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別世界
しおりを挟む2月に入ってから匡煌さんも私も何だかんだ
野暮用が多く ――。
匡煌さんは役員会やら出張やら。
私は卒論の総仕上げと卒試(卒業試験)用の勉強で。
ここ数週間はデートの余裕はおろか
電話でのおしゃべりやメールすら満足に出来ない
くらい忙しかった。
そんな怒涛のような忙しさもようやく峠を越えた、
とある週の終わり。
匡煌さんから
”ウェスティンホテルのロビーに夜6時。
目一杯オシャレしておいで”
なんて、久々にお誘いメールを貰った。
私はあまりの嬉しさに利沙も誘って、
時間ぴったりに待ち合わせ場所のホテルへ
行ったんだけど……。
エレベーターから一歩踏み出したそこは ――
一面温かい光の大洪水。
華やかで、きらびやかにライトアップされていた。
文字通りの別世界。
場内はどこもかしこも着飾ったゲスト揃い。
そんな中、匡煌さんのお誘いメールにもあった通り
目一杯お洒落してきたけど、周囲のゲストさん達から
比べたら当たり前のように見劣りする私達は
とても浮いた存在。
だけど、テレビや映画で良く見かけるような芸能人も
たくさん出席している中で。
匡煌さんはさほど派手なドレスアップをしている訳
じゃないのに、一番目立っていた。
こんな素敵な男性が自分の彼氏だなんて、
ホントに鼻が高い。
このパーティーは主に関西を拠点にしている
マスコミ業界の企業が多く集っているという。
「――Yo(よお)匡煌」
「おぉ、圭介、お前も来てたのか」
彼の事を”匡煌”と、親し気に呼び捨てした人物は、
年の頃なら彼と同年代位、スラっと背が高くて、
そのスタイルに仕立ての良い上品なスーツが
似合いの男性。
匡煌さんからも”圭介”と、
親し気に呼ばれたその男性は
匡煌さんと挨拶代わりの軽いハグと握手を交わし、
私を見た。
「―― 彼女がうわさの?」
「ああ、和巴だ――和? 俺の従兄弟で各務圭介」
「圭介さん……あっ!
もしかして、亜里沙ちゃんの ――?」
「えぇ、亜里沙の父です。あの時は本当にお騒がせ
してしまったようで」
「いえ、私も早とちりしてましたから」
「有くんから話しには聞いていたけど、ホント
可愛らしいって表現がしっくりくる子だね」
そんな事、面と向かって言われると
さすがに恥ずかしい……。
「匡煌が大事に大事に囲い込みたくなる気持ちも
分からなくはないな」
「もう、圭介さんったら……」
「無粋な男にはもったいない――和巴さん?
こいつのお守りは骨が折れるでしょう」
その言い方があまりにも実感がこもっていて、
私は思わずプッと小さく吹き出した。
「圭介、あまり余計な事は吹き込むなよ」
って、拗ねたように頬を赤らめた彼も何だか
お茶目。
トゥルルル~~、彼のスーツの内ポケットから
優しいオルゴールの音色。
匡煌さんは”ちょっと失礼”と、
そのポケットから出したスマホの対応をしながら
人気の少ない方へ行ってしまった。
で、しばし私は初対面の圭介さんと2人きりに。
こんな形で初対面の人と急に2人きりに
されてしまうと、緊張で何を話したらいいか
分からない。
そう、匡煌さんと初めて食事した時のよう……。
すると意外なことに、
気まずかったのは圭介さんも同じだったようで、
急に思い出したようスーツの胸ポケットから
取り出したカードホルダーから
1枚の名刺を抜き取って私へ差し出した。
「申し遅れましたが、私こういう者です――」
その名刺に記載されている会社名と
圭介さんの肩書(役職)を見た私は、
カオが一瞬フリーズした。
”各務グループ本社・
東京支社営業部統括部長
各務 圭介 ――”
?!へっ……各務グループ?? って、
確か、日本の複合企業のリーディングカンパニー
じゃなかった?
それに、この若さで本部長なんて……
す、凄すぎる。
素直に驚いて、頭の中へ浮かんだ言葉を
そのまま口に出してた。
「――凄っごぉい、
本物のビジネスエリート……」
『クッ――クククク……っ』
私の庶民的つぶやきに、ちょっと恥ずかしそうに
圭介さんは苦笑した。
「あっ、す、すみません、私ったらつい……」
「いいや、いいんだよ。でも、そう凄くはないんだ。
ほとんど家業のようなものだから」
「家業?」
「曽祖父が創業者で今現在の経営者は伯父なんだ」
へっ?! って事は……
「じゃ、その圭介さんと従兄弟って事は
匡煌さんって……」
「ああ、彼の父親が各務のトップだ」
ひぇ~~っ、知らなかったぁ……彼って
そんなお坊ちゃんだったの!
「本来なら匡煌が僕のポストにいるべきなんだが
あいつは故あって、10代の後半で実家から
飛び出してしまってね、で、
急遽僕に白羽の矢が立てられたってわけ」
そこで匡煌さんが戻ってきて、
圭介さんと私の話しは中断した。
「2人してなぁに熱心に話し込んでたんだぁ?」
?! ギクゥッ――
「なぁに、他愛もない世間話さ、あ、そうそう、
チーズが結構旨いよって和巴さんへもお薦めしてた
とこ」
圭介さんがさり気なく話を逸したところを見ると、
この話題、匡煌さんにとってあまり好ましい事では
ないようだ。とは言え ――
匡煌さんが”10代の後半で実家を飛び出して
しまった”という理由が気になる。
「今日のパーティー、プロデュースは匡煌が
任されたんだって?」
「あぁ、まぁな」
へぇ、そうだったんだぁ。
改めて、彼の多彩な才能に驚いた。
「道理で、ワインとおつまみのセレクトが
イイと思った」
「毎度ありきたりじゃ味気なさすぎるだろ」
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