! あそこだよ。
芋ようかんのお店」
「――では、大地隊員、ゲットの前に偵察だ。
先に売り場を見てきて下さい」
「はいっ! 了解です。宇佐見隊長」
大地は喜び勇んで俺より2~3歩先に
売り場へ小走りで行った。
そして、
お目当ての芋ようかんを発見し大喜び。
「うわぁぁ、お父さん。あったよ、あった!
永禄堂の芋ようかん!」
「おぉ! ホントだ、あったな」
って、手を伸ばした芋ようかんに
もうひとつ手が横から伸ばされてきて。
それは女性のしなやかな手で ――。
2人同時に声を上げた。
「「あ ―― っ」」
「すみませ ――」
と、言いながら互いを見れば、何と!
「なんだ、和巴 ――」
「宇佐見さん……」
プライベートの宇佐見さんはスーツじゃなくて、
ラフなデニムとニットを着てた。
髪の毛はきちんとセットされていて、
無精ひげもさっぱり剃られていた。
恰好はどうであれ、ほんとにかなりのイケメン。
「あ ―― その節はどうも、です……」
「いやはや何とも……」
「……お父さん? どうしたですかぁ?
芋ようかん、買わないんですか?
偵察、失敗ですかぁ?」
「あ、いや、大地……」
「あ ―― お子さん、ですか?」
「は、はぁ ―― ハハハ……」
和巴はその芋ようかんを手に取り、
大地の前に屈んで芋ようかんを手渡した。
「はい、どうぞ」
大地はつい条件反射で受け取ってしまってから、
俺の様子を伺っている。
「あ、どうもすみません ―― ほら大地、
こうゆう時はちゃんとお礼しなきゃ」
「あ、はい! ありがとうございました」
「いいえ、どう致しまして。―― 大地くんは
幾つですか?」
「8才です」
「アハハ ―― いい子だ。ここだと歩いてる人が
たくさんだから、パパがお会計するまで、小母さんと
あっちで待っていようか」
「パパじゃあないです。お父さんです」
「あ、そっか ―― あっちでじゃあお父さん、
一緒に待とうね。―― 宇佐見さん、私達あそこの
休憩スペースにいますから、会計して来ていい
ですよ」
「あ、そうか? 助かる。すぐ戻るんで」
俺がレジで芋ようかんの会計を済ませ
2人の待つ休憩スペースへ向かうと、
和巴と大地はずっと前からの顔見知りの
ような雰囲気で和気あいあいと語らっていた。
実は彼女を”落とす”戦略として、
大地にひき会わす、って考えてたから、
俺にとってこの状況は凄くラッキーだった。
「アハハハ ~~ そっかぁ、偵察隊だったのー」
「はい。偵察大成功ですぅ ――あっ、お父さん」
「ごめんな、何か子守りさせちまったみたいで。
それに芋ようかん譲ってくれてサンキュ。大地の
奴、卵アレルギーがあって、子供が好きそうな
ケーキとかビスケットとか食えないんだ」
「まぁ。そうだったの ―― けど、この店の
芋ようかん、美味しいですよね」
「はいっ。すっごく美味しいです。――あ、でも……」
「んー? 何かな」
「……和巴さん、芋ようかん、食べられません」
「だ、大地……」
「美味しいモノは、仲良く分けて食べましょうって、
先生が言ってました。独り占めはダメだって。
あ ―― うちは、お父さんと僕の2人だから、
2人占めだけど……」
和巴と俺は思わず笑ってしまった。
「要するに大地は ”和巴さんもご一緒にいかが”
って言いたいのかなー?」
「そうです。お家で皆んな一緒に食べればいいです」
大地 グッジョブ!
「そんな……とんでもない」
「ふふふ……悪いけど、この子の言う通りに
してやって? こんなに活き活きしてんの
久しぶりなんだ」
「……そうですかぁ? では、お邪魔でなければ」
何か、大地のわがままをゴリ押しする形に
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俺の狙い通り和巴は図々しいお願いを快く
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