溺愛! ダーリン

NADIA 川上

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驚きの連続

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 あの分かれ道を右折した車は新宿歌舞伎町方面へ
 向かった。
 
 十数分走って停まった場所は2丁目の近くにある
 雑居ビルの地下駐車場。
 

 佐渡谷の元から救い出してくれたのに、
 お礼を言うどころか迷惑のかけっ放しでも、
 文句のひとつも言わない手嶌さんは 
 フルネームを手嶌 竜二(てしま りゅうじ)と、
 言い。

 見かけは何処からどう見たって
 ”その筋の人”って感じだけど、
 ヤクザではなく『神楽ネゴオフィス』という
 弁護士や司法書士、それに ”よろず承り”の
 何でも屋の業務を一手に請け負っている事務所を
 経営してるのだそう。

 人は外見で判断しちゃいけないって言うけど。
 
 彼がまとっている近寄り難い雰囲気と、
 半端ない迫力で醸し出してる特有なオーラは、
 100%確実ヤの付く仕事してる人って思っていた。
 
 普通の勤め人だったのが意外だった。

 このエレベーターに向かう間も、乗ってからも、
 先導するよう”:鏑木(かぶらぎ)です”と名乗った
 ガタイのいい男が立ち。
 俺を抱きかかえた手嶌さんがその後ろ、
 そのまた後ろへさらに2人ぴったりと立った。 

 これが、ボディーガードってヤツ?
 もう、ますますヤの付く仕事してる人みたいじゃん。
 
 そう言えば、この地下駐車場に入ってくる出入り口や
 駐車場のいたる所に目立たないよう屈強な男の人が
 立っていた。
 
 まるで、何かを警戒してるみたいだと思った。
 
 
 エレベータは20階建てビルの最上階で止まり。

 俺達一行は大きな両開きの扉の前へ。

 鏑木さんが扉を軽くノックすると、
 中から「どうぞ」と、柔らかな声が返ってきた

 「どうぞ」と、鏑木さんが開けたドアから、
 室内へと進む。


 広い部屋の前面は硝子貼りになっていて、
 机と大きなソファしかないソファに座っていたのは。


「あっ! あぁ…… 茂ちゃん……」
 

 ほんとはそれなりに身分が高い人なんだろうけど、
 俺と2人の時は金持ちに良くありがちな驕り高ぶった
 素振りは微塵も見せなかった。
 それどころか、他人行儀な呼び方は止めて
 『儂の事は”茂ちゃん”とでも呼んでくれ』って言った。
  
 
「おぉ、やっと来たな。待ちかねておったぞ。
 ほれ、早うこっちへ来てくれ」


 手嶌さんが俺を茂ちゃんの隣に座らせてくれた。

 茂ちゃんは俺の顔をじっと凝視して、
 いきなりデコピン。

 びっくりした俺が目をパチクリさせてると、



「せっかくお母様が綺麗に産んで下さった顔にキズなど
 こさえおって……この親不孝者め」

「……ご、ごめ……なさい……」

「……まぁよい……無事で何よりじゃった」


 そう言う彼だって最後に会った時、心臓の具合が悪くなって
 途中で帰ってしまったから、俺は凄く心配してた。
 けど、今は血色も良く、お元気そうだ。 
 

「茂ちゃんの方こそ体の具合はどうなの?」

「あぁ、あの時キミに助けて貰ったおかげで今も
 この通りしぶとく生きてるよ」
 
「ふふふ……良かった」  

「今日こうしてキミを呼んだのは、改めてあの時の
 お礼がしたいと思ったからだ」
 
「お、お礼だなんてとんでもない。もう、十分過ぎる
 くらい貰ったよ」
 
「それでは儂の気が済まぬ。何でもいい。大抵の事なら
 叶えられるぞ」
 
 
 ―― って言われても、まいったなぁ~……
 
 俺の一番欲しいモノは他人がどうこう出来るもんじゃ
 ないんだ。 

 すると手嶌さんが茂ちゃんの傍らへ行き、
 茂ちゃんの耳元で何やら小声で言った。
 
 
「―― フム……それもそうだな」

   
 そこへチャラい雰囲気だけどちゃんとスーツを着た
 同い年位のヤツがやって来た。
 

「こいつは良守。ホレ、手嶌の秘書がおるじゃろ?
 彼の弟だ。今日からキミ専属の世話係だから
 用があったら何でも遠慮なく頼むといい」
 
 
 と、茂ちゃん。
 
 
「良守っす。宜しゅうお:頼申(たのもう)します」


 って、頭を深々と下げる良守くん。
 慌てて俺も返礼した。
 
 
「あ、こ、こちらこそ宜しく」


 な、何か、展開が急すぎてついてゆけない……
 
 
「どうした?」

 
 って、質問に答える間もなく、この室の一隅で
 『キャー! マジ可愛いっ!』って嬌声が上がり
 一同の視線はそちらへ流れた。
 
 
「ったく。また来てたのか」  
     
     
 手嶌さんからそんな風に言われたのは、
 艶やかな和装の ―― 女性?
 
 
「茂ちゃんに頼まれて出張クッキングに来たのぉ」

「ならさっさと作るもん作って帰れや」

「も~うっ、竜ちゃんってば相変わらずのてれ屋さん」


 その艶やかな人は憮然とする手嶌さんを
 軽くいなして、俺の方へやって来た。
 
 
「こんにちは~、はじめまして。私は:珠姫(たまき)。
 珠ちゃんって呼んでね」
 
「……」

「おい珠公。ツナが怯えてるじゃねぇか。それ以上
 近寄ると生かして帰さねぇ」
 
「まぁ、こわ~……ねぇ、早速だけど味見していい?」


 へ? 味見って、なによ。
 
 
「いいわきゃねぇだろっ!! てめぇ……マジ、
 東京湾に沈める」


 珠姫って名乗った和装の綺麗な人は
 ”オーホッホッホッホー”高笑いしながら、
 悠然と給湯室へ入って行った。
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