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49 東山・祇園
しおりを挟む暮れなずむ祇園東山エリアをそぞろ歩く2人の視界にものすごく派手な建物が見えてきた。
「ねぇ有利くん、あれは何のお店かしら?」
「え?」
有利も止まって、藍子が見ている方向を見た。
「げ……」
あ、あれはまさしく……
「何? ものすごくキレイな照明……」
「いや、気にしなくていい。と、とりあえず、お茶でもしようか」
「あ ―― もしかして……」
「へ?」
有利が藍子を見る。
「あれが……ラブホテル?」
これまでラブホテルなんてものを実際には見た事がなく、自分の予想が当たっていたら、とドキドキする。
有利は黙っている。
「そうなの? 有利くん」
有利を見て、もう一度聞くと、
「そうだよ。ラブホ。ほら、あのカフェに入ろう」
話題を変えて歩きだした有利の手を引き止める。
「藍子さん?」
「行ってみたい!」
「何言ってんの?!」
有利は驚いて大声をあげた。
「だって、凄くキラキラしてるもの! きっと中も綺麗なんでしょ?」
「そうかもしれないけど……それは……」
「どんな所か見てみたいの。それに個室なら、ゆっくり話せるでしょ?」
「いや、それはそうだけど……でも……」
有利が珍しく焦ってる。かなり焦ってる。
こんな彼を見たのは初めてかもしれない。
そして、もっと困らせたいと思ってしまう自分も発見した!
やだ、もの凄くワクワクする!
「ねえ、行ってみたいの! お願い! 有利くん」
「でも……」
「中に入るだけよ。何もしなかったらいいじゃない?」
そう言った自分の言葉に、ふと考える。
これはもしかして、互いの距離を一気に縮める大チャンス?
入ってしまえばこっちもん、って感じよね。
「有利くんが一緒に行ってくれなくても、ひとりでも行くから」
(いや、1人ってねぇ……)
「何言ってんだよ! 藍子さん、どうした? 何で ――」
「だって凄く興味があるもの! 見てみたいんだもん。こんな機会は2度とないかもしれないのよ?」
絶対に彼は追いかけてくるという確固たる自信を持って手を放し、キラキラしているホテルへ向かう。
案の定、追いかけてきた有利は藍子の手を掴む。
「何もしないからな? 部屋を見るだけだからな?」
「うん」
有利と手を繋いで、藍子が見つけたホテルだけではなく色とりどりのホテルが並んでいる道へ入る。
その道は、恋人同士であろう男女が多く歩いていた。
「ホテルばっかり……」
「ラブホ街だからね。で? どれがいいの?」
もう有利は半ばやけっぱちだった。
「んん……と、お勧めは?」
有利を見る。
「それを俺に聞くか?」
「だって詳しそうだし」
かなり意地悪な藍子を見て、有利は大きく息を吐いた。
「藍子さんが選んだホテルに入ろう」
「じゃあ、あのホテル!」
決して派手ではないが、女子が好きそうなヨーロッパの古城を模したホテルを指差した。
「はいはい」
少し苦笑いした有利が藍子の手を強く握り、
「絶っ対に、見学だけだからね?」
藍子を見て念を押すように言う。
「はいはい」
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