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再会
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「―― 社長、この後は元町で宜しいですね?」
「あ、あぁ ―― イヤ、やっぱり止めとくわ。
真っ直ぐ自宅へやってくれ」
「はぁ? 宜しいんですか?
浜乃家に寄らなくても」
「おぉ、かまへんかまへん」
等と、隣に座った50絡みの男と言葉を交わして
いたところへスマホの着信。
『――おぉ、聖子ママ、今ちょうど八木と2人ママの
噂してたところや……あー? そんなんやない
――おぉ、もちろん邪魔させてもらうで。あと、
20分もありゃ着くと思うさかい……あぁ、ほな
後で――』
渋顔でその通話を終えれば、
今の会話の内容から予定の変更の変更を
悟った隣の男は苦笑を浮かべこう言った。
「ま、これも義理ごとのひとつだと考えて、
諦めて下さい」
黒塗りのセルシオが沿岸に横浜港と相模湾を望む
首都高・横羽線を快走する。
助手席には屈強なボディーガードが、
そして後部座席にも50絡みのこれまた強面の男が
乗っている。
その傍らに長い足を優雅に組んで座っているのが、
羽柴柊二だ。
仕事は、東日本一帯を統べる九条組系二次団体の中
でも最も勢いのある広域指定組織煌竜会若頭。
押しも押されもしない組織のNo.2だ、
本来柊二は、組織の要職には就かず大学で得た
知識をフル活用し株と土地の売買でまったり
のんびりこの世知辛い世の中を生きて行こうと
考えていたが。
*年前叔父と腹違いの兄が相次いで凶弾に倒れる
といった非常事態で今のポストへ就いた。
目的の横浜・元町へ近付きつつある車窓へ
目をやり、今宵何度目かの小さなため息をつく。
今日は大きな商談をひとつまとめた帰りだ。
精神的にもかなり困憊しているし、
出来ればこのまま**の自宅へ
真っ直ぐ帰りたいというのが本音だった。
ただ、隣に座る男、組の相談役の1人で現組長の
懐刀とも言われるキレ者・八木が言うように、
この世界に身を置く以上こういった義理ごとは
必要不可欠な営業なのだ。
古今、”武闘派”を掲げてきた極道も
新・暴力団対策法の施行に伴い、
やれ出入りだ抗争だといった即懲役送りに
なりそうな荒っぽい事は滅多に起こさなくなった。
その代わり、付き合いのある同業者や財界人の
祝い事へ顔を出したり。
新しいビジネスチャンスを開拓する事が
これからの組織の主な稼業になってきている。
フロント企業と呼ばれる多くの会社を起業し、
必要とあれば海外へだって傘下を増やし。
潤沢な資金源を確保するかが、
どの組織にとっても生き残る上で最優先の重要課題
となったのだ。
*** *** ***
再びため息を吐いた時、
急ブレーキと共に車が停まる。
ぼんやり考え事をしていたせいで
思わず前のめりになったが、
何とか堪えた。
いつもは慎重過ぎるくらい慎重な
専属ドライバー・佐東にしては珍しいと思い、
柊二は端正な表情に微かなシワを寄せつつ
問いただす。
「どないした? 何があった」
「も、申し訳ございません旦那様、急に子供が――」
「子供――? まさか、轢いたのか」
「あ、イヤ、それもはっきりとは……」
ぱらぱらと人が集まってきたのが見える。
向こうから、地回りの下っ端らしい若い男が数人、
駆け付けて来たのも。
「ったく――」
自分の問いかけにも全く要領を得ない一同に
イラつき。
柊二は自ら後部席のドアを開けると長い足を外へ
下ろした。
「社長っ、いけません! 軽率な行動はお慎みを。
おい、岩沼!!」
急遽名指しされたボディーガードの岩沼が
慌てて助手席から飛び降り、
柊二の前へ庇うように立った。
物見遊山的なやじ馬達はちょっとした人だかりに
なりつつあった。
だが、そんな外野の雑音など柊二の耳には
一切入らなかった。
彼の視線は目の前に蹲っている少女・実桜に
釘付けになっていた。
「! お前、実桜やないか?! どないしたんや」
少女は間違いなく柊二の知ってる実桜で。
目にも鮮やかな深紅のチャイナドレスを身に着けて
いるのだが。
その瞳に、目の前の柊二は写っていなかった。
夢うつつ、というか……全く別次元のあらぬ方向を
見ている、というか……。
それに、転んだ拍子に擦りむいたのか?
膝小僧から血が滲んでいるし、恐らく転んだ時
一緒に捻ったのだろう、少し顔をしかめて足首を
手で擦っている。
しかし柊二は、高級コールガールを彷彿とさせる
いでたちの実桜の倒錯した姿に目を奪われていた。
ドクン、ドクンと鼓動が大きく波打つ。
「……実桜? 俺の事が分からねぇのか?」
そうこうしているうち、実桜を追ってきた地回りの
三下が ――
「―― ったく、こんなとこまで逃げやがって!」
「あんまり手間かけさせんなや。オラ、行くぞ」
と、若い方の男が掴んだ肩を実桜は邪険に
払い除け、2人の追手へこれ以上にない程の
侮蔑をこめた視線をぶつけた。
「あ、あぁ ―― イヤ、やっぱり止めとくわ。
真っ直ぐ自宅へやってくれ」
「はぁ? 宜しいんですか?
