仕事も恋も真剣勝負 ～～ ２４才の賭け

咲耶の底意地

最悪の結果、どこかへ売却する事になったとしても、
あの今村ハウジングと羽柴　要に任せるのだけは
嫌だった。


今村ハウジングからの買収要請はそれが初めてでは
なかった。
祖父が亡くなった３年後・２０１６年の冬、
今回のように固定資産税や維持費の支払いに困窮した時、
まるで救世主のようなタイミングで現れたのが咲耶の実兄
で今村ハウジングの代表取締役社長の今村　広嗣。
そして、担当の取締役専務・羽柴　要だった。

羽柴にしてみれば、咲耶が両親の保険金で諸費税を払って
いけるのは時間の問題。
そんな蓄えはあっという間に底をつくに決まってる。
その間にも咲耶を自分の女にして、
さっさと懐柔すれば和み亭の店舗・土地そして裏の家屋も
全て思いのままだと計算したのだろうが。
咲耶は土壇場で予想外の踏ん張りを見せた。
新宿歌舞伎町の人気キャバクラで働き始めたのだ。


で、咲耶がキャバクラ勤めで苦労して貯めたお金も、
両親の残してくれた保険金も遂に底をつく、と見込んだ
今、再び牙を剥いてきた。


だから咲耶もただ手をこまねいてばかりじゃなく、
結城に　”営業再開”　の意思表示をした翌日には
その第一歩を踏み出した　――。
麻子・沙奈・拓実と４人で店舗裏の家屋へ引っ越し準備。

次は利沙と早苗に協力要請メール送信。


”理由（わけ）あって和み亭営業再開する運びに
なりました。つきましては２人にどうしてもお願いしたい
事があるので、一両日中にも時間を作って下さい。
――　咲耶　”


２人はこのメールを受け取った翌日、
連れ立って咲耶の元へやってきた。

やはり　”持つべきものは情に厚い友だ”


「で、私達は何をすればええの？」


早苗には嫁ぎ先の呉服店から和み亭のユニフォームとなる
なるべく軽い装いの和装を、安価で提供　――。

利沙には、仕事上の取材で知り合ってきた人脈の中から
和み亭の即戦力になりそうな人材を紹介して貰う、予定だ。
中でもパティシエとシェフ、アルバイト達を束ね必要と
あらば経営のアドバイスもしてくれるフロアマネージャー、
この３大柱は最も重要なスタッフなのだ。

兎にも角にも、成瀬家　”和み亭再開プロジェクト”は
ゆっくり始動するのだった。