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別にこのまま死んでも……
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ある日、突然佐渡谷の所へ現れ俺を買った
あの不思議な男と一緒に、平均的な家より
少し豪華そうな邸宅へ行ったところで俺の心境は
最悪なままで。
あの男の部下らしい奴が運んでくる食事にも
一切手を付けなかったし。
早く死にたい……ただ、それだけを考え、
日がな一日、惰性で日々を過ごしていた。
お客が皆、茂ちゃんみたいだったら ――
なんて夢みたいな事を考えつつ、
後孔に出来た傷へ専用の軟膏を塗り込む。
佐渡谷の所で連日手酷い陵辱を受けていた身体中が
今になってずきずきと痛み出す。
これからもこんな事が続くと思っただけで
お先真っ暗になる。
あの男に買われて今は人並な生活をしているけど
結局は飼い主が変わっただけ。
見えない鎖に繋がれたままなんだ。
でも、一生自分は男からの暴力に怯えて
生きていくのだろうか。
何も知らなかった時にはもう戻れないのか。
体の奥に、心の奥に深く刻み付けられた傷は、
じくじくと熱をもって疼いている。
もう、戻れない……分かってはいても、
茂ちゃんみたいな優しさに触れてしまうと、
つい期待を抱いてしまう。
ふと顔を上げると、
向かい側の壁の鏡の中から自分自身が
見つめ返していた。
真っ白な頬に血の気がさしている。
生きているのだと思った。
”綺麗だ””可愛い”と”持て囃される”度、
こんな自分が嫌いになった。
女なら、その綺麗さは武器になったかもしれないが、
男の自分にとっては蔑まれ、いたずらに周囲を惑わす
ばかりなんだ。
小学校の卒業式の後、初めて犯され
「顔は殴るなよ」
自分を襲った男たちの1人の言葉を思い出す。
いっそボコボコにされてたら、
何もかも変わったのかもしれない。
こんな顔でさえなかったら。
あの男たちも客達も自分に執着しなかったのだ。
テーブルの上に置かれたナイフを手に取ったのは
無意識ではなかった。
それが自分を傷つけると承知でした事だった。
中途半端に逃げてしまわないように、
しっかり両手で持ったナイフの刃を自分の頬へ
押し付けた。
力を込め下へスッとナイフを引く ――。
サムライは良く研がれた刀なら介錯されても
ほとんど痛みは感じなかった、と、聞いた事が
あるが。
ソレって本当だ、と思った。
ナイフを引いた瞬間、最初に感じたのは冷たさ――。
次に自分の血の生暖かさと匂いを感じた。
あぁ――どうせ切りつけるなら、ほっぺたよか
首筋にすりゃあ良かった、なんて考えてるうち、
すざまじい痛みが俺を襲う。
床へ崩折れるよう倒れながらも俺はナイフを
離さなかった。
イヤ、痛みのあまり気を失いかけてたのかも
知れない。
ちょうど昼飯の時間で、
俺の分を運んできた奴が倒れている俺を見つけ
血相を変えた。
「ツ、ツナさんどうし ―― た、大変だ……
誰かっ! 誰か来てくれ!!」
奴は手近のタオルを掴み俺の頬へあてがった。
やがて幾つかの足音が近づく。
その中には俺を買ったあの男もいて
「どうし ――」
男が言葉を切ったのは、部下の肩越しに俺を見て、
鮮血に染まったタオルも見たからだろう。
男と一緒にやって来た他の部下も息を呑むのが
わかった。
「何て事を……」
男の飲み込んだ息は声にはならなかった。
でもその後の行動は驚くほど速くて、
男は部下に車を用意させ、俺を外へと連れ出した。
その間中痛みに襲われていた俺は空ろな意識のまま、
男に導かれるまま、車に乗せられた。
男が連れて行ったのは、古ぼけたアパートの一室。
髭面の初老の男は、胡散臭そうに男と俺を見た。
どうやら、2人は知り合いらしかった。
初老の男は俺と一緒の男を”竜二”と呼んだ。
「何をした?」
竜二に向かって詰問する。
「俺が自分でやったんです」
竜二よりも早く俺が答えた。
何故だか分からないけど、
それだけはきちんと伝えなくてはならない、
と思っていた。
「自分で、切りつけました……」
髭面の男はじっと俺を見ていたが、
やがて竜二に俺を台の上へ乗せるよう指示し
黙って治療を始めた。
まずは傷口の止血と縫合。
仕上げに消毒兼化膿止めと痛み止めの軟膏を
自傷した部分に塗られるとかなり痛みは楽になった。
それから、注射を1本打たれ、飲み薬を処方された。
「それなりの大金はかかるが、美容整形で皮膚を移植
すれば傷痕は目立たなくなる」
男はぶっきらぼうな調子で言った。
