アンフェア

NADIA 川上

文字の大きさ
15 / 26

続き

しおりを挟む
  痛めた足のせいで動けぬ実桜を、
  大の男が2人がかりで強引に連れ戻そうとする。

  対する実桜も素直には連れ戻されまいと
  激しい抵抗を試みるが、男2人がかりでは
  無駄に体力を消耗するだけだ。
  この界隈ではこういった事は日常茶飯事
  なのかもしれないが、こんな風に往来での騒ぎが
  長引けばサツ(警察)に通報される恐れもある。
  2人がかりで引っ立てられ、
  駄々っ子がイヤイヤをするように体を捻った実桜の
  太ももから上がドレスのスリットから見えた瞬間、
  柊二の体を一種の戦慄が走った。

  白い肌に散らばる、無数の傷痕。
  初めて出逢ったあの夜、同衾した時は
  シミひとつない滑らかな美しい絹肌だった……。
  それが今や無残にも ――
  キツく吸い付かなければあそこまでくっきりとした
  跡は残らないであろうと思われる程色鮮やかな
  キスマーク ――、歯形、ムチ打ちの痕が、
  痛々しいまでに肌を苛(さいな)んでいる。

  なかなか自分達の思い通りにならない実桜に
  業を煮やした2人の男のうち年長らしい方が
  「オラ、行くぞ」と、また乱暴に実桜の肩を
  鷲掴みにした時、柊二の我慢も限界に達し。
  その男の腕を渾身の力で捻り上げていた。


「っっ、い、ででででで ―― 何しやがんだっ!」


  と、粋がった男の表情は柊二を”煌竜会の若頭”と
  認めたとたん愕然となった。


「んな、子供1人相手に大の男が2人がかりか? 
 それにその子供、怪我しとるやないか、
 無体な真似はだいがいにしいや」


  ひと言発しただけで、
  2人の男も竦み上がるだけの迫力がある。
  天下の煌竜会・羽柴柊二の顔を知らぬ人間は、
  この町にはいない。
  まさか、こんな大物が自分らと係わり合いを持つ
  とは思ってもみなかった男達は、
  取り返しのつかない事をしてしまったのでは
  ないか? 自問を繰り返し、顔面蒼白だ。
  その男達がガタブルと震えながら柊二の方を
  凝視する横で、実桜はキョトンとした瞳を瞬かせて
  いる。


「オイ ――」


  やっと柊二の声に反応して、
  そちらへ向けられた実桜の顔が街灯の明かりに
  晒される。
  深い森を思わせるコバルトグリーンの瞳の色が、
  周囲からの明かりも反射してキラキラ光る。

  それは、それは、息を呑むほど美しかった……。

  無残な傷痕さえなければ極上の1級品である艶肌と
  翡翠のような瞳の色からして、
  異国の血が流れている事は間違いない。
  柔らかな金色の髪は染めているのか? 
  と思ったが、どうやら地毛のようだ。

  柊二は男から手を離すと、実桜を威圧しないよう
  ゆっくりとそちらへ近付いた。
  長身の自分と比べれば大抵の他人は小柄に
  見えるものだが、それにしても実桜はかなり小さい。
  150センチあるか、ないかというところであろう。
  年はどうサバ読んでも12~3才位にしか
  見えない。



「怖かったろ? 堪忍な」


  そのひと言にざわめきが起こった。
  煌龍会の若頭が公衆の面前でしかも見ず知らずの
  子供相手に詫びを入れるなど、前代未聞の出来事
  なのだ。

  柊二は自分の着ているコートを脱いで、
  肌も露わな実桜の肩へ羽織らせた。
  実桜は一瞬ビクンと体を震わせたが、
  すぐに柊二の真意を察したらしく、遠慮がちに
  『ありがとう』と呟いた。

  初めて実桜と接したあの夜は、
  如何せん実桜のイケイケムードに気圧されっ放し
  だったせいか。
  折れそうに細くひ弱な印象は、
  こうして間近で改めて見るとまた印象が違った。
  意志の強そうな眉はキレイな弧を描き、
  西洋人特有の彫りの深い目元はやや吊り上がって
  いて。
  ちょっとやそっとじゃ容易には手懐けられない
  手負いの小動物を思わせる。
  
  一文字にキュッときつく結ばれた唇は
  紅を挿したように色づいている。

  何としてでもこの女、手に入れたい。

  今、名前くらいしか知らぬ子供を前にして
  抑えようのない激情と衝動が込み上げてくる。

  どうしても欲しい。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

メイウッド家の双子の姉妹

柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…? ※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...