仕事も恋も真剣勝負 ～～ ２４才の賭け

選択

結城は咲耶の淹れたあつーい煎茶をひと口啜って、
ほぅっとひと息ついた。


「やっぱお前の淹れたお茶が一番落ち着くわー」

「フフ　――　それはどうもありがとうございます。
あ、さっきまでね、おじいちゃんの店にいたんだぁ」

「お　――　おぅ、そうだったんかぁ……」

「……せんせ？」

「……実はな、その和み亭の事で話がある」



あの和み亭の土地と店舗そして裏にある家屋は、
祖父が亡くなった時遺言で咲耶が相続した。

その相続時にかかった諸々の諸経費はじめ、
今まで支払ってきた固定資産税等は咲耶が個人的に
受け取った両親の事故保険金で賄ってきたのだが。

その銀行残高もいよいよ底をつきかけていると、
結城は言った。


このままキャバ嬢として働けるのは良くてあと２年。
その後は場末のクラブへ流れるか、
薄給に甘んじてレストランのウェイトレスにでも
なるか……いずれにせよ、
学歴もキャリアもない２０代の小娘が、幼い家族を抱え
生きて行くには状況が悪過ぎる。


「……で、今の私でも出来る事ってあるんですか？」

「ふたつある　――　ひとつは、和み亭の土地・
店舗・家屋まとめて買い取りを申し出てきてる不動産屋に
売却する事。もうひとつは　……」

「……先生？」

「……店の営業を再開して、半年で経営を軌道にノセる
事が出来れば、年額＊＊万くらい屁でもないだろう」

「再開、ですかぁ……言うは易し、ですよ？」

「だな。何のノウハウもないお前じゃ始めたとしても、
軍資金をドブへ捨てるようなもんだ」

「……因みに、買い取りを申し出てる会社って、何処の
不動産屋さんなの？」

「ん、あ、あぁ　――　神田の方にある、結構大手さん
らしいぞ」


咲耶は、結城にしては珍しく歯切れの悪い言い方だな、
と、眉をひそめ。
重ねて問う。


「何って名前の？」

「ん～……」


咲耶の脳裏に嫌な思い出が浮かぶ。


「まさか　――」

「……　あぁ、そのまさかだ。会社名は今村ハウジング。
しかも担当があの、羽柴仁だ」


”何ってこったぁ！！”　と、頭を抱える咲耶。


「だけどな咲耶。これはお前の将来にも関わる選択
なんだ。どうか、私情に流される事なく冷静に考えて
欲しい」


結城としては『分かりました』のしおらしい返事が
欲しかったのだが……。
しかし、咲耶はゆっくり顔を上げると、
まっすぐ結城を見返してこう言った。


「考えるまでもありません。準備が整い次第、和み亭
営業再開しますから」

「さくやっ」

「どうせ２～３年後には転職するなら、思い切って
今しても大差ないでしょ。伸吾センセ、なにぶん若輩者
ではございますが引き続きご指導宜しくお願いします」

「……参ったなぁ～」