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成長編
話し合いの場で
しおりを挟むコトがコトであるだけに両家話し合いの場は早急に設けた。
今回の事を話し合う為、父絢治・ナツさん、そして虎河さんとそのご両親と深大寺家の顧問弁護士だと言う50絡みの中年男性が和泉家の応接間に顔を揃えた。
弁護士の先生以外双方ともご近所なので、もちろん顔見知りだ。
話の内容から当たり前だが2組の家族の間には、重々しい空気が流れている。
それに虎河さんは ”嫌々やって来た”という感じがありありと分かる。
茉莉江とも絢音とも目を合わせようとはしない。
絢音から婚約解消されるのを怖れているみたいだ。
「私共の愚息がお宅の大事なお嬢さんを妊娠させてしまい、お詫びの言葉も御座いません」
虎河の母・涼香さんが、父絢治とナツさんに頭を下げている。
「まったくだ」
父絢治は不機嫌そうに、ひと言そう言っただけ。
ナツさんはどう言葉を返せばいいのか分からない様子だ。
「本当に申し訳ありません。どうお詫びしたらいいものか……」
「お宅の息子さんには、しっかり再教育して頂きたいですな。高校生でこんな事になるとは」
「はい。本当に申し訳ありません。息子も十分反省しております。ほらっ、あんたもお詫びしなさい」
涼香さんは、虎河さんの頭を床の上に押し付けた。
でも、深大寺さんと弁護士の方は、父絢治同様ずっと憮然とした表情を崩さない。
「すみません……」
虎河さんの口から、弱々しく言葉がもれた。
「もっと大きな声で謝りなさいっ」
『ちょっと待って下さい』
そう言ったのは父絢治だ。
「今回の事じゃうちの茉莉江にも思慮に欠ける行為があったし、私にも監督不行き届きの責任はあるから黙ってるつもりだったが。最近の子供は親に言われなきゃ謝る事も出来んのかと思ったら、無性に腹が立った」
すると、深大寺さんがうちに来て初めてその本音を露わにした。
「今、あなたはお宅のお嬢さんにも至らなかった点はあると認められたが、その通り。もしや、お宅のお嬢さんがうちの虎河をたぶらかしたんじゃないですか」
「何っ」「何だとっ!!」
その言葉にはいつも温厚な父絢治がいきり立った。
「あなた、何て事を……」
ナツさんと涼香さんだけがオロオロと狼狽えている
もう、何もかも滅茶苦茶だ。
虎河さんの投げやりな態度に腹を立てた父絢治の気持ちは痛いほど分かるけど。
虎河さん自身はは ”悪い事をした” なんてこれっぽっちも思っていないのだろうから仕方ない。
でも、茉莉江が虎河さんをたぶらかしたなんて、あんまりだ。
一瞬にして、険悪になったこの場の雰囲気をさらに悪化させるようなスマホの着信音が虚しく鳴り響く。
『失礼』と言って深大寺さんが通話に出た。
そして深大寺さんはその通話が終わっておもむろに立ち上がり、
「緊急な仕事が入ったので失礼させて頂く。この後の事は顧問弁護士と話を進めて欲しい。涼香、虎河、行くぞ」
自分の言いたい事だけをさっさと言い、返事も聞かずに出て行ってしまった。
虎河さんは ”助かったぁ”と、あからさまにほっとした表情を浮かべ、深大寺さんの後に続いた。
ただ1人、涼香さんだけがやって来た時と同じく平身低頭で何度も頭を下げ、出て行った。
「さぁ、茉莉江。疲れたでしょ。少しお部屋で休もうね」
「う、うん……」
ナツさんが茉莉江を連れ部屋から出て行った後、父絢治は珍しく『ちょっと、呑みたい気分だ』と言った。
絢音は『じゃ、私はおつまみの用意してくるね』と台所へ向かった。
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