7年目の本気

NADIA 川上

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第2章 東京編

祝賀会

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 医務室を後にした和巴は、
 メインスポンサーの㈱和凰堂 代表取締役社長
 佐渡宗一郎が主催した初日祝いが催されている、
 都内fホテルに来た。
 
 
 広い会場には立食形式の料理が並び、
 舞台の主要出演者や関係各人が参加している。

 ドレスに華やかなコサージュも付けた和巴は、
 人工的なウェーブの掛かる茶色い髪に
 それがよく似合っている。

 和巴がこんなドレスを着るのはもっぱら
 このようなパーティーの時だけだ。

 それも主催者のレベルの規模に寄っては
 セミフォーマルに近い格好で出向く時も多いので、
 ちゃんとしたフォーマルドレスに袖を通したのは
 2ヶ月ぶりくらいである。


「はぁ……」


 舞台を終え楽屋に戻った後も、
 和巴は匡煌に連絡を取ってはいなかった。

 このパーティーへ出席しなければいけないのは
 初めから解っていたので、
 たとえ連絡をとっても直ぐには会えない。

 それに、もしかしたら匡煌も出席せているのでは?
 と、思ったからだ。
 
 だけど、このホテルに向かうタクシーの中から
 パーティーの最中に至るまで、
 考えてしまうのは匡煌の事ばかりであった。

 ステージの上から見ていた彼と、
 最後にベッドの上で見た彼。

 匡煌は何のつもりであのような豪華な花を
 贈って寄越したのか、その意図は依然掴めずにいた。
 
 あんなモノが万が一、広嗣さんの目についたら
 どう説明するつもりだったのだろう……
 

「お、和巴。探したぞ~」

「清水さん……」


 和巴が壁際でソフトドリンクを飲んでいると、
 同じくフォーマルな装いに身を包んだ公爵役の
 清水が姿を見せた。

 長身で引き締まった身体の彼は容姿も甘く、
 そうしていると俳優かモデルでも通用しそうな
 雰囲気だ。

 彼は和巴が幼い頃バレエを習っていた教室の
 副校長をしていた。
 
 
「**先生が来てらっしゃる。
 相変わらず矍鑠としてお元気なお方だ」

「そうなんですか。あ、じゃぁ私も挨拶して来ないと」

「それが良い。お前は先生のお気に入りだったから
 お喜びになられる」

「そんな。結局私なんて脱落組ですから」


 近衛の言葉に苦笑が浮かぶ。

 彼が嘘を言っているとまでは言わないが、
 多分にお世辞は含まれていそうだ。

 今日の和巴も清水にしてもスーツ着用なのは、
 この公演がそこそこの規模であり、
 その為にこのパーティーにも舞台関係の重鎮が
 招かれているからだ。

 **もその1人で、城西地区では名だたるバレエ団の
 代表を務める女性である。

 中年も過ぎた年齢の今は指導や振り付けに
 その重きを置いているが、
 現役時代はバレエ団のプリマドンナを勤めた女性で、
 今も当時の面影を存分に残しスレンダーな美女だ。


「じゃぁ和巴にも会えたし、俺は帰るかな」

「え、もう帰られるんですか?」

「あぁ。明日も朝からレッスンはあるしね。
 それにほら、俺は他の皆んなと違って
 年だから」


 冗談めかして清水が笑う。

 何気なく話していた、その時だ。

 和巴のパーティーバックの中でスマホが震えた。

 サイレントにしていたそれは着信音は鳴らさず、
 ただバイブレーションだけを伝える。

 メールならば今は無視をすれば良い。

 そう思っていたというのに、
 そのバイブレーションはなかなか止まっては
 くれなかった。


「あ、すみません。着信みたいで……」

「遠慮しないで出ろよ」

「すみません」


 とはいえ、
 電話ならばここで出る訳にはいかない。

 そう考えながらスマホを取り出した和巴は、
 その液晶画面に表示されている名に喉を詰まらせた。


「っ……」

「和巴?」

「す、すみません。私ちょっと、あの、電話、
 出てきます」

「あぁ。いってらっしゃい。
 じゃぁ俺は帰るからまたな」

「はい、お疲れ様です」


 清水に別れの挨拶と笑みを向けながらも、
 そのどちらもおざなりになってしまう。

 気ばかりが急いてパーティー会場から出るまでが
 やたらと遠く感じた。

 手の中ではバイブレーションはなくなり
 着信が途切れたと教えたが、
 けれど今ならまだ間に合う筈だ。


「……匡煌さん」


 液晶に表示されていた、匡煌さんの名。

 手嶌の事で右往左往していたり、
 仕事も忙しくなってきたりで、
 ここ数週間連絡は全く取れなかったし、
 前のように社内でばったり、という偶然もなかった。

 それに和巴が覇王エンタテインメントへ
 突然出向になった件だが。
 あれは広嗣が嵯峨野書房と覇王本社の役員へ
 圧力をかけ半ば強引に決めさせた。
 と、覇王本社の人事に勤務してる先輩に聞かされ、
 匡煌と自分が再び密会してる事がバレたと察し。

 数日ぶりに鳴らされた彼からの着信は、
 嬉しさとそれ以上の戸惑いを和巴に与えていたの
 だった。
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