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6 想定外だらけの生活
しおりを挟むトータル3泊4日の香港出張から戻った虎河さんは、上司へ報告が済むと昼過ぎにやっと起き出し、仕事へは行かず日がな一日テレビを見ながらスマホをいじるルーティンが復活した。
「―― おい。俺の飯は?」
「ごめん。ちょっと体調悪くて買い物に行く余裕がなかったの。お弁当かインスタントで済ませてくれない?」
平謝りしながら私の手は忙しく部屋の整理整頓にせっせと動く。
虎河さんは不機嫌丸出しで顔をしめた。
「はーぁ?! 仕事で疲れて帰ってきた夫に弁当を買ってこいだぁ? インスタントを食えだぁ? お前最低な嫁だな」
そう吐き捨てると虎河さんはそのまま家から出て行った。
バタン!と荒々しく扉が閉められる。
またか……おそらく外食に行くのだろう。
最近絶えず体が怠いし、いくら眠っても寝たりない気がする。
一緒に暮らし始めれば楽しい毎日が待ってると思ったのに!
でも想定外は虎河さんだけではなかった。
インターホンが鳴り出れば大きな声で名前を呼ばれる。
『―― 絢音さんいるの』
インターホンに出た時点で私がいるに決まっているのだから、その質問はおかしいんだけど。
「随分待たせるわね。無視しようとしてたのかしら」
「水仕事していて手が離せなかったんです。お義母さんを無視しようとしてたわけではありません」
義実家は私たちが住んでいるマンションから徒歩10分ほどの距離にある。
結婚式があと数週間後に迫ってからというもの、毎日のように義母がやってくるようになった。
小言も忘れず――。
「まぁ、何この散らかり様は? ゴミ屋敷じゃない」
「すみません。片付けてる間がなくて」
取り入れた洗濯物はたたまれることなくソファーを占拠。
指定日に出しそびれたゴミ袋が積み上げられた玄関。
洗い物が山とあるキッチン、そして床に散乱する編集に関する参考図書。
一応、子供部屋はあるのだが、私が家事をしている最中も面倒が見られるように設定して、リビングへもベビーベッドを置いた。
その周囲だけは綺麗にしているが、それ以外のスペースはゴミ屋敷と言われても仕方ない有様だ。
「まったく今時の嫁は家事も仕事もしないで何やってるんでしょうね」
ブツブツ言いながら義母は、あちこち点検するかのように家の中を歩き回る。
「ほらほら、妊婦が部屋に閉じこもってばかりじゃダメじゃない。公園にでも行ってきなさい」
そして追い出されるように私は外へ出された。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
歩きながら出るのはため息ばかり。
家事が出来てないと言われるがどうしようもない。
父とナツさん夫婦や秘書の清水さんご夫妻を見てきて゛夫婦゛とは互いを助け合って生活するもの。
と、信じてきた私は、虎河さんと送ってきた実際の生活でその思いが大きく裏切られたような心境だ。
家事がまともに回らないのは彼が原因の部分が大きいのだ。
『とにかく怠けてないで働きなさい。家事は嫁の務め。じき赤ん坊が生まれるんだから家を綺麗に。夫の仕事は体力勝負だから栄養満点なものを』
もう両耳にタコである。
彼もいい加減なのだが義母も同じだ。
義母はたまに掃除などを手伝ってくれるが基本何もしない。
毎日やってきては家の中をチェックして小言を並べるばかり。
それから適当に時間を潰して帰る。
正直に言えば《来るな!》と声を大にして叫びたい。
だが会社での仕事に加えうちの家事でヘトヘトになっている私には、彼や義母と言い争う元気はもはやなかった。
なんだかんだ言ってもたまの散歩は良い気分転換になる。
短時間とはいえ久しぶりの外出は気持ちよかった。
「ただいま戻りました」
「やっと帰ってきたのね。ちょっと遅いんじゃない?」
「すみません」
《あなたが散歩してきなさいって言ったでしょ》
゛そんな長い時間じゃあるまいし゛などとは言えない。
小心者なのです。
義母が帰るとドッと疲れが押し寄せてきた。
そんな目まぐるしい日々が続き、お腹の赤ちゃんの検診を明日に控えた日。
事件が起きた、というかとある事実が明らかになった。
今日は比較的体調が落ち着いてるし衣替えをしておこうと、洋服の整理をしていたのだが。
クリーニングに出す前にと虎河さんのスーツのポケットをチェックしていたら出てきたのだ。
ラブホの領収書。
それを見た瞬間、頭の中が真っ白。
結局、玄関のドアが開いた気配がするまで、呆然とそれを見ていたのだった。
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