アンフェア

NADIA 川上

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つかの間の憩い

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  今日は月に1回だけ、
  実桜のようなΩのサポーターやシニア達が
  屋上での日光浴が許されている貴重な日。

  さわやかな初夏の風が吹いて、
  実桜の柔らかな金色の髪と薄桃色の肌を
  撫でてゆく。

  無意識に小さな笑みがこぼれる。

  そして、ゆっくりフェンスにもたれ遥か遠くへ
  目をやる。

  名だたる高級娼館や遊郭が立ち並ぶ
  ウエスト・エンドいちの花街。

  が、ここと一般の町とを区切る、
  高圧電流の流れた堅固でバカみたいに
  高い壁が周囲**キロをぐるりと囲っているので
  ”おい、それ”とは脱出不可能。
  正式な通行許可証を所持した者だけが、
  大門(おおもん)を通って外の世界へ出る事が
  出来る。


『ふふふ……』


  不意に聞こえてきた小さな声にびっくりして、
  前後左右をキョロキョロ見回す。


「御機嫌よう」


  と、実桜の横へ突然湧いて出たよう、
  羽衣をまとった年令・性別共に不詳の
  元・No.1シニア、桔梗が現れた。


「うわっ ―― びっくりした……」


  桔梗は何も言わずただ黙って実桜の顔を
  じぃ~っと凝視する。


「…………」
「…………」


  その沈黙に耐えられなくなったのは、実桜。


「あ、あの……何か?」

「……キミはまだ牙を失っていない。でもね、
 牙は最後の最後、取っておきに隠しておく
 ものだよ」
  
「!!……」

「キミが何を考えているのか。だいたいわかる。
 こんなとこに長くいればね。誰もが始めの数ヶ月で
 脱走を計画する。だがよほど上手くやらないと
 後悔する事になる。僕はそういう仲間をたくさん
 見てきた」

「……」


  見透かされて実桜は青ざめた。
  実桜は震える拳を握りしめ、思わずもらした。


「あんたはどうして逃げないの?……酷い目に
 もたくさん遭わされてきたんでしょ」

「キミはやさしいな」


  桔梗はふわりと笑った。


「でも、僕は大丈夫。僕は自分の意思でここにいるの
 だから。ついでに――独り言だけど ”シニア”に
 昇格が決まった生徒はしばらく全ての検査・実験
 からは離れて、徹底的に体を磨きこまれる。
 会話やマナーといった点に重点をおいた準備が
 始まるんだ。キミの場合もともと育ちが良いん
 だから、そうした事は今さら問題ないだろう」


  (育ちがいいって、言ったって、その肝心な記憶が
   欠落しちゃってるんだから、意味がない)


「……」

「それからキミも知っているだろうけど”シニア”
 昇格を望むなら、”聡明会”が裏でツルんでる
 **組の競売にかけられる。この競売はどうしても
 嫌なら拒否する事もできるけど、経験から言わせて
 もらえば拒否しない方がいい。それは何故か?は
 言わずもがなでしょ?」

「……」

「じゃあ、今日のところはこれで。
 日光浴の邪魔をしてごめんね」


  そう言い残し、桔梗は現れた時と同じく
  風のように去って行った。
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