インシディアス

NADIA 川上

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すきま風

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  11月**日(*)

  今週こそ土・日は2人ゆっくり過ごせるかと思って
  たら、ワーカーホリックの慎之介は今日もどこぞに
  接待だ。

  試しに彼が出かける間際、こう問いかけた ――
  「今夜は戻られるの?」
  何故か? って、
  ここ数十日、慎之介は仕事以外でも頻繁に外出
  するようになり、
  時にはそのまま戻らない日もあった。
  返事を待つジェイクを見た慎之介は、
  口端を上げてニヤリと笑う。


「そっか ―― 最近、構ってやってないな。
 淋しくなったか?」

「そ、そんな事は……」


  ”ない”と言い切れず、
  半分図星のジェイクは顔を赤くして俯いた。
  公私問わずほぼ毎日のように抱かれていたのに、
  ここ数日はほぼ放置状態だ。
  疼く身体を持て余している。
  慎之介はそんなジェイクに手を伸ばし、
  顎を捉えて上に向かせた。
  ジッと見下ろしてくる慎之介から視線が外せない。


「し、ん……」


  ジェイクの瞳は求めるように揺れている。
  慎之介はそんな彼の唇に深く口づけをした。



  慎之介が外出した後、残されたジェイクは深く息を
  吐いた。

  キスをされた唇が熱い。
  けれど気持ちはどんどん沈んでいく。 


「そろそろ、飽きられたかな……」


  呟くと胸が痛んだ。
  関係をもって1年と*ヶ月。
  慎之介が離れていく。そんな気がしてたまらない。


「ダメダメ。しっかりしなきゃ」


  ジェイクは悪い方にばかり考えてしまう思考を
  振り払うように、頭を左右に振って部屋の片付けに
  集中した。

  慎之介の仕事机に移動し取引先からの郵便物を
  整理整頓していたジェイクは、ふと疑問が頭に
  過ぎった。


「どうして最近、仕事外の外出が増えたんだろう?」


  本来、役員のスケジュールは担当秘書が
  管理を行っている。
  慎之介が父から直々に ”門外執行役員”という
  ポスト(役職)を拝命した時も、
  国枝由伸が彼の担当秘書になった。
  そして、慎之介の動向が今のようになる前まで
  国枝と同じくらいは慎之介のスケジュールを
  自分だってちゃんと把握していたのだ。
  けれどここ最近、自分が把握し切れていない行動が
  目立つようになってきている。

  机上の電話のベルが鳴る。


「仕事用の方か……どうしよう?」


  デスクには私用と仕事用の電話機が
  ふたつ並べられている。
  そのうちの仕事用のが鳴り響いている。


「仕方ない」


  ジェイクは受話器を取った。


『あぁ慎ちゃん? 真弓です』

「あ、あの……」

『あら? あなたはどなた? 
 慎ちゃんじゃないのかしら?』


  相手は女性だ。


「すみません。柊はたった今、出たところなんですが」

『あら、じゃあ、こちらに向かっているのかしら。
 分かったわ。もう少し待ってみます』

「あ、あの、お名前を ――」


  ジェイクが尋ねる前に相手から通話が切れた。
  仕方なくジェイクも受話器を置く。


「真弓、さん……誰だろう?」


  品のある柔らかな女性の声。
  慎之介をニックネームで呼び、親しみある口調。
  慎之介もいい大人だ。
  男を抱いているとはいえ、交友関係の中に
  女性がいてもおかしくない。
  だがジェイクの頭に漠然とした予感が過ぎった。


「ま、さか……」


  無意識に書類を握りしめたジェイクの心の中で
  警鐘が鳴った。

  覚悟しておけ、と――。
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