仕事も恋も真剣勝負 ~~ 24才の賭け

NADIA 川上

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若気の至り

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話しは2015年・6月上旬に遡る。


高校在学中に就職の内定を取れずに就職浪人となって
しまった咲耶は、その後ようやくある会社に就職できたの
だが、その会社は俗に言うブラック会社だった。


仕事内容は高額な美容痩身器具と見るからに怪し気な
痩せ薬の営業販売。
基本は。ひと昔前に流行ったような金魚運動マシンと
まがい痩せ薬のセット販売。
中国で製造した物を裏ルートで輸入したのだ。
もちろんそれぞれ別個での販売にも応じられるが。
当たり前のようにセット販売を強要される。

最初・1カ月の試用期間はまだ良かった。
先輩について一緒に営業に行き、
1セット売れればその何割かをもらえたからだ。
ところが!!
試用期間が明けた次の週から本当の地獄が始まった。

営業の為の残業代も交通費も電話代も
一切会社からは出ない上、
不良在庫は全て自分で買い取らなければならず。
ノルマとして1カ月に3セットは必ず購入させられた。
売れなければもちろん全額自己負担、
給料は形だけで実質売れなければ無しに等しかった。

おまけに商品といえば
『これでお腹のたるみがなくなりました!』、とか、
『私は**㌔の減量に成功した 』 など
どれをとっても眉唾もののコメントだらけ。
本当に効果があるのかどうか疑わしい。
百万円近くするようなモノとは到底思えないような
代物だった。

そんな劣悪環境のブラック会社なら、さっさと辞めて
しまえと、お思いになるだろう。
でも、咲耶は時々倉庫で不良在庫の整理にあたっていた
老齢の中年男性が 社長へ”辞意を意思表示した”
途端。
翌朝、隅田川に浮かんだ、と聞いて。
明日は我が身、だ。
辞めるに辞められなくなってしまった。

抱えてしまった在庫の代金は一括じゃとても払うことが
できずにローンにして、
そのせいでいつの間にか借金は雪だるま式に膨れ上がり
恥を忍んで結城へ債務整理を頼んだら、ただひと言、
『この大馬鹿もん!』と、怒鳴られた。
借金で首が回らないという体験をこの年で初めて思い知った。
にっちもさっちもいかない状況だ。

もはや咲耶は為す術もなく途方に暮れるしかなかった。

勤務先のブラック会社も2度の不渡手形を出し、
事実上の倒産。


住んでいた会社の寮も銀行融資の抵当になっていた為、
職場に加え寝床も失った咲耶は、半ば自暴自棄になり、
手にしていた缶ビールを一気に煽り、
新たなビールを買おうと自販機の前に立ったが ――。


この自販機、生意気にも身分証明書
(=年齢確認のできるモノ)を要求してきた。


「なぁによぉ! 自販機のくせしてあんたまで人のこと
見下す気ぃ??」


自販機相手に喧嘩売る咲耶。


「いい根性してんじゃない。ふんっだ。ビールくらい
ココで買わなくたって飲めるんですからねぇ~っ!」

『じゃあ ―― 』と、背後から突然声をかけられ、
咲耶は飛び上がるほど驚いた。


「うわぁっ!! ―― びっくりした……なに?」


背後に立っていたのはまるで別世界の人間のように
見える。
薄汚れた格好のホームレス風の男。


「俺も酒が買いたいんで、そこどいてくれると有り難いん
だが?」

「あっ ―― あぁ、ご、ごめん、なさい……」


男はその自販機でビールを2本買うと、
すぐ踵を返して歩き出したが再び立ち止まり、


「おい」

「??」


咲耶へ向かって、自分がさっき買ったビールのうち
1本を投げてよこし、

”よっこらせ”

その場にしゃがんで自分のビールを飲み始める。
咲耶は、あまりに突然の事で呆然としてしまって、
ビールを持ったまま立ち尽くしている。


「どうしたー?」

「……え?」

「冷えてるうちに飲めよ」

「あ ―― う、ん……いただきます」


(新手のナンパ?)



それから咲耶は問わず語りに一部始終をその
通りがかりのホームレス男に話した。
妹達にも話せない仕事や借金の話を、
この名前も知らない、
今さっき初めて出逢ったばかりの男に話す事に、
咲耶は既に何の抵抗も感じていなかった。


「そいつはひでぇ会社もあるもんだな」


 男は話を聞いて真剣な表情で呟いた。


「姉ちゃんも、
そんな会社さっさと辞めちまってよかったんだ」

「ですね……けど、貯金が底をついたら、ネカフェにも
ドヤにも泊まれへんし……うちももうすぐホームレスの
仲間入りやわ」


咲耶は血色の悪い顔に気弱そうな笑いを浮かべた。
男はそんな咲耶を見て、少し考えてから言った。


「……な、姉ちゃんよ、じゃあ俺んちにでも来るか?」

「は?……えっと……でもおじさん……」


咲耶が驚いて言うと、男はしかめっ面をした。


「おじさん……って、俺はそんな年寄りじゃねぇんだがな
……ま、いいか、ちょっくらついてきな」


ホームレス風の男はすっくと立ち上がり、
すたすたと歩き出した。
咲耶も慌ててついていく。
駅前ターミナルへと向かって大通りをしばらく歩いた所に、
一台の黒塗りのクラウンが停まっていた。
男はおもむろに後部座席のドアを開けてそこに
乗り込んだ。


「えっ……」


驚いた咲耶が立ち竦んでいると、男はドアから顔を出した。


「どうしたー? 早く乗れよ」

「……あ、は、はい……」


一瞬躊躇ったものの、
咲耶は言われるまま車に乗り込んだ。
運転席にはきちんとした背広姿の男がいて、
咲耶が乗り込むとすぐに車は発進した。
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