仕事も恋も真剣勝負 ~~ 24才の賭け

NADIA 川上

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弟、現る

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新大久保駅の改札口&切符売り場前を通り過ぎ、
すぐ右側にある路地へ曲がって・数軒先の雑居ビルへ
入って行く。

咲耶が目指すのは2階にある法律事務所だ。


*** *** ***


事務所の主・弁護士、結城 伸吾(ゆうき しんご)は
窓辺に置かれた観葉植物へ水をやっていた。


「―― で、登紀子さんからの預かり物って何よ」


一秒一分でも早くアパートに帰って眠りたい咲耶は結城へ
話を急かせる。
そう急ぐでもなく水やりを終えた結城はゆっくりとした
動作で執務机へ戻り、引き出しから1枚のDVDを
取り出して、机の上へ置いた。


「ひとつはこれだ」


タイトルに『ひと夏の思い出』と、書いてある。


「なんか安っぽいAVみたいなタイトルだけど、コレを
登紀子さんが私に?」

「あぁ ―― それと。これに関連したもうひとつの
預かり物が。八木くん」


そう声をかけた隣室から 『ハイ、ただいま』と
返事が聞こえ。
その室の開いた戸口から、結城の秘書・八木が
中学生位の男の子を連れ、出てきた。


「彼の名前は ”拓実(たくみ)” 歳は推定14才。
成瀬夫妻は14年前、正式に養子縁組をして
戸籍へも記載されてる。ホレ、この通りな」


と、戸籍謄本を示し。


「お前の弟だ」

「……は?」

「成瀬家の長男になるワケだな。仲良くやれよ」

「ちょ、ちょっと待って ―― 何かの悪い冗談?」

「失敬なっ! こんな朝っぱらに出勤してわざわざ
冗談をかます程私は暇人ではないっ!」


結城も弁護士の職務でありのままの事実を咲耶に
報告したのだろうが……


「じゃあナニ?? 14年も前に父さんと母さんが私や
麻子や沙奈に無断でこの子を引き取って養子にした
って言うの?!」

「あぁ、そうだ」

「しんじらんなぁぁぁいっ!! ってか、こんなのバカげ
てるわ。突然こんな見ず知らずの子供押し付けられたって
私困るよ」

「見ず知らずなんかじゃないっ!!」


そう、声も限りに叫んだのは ”拓実” と紹介された
少年自身。


「え ―― だって、私……」

「あぁ ―― それなんだがな咲耶……お前、本当に
9年前の夏の事は依然何も思い出せないのか?」

「しつこいっ! ―― 夏の事どころか、事故に遭った
前後1~2年の記憶がごっそり抜け落ちてるんだ」

「そうか……そうゆう事情も考慮して拓実をアメリカから
呼び寄せるのは見合わせていたんだが、主治医の麻生
先生がもしかしたら拓実と会う事がいい刺激となって
何か思い出すかも ―― と、仰ったんだ」

「……」

「……オ、オレも、あんたの記憶喪失の事は聞いた。
でも、あの夏、オレは間違いなくあんたと約束したんだ」

「やくそく?」


==========


―――― 回想 ――――


『もうっ! いつまでそんな情けない顔してる気? 
あと1週間で2学期だから帰るけど。これが 
”今生の別れ” じゃないでしょ。 ―― わかる?
”こんじょうのわかれ”』

『う、うん……要するに、一生のお別れ』

『ま、アメリカと日本。これだけ距離があると
”会いたくなったら、すぐ” ってワケにはいかないけど
今度は拓実が日本へ来ればいいわ』

『オ、オレがか??』

『そうよ。それで、家族4人一緒に暮らすの』

『ホントにいいのか?』

『うん。ほら、指切りげんまん』


==========


「あの指切りげんまんは本当に嬉しかった……あんたが
オレと過ごした夏の日々を忘れていようと、オレは
ちゃんと覚えてる。だから、あの時の約束を果たしに
日本まで来たんだ」


咲耶は、拓実のひたむきで熱の篭った真剣な眼差しに
惹き込まれ、何も言えなくなった。


「なぁ 咲耶、お前がどうしても拓実を家族だと ――
弟だと認められんと言うなら、私も無理強いはしない。
でも、どうだろ、最終決定はもう少し先に伸ばして、
しばらく一緒に暮らしてみないか?」

「……」
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