俺は小さく頷いた。
(このおっさんは医者だったのか……)
全ての支払いは竜二が済ませた。
あの不思議な男と一緒に、平均的な家より
少し豪華そうな邸宅へ行ったところで俺の心境は
最悪なままで。
あの男の部下らしい奴が運んでくる食事にも
一切手を付けなかったし。
早く死にたい……ただ、それだけを考え、
日がな一日、惰性で日々を過ごしていた。
お客が皆、茂ちゃんみたいだったら ――
なんて夢みたいな事を考えつつ、
後孔に出来た傷へ専用の軟膏を塗り込む。
佐渡谷の所で連日手酷い陵辱を受けていた身体中が
今になってずきずきと痛み出す。
これからもこんな事が続くと思っただけで
お先真っ暗になる。
あの男に買われて今は人並な生活をしているけど
結局は飼い主が変わっただけ。
見えない鎖に繋がれたままなんだ。
でも、一生自分は男からの暴力に怯えて
生きていくのだろうか。
何も知らなかった時にはもう戻れないのか。
体の奥に、心の奥に深く刻み付けられた傷は、
じくじくと熱をもって疼いている。
もう、戻れない……分かってはいても、
茂ちゃんみたいな優しさに触れてしまうと、
つい期待を抱いてしまう。
ふと顔を上げると、
向かい側の壁の鏡の中から自分自身が
見つめ返していた。
真っ白な頬に血の気がさしている。
生きているのだと思った。
”綺麗だ””可愛い”と”持て囃される”度、
こんな自分が嫌いになった。
女なら、その綺麗さは武器になったかもしれないが、
男の自分にとっては蔑まれ、いたずらに周囲を惑わす
ばかりなんだ。
小学校の卒業式の後、初めて犯され
「顔は殴るなよ」
自分を襲った男たちの1人の言葉を思い出す。
いっそボコボコにされてたら、
何もかも変わったのかもしれない。
こんな顔でさえなかったら。
あの男たちも客達も自分に執着しなかったのだ。
テーブルの上に置かれたナイフを手に取ったのは
無意識ではなかった。
それが自分を傷つけると承知でした事だった。
中途半端に逃げてしまわないように、
しっかり両手で持ったナイフの刃を自分の頬へ
押し付けた。
力を込め下へスッとナイフを引く ――。
サムライは良く研がれた刀なら介錯されても
ほとんど痛みは感じなかった、と、聞いた事が
あるが。
ソレって本当だ、と思った。
ナイフを引いた瞬間、最初に感じたのは冷たさ――。
次に自分の血の生暖かさと匂いを感じた。
あぁ――どうせ切りつけるなら、ほっぺたよか
首筋にすりゃあ良かった、なんて考えてるうち、
すざまじい痛みが俺を襲う。
床へ崩折れるよう倒れながらも俺はナイフを
離さなかった。
イヤ、痛みのあまり気を失いかけてたのかも
知れない。
ちょうど昼飯の時間で、
俺の分を運んできた奴が倒れている俺を見つけ
血相を変えた。
「ツ、ツナさんどうし ―― た、大変だ……
誰かっ! 誰か来てくれ!!」
奴は手近のタオルを掴み俺の頬へあてがった。
やがて幾つかの足音が近づく。
その中には俺を買ったあの男もいて
「どうし ――」
男が言葉を切ったのは、部下の肩越しに俺を見て、
鮮血に染まったタオルも見たからだろう。
男と一緒にやって来た他の部下も息を呑むのが
わかった。
「何て事を……」
男の飲み込んだ息は声にはならなかった。
でもその後の行動は驚くほど速くて、
男は部下に車を用意させ、俺を外へと連れ出した。
その間中痛みに襲われていた俺は空ろな意識のまま、
男に導かれるまま、車に乗せられた。
男が連れて行ったのは、古ぼけたアパートの一室。
髭面の初老の男は、胡散臭そうに男と俺を見た。
どうやら、2人は知り合いらしかった。
初老の男は俺と一緒の男を”竜二”と呼んだ。
「何をした?」
竜二に向かって詰問する。
「俺が自分でやったんです」
竜二よりも早く俺が答えた。
何故だか分からないけど、
それだけはきちんと伝えなくてはならない、
と思っていた。
「自分で、切りつけました……」
髭面の男はじっと俺を見ていたが、
やがて竜二に俺を台の上へ乗せるよう指示し
黙って治療を始めた。
まずは傷口の止血と縫合。
仕上げに消毒兼化膿止めと痛み止めの軟膏を
自傷した部分に塗られるとかなり痛みは楽になった。
それから、注射を1本打たれ、飲み薬を処方された。
「それなりの大金はかかるが、美容整形で皮膚を移植
すれば傷痕は目立たなくなる」
男はぶっきらぼうな調子で言った。
俺は小さく頷いた。
(このおっさんは医者だったのか……)
全ての支払いは竜二が済ませた。
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