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一難去ってまた一難
しおりを挟む聖月・菊池とは図書館を出た所で別れ、
あつしと2人帰り道を辿る。
プッ プッ プッ プッ ――――
マナーモードにしたままのスマホにメールの着信。
発信者は?
【若宮 尊】 と、表示されてる。
並んで歩くあつしが「若宮?」と呟いた。
「お前、まだ奴と続いてたんか?」
「まだって何だよ ”まだ”って。それにな、
”続いてた”も何も、あいつと俺は何でも
ねぇから」
「あっちはそう思ってないんじゃね? そのメールが
何よりの証拠じゃん」
そうあつしが言った通り、実家であいつと
会って以来、あいつは大した用事もないのに
メールを送ってくる。
酷い時は1日に50通近く。
それはもう、スパムメールか?! ってくらい。
朝の”おはよう”から始まって、
”今日のお昼は何食べるのー?”
”帰りは何時くらい?”
”もう、帰った?”
”今、何してるのー? 僕はね……知りたい?”
”今夜もキミを想って1人寂しく寝るよ。お休み。
マイハニー”
(はぁ~~……やっと、終わった)
「男の癖に意外と筆まめなんだなぁ。かわいそうだし
1度お茶くらいしてやればー?」
「やーなこった。あいつのやに下がった顔想像した
だけで虫酸が走るっ。あいつと10分一緒にいる
くらいなら小煩い女子と一緒の方がまだマシだ」
「あーぁ、そこまで嫌われるなんてあいつもとんだ
野朗好きになったもんだ」
「たとえジェラルミンケース一杯の現金積まれたって
あいつとだけはごめんだね」
”ジェラルミンケース一杯の現金 ――”
この時は単なる言葉の例えとして言ったのだが、
よもやその例えが現実になろうとは、
さすがの綱吉も想像していなかった。
「じゃ、また明日なー」
「おぉ」
大通りから脇道への分岐であつしとも別れ、
しばらく歩いて大学附属病院の前に差し掛かった時、
新車のステーションワゴンの後部座席から手嶌に
付き添われた権藤が出て来る姿が見えた。
「あ、茂ちゃん ……」
綱吉はひと声かけようとするが、
権藤の姿があまりにも弱々し気で良守が持ってきた
車椅子に乗って病院の中へ入っていったので、
声はかけずに、ただ呆然とその姿を見ていた。
***** ***** *****
外来の診察室が並ぶ廊下 ――
診察時間は午前中で終わっているが、
一室のドアが開いて中から出てきた手嶌は
近くのベンチに腰掛け、はぁーっと深い溜め息を
吐いた。
コツ コツ コツ コツ ――――
近付いて来る靴音。
『手嶌さん』
「お前 ―― どうしてここに……」
「今さっき、茂ちゃん車椅子で入ってったけど……」
「……あぁ、今日からまたしばらく検査入院だ」
「また、って……そんなに前からだったの? どうして
何も教えてくれなかったの??」
「それが御前の希望だったんだ。お前には元気な姿
だけを見て欲しいと」
「……水臭いよ、茂ちゃん……」
手嶌は立ち上がりながら「時間あるか?」と
綱吉に訊ね、綱吉が頷くとゆっくり歩き出した。
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