浜乃家に寄らなくても」
「おぉ、かまへんかまへん」
等と、隣に座った50絡みの男と言葉を交わして
いたところへスマホの着信。
『――おぉ、聖子ママ、今ちょうど八木と2人ママの
噂してたところや……あー? そんなんやない
――おぉ、もちろん邪魔させてもらうで。あと、
20分もありゃ着くと思うさかい……あぁ、ほな
後で――』
渋顔でその通話を終えれば、
今の会話の内容から予定の変更の変更を
悟った隣の男は苦笑を浮かべこう言った。
「ま、これも義理ごとのひとつだと考えて、
諦めて下さい」
黒塗りのセルシオが沿岸に横浜港と相模湾を望む
首都高・横羽線を快走する。
助手席には屈強なボディーガードが、
そして後部座席にも50絡みのこれまた強面の男が
乗っている。
その傍らに長い足を優雅に組んで座っているのが、
羽柴柊二だ。
仕事は、東日本一帯を統べる九条組系二次団体の中
でも最も勢いのある広域指定組織煌竜会若頭。
押しも押されもしない組織のNo.2だ、
本来柊二は、組織の要職には就かず大学で得た
知識をフル活用し株と土地の売買でまったり
のんびりこの世知辛い世の中を生きて行こうと
考えていたが。
*年前叔父と腹違いの兄が相次いで凶弾に倒れる
といった非常事態で今のポストへ就いた。
目的の横浜・元町へ近付きつつある車窓へ
目をやり、今宵何度目かの小さなため息をつく。
今日は大きな商談をひとつまとめた帰りだ。
精神的にもかなり困憊しているし、
出来ればこのまま**の自宅へ
真っ直ぐ帰りたいというのが本音だった。
ただ、隣に座る男、組の相談役の1人で現組長の
懐刀とも言われるキレ者・八木が言うように、
この世界に身を置く以上こういった義理ごとは
必要不可欠な営業なのだ。
古今、”武闘派”を掲げてきた極道も
新・暴力団対策法の施行に伴い、
やれ出入りだ抗争だといった即懲役送りに
なりそうな荒っぽい事は滅多に起こさなくなった。
その代わり、付き合いのある同業者や財界人の
祝い事へ顔を出したり。
新しいビジネスチャンスを開拓する事が
これからの組織の主な稼業になってきている。
フロント企業と呼ばれる多くの会社を起業し、
必要とあれば海外へだって傘下を増やし。
潤沢な資金源を確保するかが、
どの組織にとっても生き残る上で最優先の重要課題
となったのだ。
*** *** ***
再びため息を吐いた時、
急ブレーキと共に車が停まる。
ぼんやり考え事をしていたせいで
思わず前のめりになったが、
何とか堪えた。
いつもは慎重過ぎるくらい慎重な
専属ドライバー・佐東にしては珍しいと思い、
柊二は端正な表情に微かなシワを寄せつつ
問いただす。
「どないした? 何があった」
「も、申し訳ございません旦那様、急に子供が――」
「子供――? まさか、轢いたのか」
「あ、イヤ、それもはっきりとは……」
ぱらぱらと人が集まってきたのが見える。
向こうから、地回りの下っ端らしい若い男が数人、
駆け付けて来たのも。
「ったく――」
自分の問いかけにも全く要領を得ない一同に
イラつき。
柊二は自ら後部席のドアを開けると長い足を外へ
下ろした。
「社長っ、いけません! 軽率な行動はお慎みを。
おい、岩沼!!」
急遽名指しされたボディーガードの岩沼が
慌てて助手席から飛び降り、
柊二の前へ庇うように立った。
物見遊山的なやじ馬達はちょっとした人だかりに
なりつつあった。
だが、そんな外野の雑音など柊二の耳には
一切入らなかった。
彼の視線は目の前に蹲っている少女・実桜に
釘付けになっていた。
「! お前、実桜やないか?! どないしたんや」
少女は間違いなく柊二の知ってる実桜で。
目にも鮮やかな深紅のチャイナドレスを身に着けて
いるのだが。
その瞳に、目の前の柊二は写っていなかった。
夢うつつ、というか……全く別次元のあらぬ方向を
見ている、というか……。
それに、転んだ拍子に擦りむいたのか?
膝小僧から血が滲んでいるし、恐らく転んだ時
一緒に捻ったのだろう、少し顔をしかめて足首を
手で擦っている。
しかし柊二は、高級コールガールを彷彿とさせる
いでたちの実桜の倒錯した姿に目を奪われていた。
ドクン、ドクンと鼓動が大きく波打つ。
「……実桜? 俺の事が分からねぇのか?」
そうこうしているうち、実桜を追ってきた地回りの
三下が ――
「―― ったく、こんなとこまで逃げやがって!」
「あんまり手間かけさせんなや。オラ、行くぞ」
と、若い方の男が掴んだ肩を実桜は邪険に
払い除け、2人の追手へこれ以上にない程の
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