11 / 18
その男……
しおりを挟む車は下町の繁華街を抜け、
首都高速に乗って新宿方面へと向かった。
首都高速4号新宿線・上り方面(三宅坂JCT方面)の
出口から降りても無言のままで10分程走っただろうか、
やがて立派な鉄の門が見えきた。
その門扉が音もなく自動で開き、
車はその中へ。
門からもさらに延々と道は続き、
周りには鬱蒼とした森のような木立が広がっていた。
超小庶民な咲耶にとっては、
”新宿” という都会の一等地に緑豊かで広大な土地が
ある事が驚きで。
やがてその木立も途切れてぽっかりと開けた空間に出た。
そこにはまるで巨大ホテルと見紛う程の白亜の高層ビルが
そびえ建っており。
咲耶は馬鹿のようにぽかんと口を開けてその豪壮な外観を
眺めるしかなかった。
地下駐車場へ吸い込まれるよう滑り込み。
駐車場出入り口に横付けされクラウンは静かに停まり、
黒ずくめの運転手がさっと降りて、
咲耶の側のドアを開けた。
咲耶は戦々恐々としながらも車を降りた。
すぐに運転手は男のいる側のドアに回り、
同じようにドアを開けた。
男は悠然と車から降り、
おどおどしている咲耶にニコっと笑いかけ、言った。
「ここが俺んちだ……まぁゆっくりしてってくれ」
「は ―― はぁ……」
***** ***** *****
「―― で、まさか朝までそこに突っ立っている
つもりか?」
男に促されるまま、
図々しくも部屋まで来てしまった。
兄以外の男部屋に入ったのは中1の時以来だ。
上着を脱いでネクタイも緩めた男は、
相変わらず玄関先の戸口で緊張した面持ちのまま
突っ立っている咲耶を見て。
ため息混じりに苦笑を漏らし、
玄関まで戻ってきて咲耶の腕を掴んだ。
「ひゃっ!」
腕を掴まれただけでこんな声を出してしまい、
慌てて詫びる。
「あ、ごめん、なさい……」
「そんな身構えなくとも、獲って食ったりしねぇから
安心しな。ま、姉ちゃんが食わしてくれるってなら、
ハナシは別だが。今、冷房入れるから、適当にそこいらで
休んでろ。男所帯で散らかしてるけど」
「あ……お、お邪魔、します……」
咲耶はそう言うと、まるで電池の切れかかった
ロボットが歩くみたいにぎこちない足取りで
室内へ足を進めた。
室内の間取りは上下に数部屋ずつある、
メゾネットタイプの2階建て。
メインのLDKはリビングダイニングだけでも
**畳はありそう……。
男は”男所帯で散らかしている”と、
言っていたが。
ここはもともと使われていない所だったのか?
それとも、長い間留守にしていただけだったのか?
少し室内の空気が淀んでいた以外は
気になる所もなく。
掃除だって隅々まで行き届いていて
”――散らかしている”なんて、とんでもない!
と、咲耶は思った。
空気清浄機とエアコンをオンにして、
キッチンへ入っていった男が、
「もともとここは、うちの黒服の詰め所にするつもりで
買ったんだ」
”黒服? って、じゃあこの人……何かおミズの
商売やってる、とか?”
”だけど自宅以外にこんなマンションが持てるなんて、
やっぱ水商売って儲かるんだなぁ
……私なんて、寮の家賃払っていくだけで、
毎月いっぱいいっぱいだったのに”
ついつい発想が超庶民的になってしまう咲耶。
「今のところ新しい入居の予定はないから、
自由に使ってもらって構わないよ」
「えっ、それって ――」
咲耶はただただこの部屋の広さや豪華さに圧倒され
呆然としていた。
この怪しげな男は何者なのか? とか、
一体自分はどうなってしまうのか? とか、
頭の中にはごちゃごちゃと浮かんではいたものの
全く思考が追い付いていない状態だった。
男はそんな咲耶をそこに残し、部屋を出ていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる