仕事も恋も真剣勝負 ～～ ２４才の賭け

小さな同居人

結局、咲耶は拓実を自分が暮らすアパートへ連れて来て
しまった。

玄関先で大家の老婆が水打ちをして、
番犬　”ポチ”の毛繕いをしている。


「あ、こんにちわ、トクさん」

「おや、咲ちゃんかい。今日は遅かったねぇ」

「うん。ちょっと野暮用があってね　――　あ、そうそう
この子　”たくみ”って言うの。しばらく一緒に暮らす
からよろしくお願いします」

「まぁ、そうかい　そうかい　――　また、賑やかになる
ねぇ」


このアパートは木造モルタル２階建て。
１～２階に計８部屋あって。
そのうち６部屋が使用中。


＊＊＊　＊＊＊　＊＊＊


「――　あぁ、玄関で靴は脱いでね」

「ん、わかって　――　狭っ！　古っ！」

「悪かったわねっ。東京の住宅事情もロクに知らん
癖に、生意気言わんといて」


部屋の間取りは、２０代女子が１人暮らしする
アパートとしては比較的広めの２ＬＤＫ。
それでも、アメリカンサイズの家で暮らし慣れてる
拓実にとってはかなり狭く感じたのだろう。


「――　あ、これが双子の妹か」


テレビの上に立ててある写真立ての中のスナップ写真を
見た拓実が聞いてきた。


「うん、そうだよ。左が麻子。右が沙奈」


＊年前、高尾山へ行った時に撮ったモノだ。


「――　別々に暮らしてるのか？」

「神奈川の横須賀ってとこに母方の祖父母がいるの」

「どうして別々に　――　あ、いや、愚問だった。忘れて
くれ」

「フンッ。ガキの癖に妙な気ぃ使うんじゃないっ！
両親は再婚同士で、私は父の連れ子なの。で、
２人のお葬式の時　”赤の他人の面倒まで見きれない”
って、はっきり言われちゃってね」

「何て冷たい親戚なんだ　――」

「ま、妹達とは定期的に会ってるから心配もないし、
寂しくもない。”つかず離れず”　これ位のスタンスが
ちょうどいいのよ」

「ふ～ん、そんなもんか……」


そう言った拓実のお腹のムシが　”ギュルルル　――”と
派手に鳴って、空腹を訴えた。

拓実、赤面。


「あ！　ごめん。もしかして、お腹空いてた？」

「……結城のところで軽く朝飯食べただけだったから……」


と、言ってるそばからまた、お腹のムシが鳴った。


「ほんとにごめん。　でも私　――　基本的にうちでは
何も作らない人なんで……」

「うん。それは、全く使われた形跡のないキッチンと
調理器具を見ただけで分かった」

「あ、そう、ですか……じゃ、とりあえずファミレスに
でも行こうか」