仕事も恋も真剣勝負 ~~ 24才の賭け

NADIA 川上

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その男……

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車は下町の繁華街を抜け、
首都高速に乗って新宿方面へと向かった。

首都高速4号新宿線・上り方面(三宅坂JCT方面)の
出口から降りても無言のままで10分程走っただろうか、
やがて立派な鉄の門が見えきた。

その門扉が音もなく自動で開き、
車はその中へ。
門からもさらに延々と道は続き、
周りには鬱蒼とした森のような木立が広がっていた。

超小庶民な咲耶にとっては、
”新宿” という都会の一等地に緑豊かで広大な土地が
ある事が驚きで。

やがてその木立も途切れてぽっかりと開けた空間に出た。

そこにはまるで巨大ホテルと見紛う程の白亜の高層ビルが
そびえ建っており。
咲耶は馬鹿のようにぽかんと口を開けてその豪壮な外観を
眺めるしかなかった。

地下駐車場へ吸い込まれるよう滑り込み。
駐車場出入り口に横付けされクラウンは静かに停まり、
黒ずくめの運転手がさっと降りて、
咲耶の側のドアを開けた。

咲耶は戦々恐々としながらも車を降りた。
すぐに運転手は男のいる側のドアに回り、
同じようにドアを開けた。
男は悠然と車から降り、
おどおどしている咲耶にニコっと笑いかけ、言った。


「ここが俺んちだ……まぁゆっくりしてってくれ」

「は ―― はぁ……」



*****  *****  *****




「―― で、まさか朝までそこに突っ立っている
つもりか?」


男に促されるまま、
図々しくも部屋まで来てしまった。

兄以外の男部屋に入ったのは中1の時以来だ。

上着を脱いでネクタイも緩めた男は、
相変わらず玄関先の戸口で緊張した面持ちのまま
突っ立っている咲耶を見て。

ため息混じりに苦笑を漏らし、
玄関まで戻ってきて咲耶の腕を掴んだ。


「ひゃっ!」


腕を掴まれただけでこんな声を出してしまい、
慌てて詫びる。


「あ、ごめん、なさい……」

「そんな身構えなくとも、獲って食ったりしねぇから
安心しな。ま、姉ちゃんが食わしてくれるってなら、
ハナシは別だが。今、冷房入れるから、適当にそこいらで
休んでろ。男所帯で散らかしてるけど」

「あ……お、お邪魔、します……」


咲耶はそう言うと、まるで電池の切れかかった
ロボットが歩くみたいにぎこちない足取りで
室内へ足を進めた。

室内の間取りは上下に数部屋ずつある、
メゾネットタイプの2階建て。
メインのLDKはリビングダイニングだけでも
**畳はありそう……。

男は”男所帯で散らかしている”と、
言っていたが。

ここはもともと使われていない所だったのか?

それとも、長い間留守にしていただけだったのか?

少し室内の空気が淀んでいた以外は
気になる所もなく。

掃除だって隅々まで行き届いていて

”――散らかしている”なんて、とんでもない! 
と、咲耶は思った。

空気清浄機とエアコンをオンにして、
キッチンへ入っていった男が、

   
「もともとここは、うちの黒服の詰め所にするつもりで
買ったんだ」


 ”黒服? って、じゃあこの人……何かおミズの
商売やってる、とか?”

 ”だけど自宅以外にこんなマンションが持てるなんて、
やっぱ水商売って儲かるんだなぁ
……私なんて、寮の家賃払っていくだけで、
毎月いっぱいいっぱいだったのに”


ついつい発想が超庶民的になってしまう咲耶。


「今のところ新しい入居の予定はないから、
自由に使ってもらって構わないよ」

「えっ、それって ――」


咲耶はただただこの部屋の広さや豪華さに圧倒され
呆然としていた。
この怪しげな男は何者なのか? とか、
一体自分はどうなってしまうのか? とか、
頭の中にはごちゃごちゃと浮かんではいたものの
全く思考が追い付いていない状態だった。
男はそんな咲耶をそこに残し、部屋を出ていった。


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