アンフェア

NADIA 川上

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恋しくて

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  看護師は柊二の空になった点滴の薬剤を取り外して
  点滴針を抜いた痕に小さなカットバンを貼ると
  付き添いの実桜に軽く会釈して出て行った。

  ここはヒデの父親・日向医師の開業医院。
  本来、この病院は完全看護なので
  付き添いは不要なのだが、
  自分の為にここまで体を持ち崩した柊二を想って、
  実桜は看護師長へ無理を言って柊二の意識が戻る
  までと、付き添いを許可してもらったのだ。

  実桜は柊二の寝汗でベトついたパジャマを脱がせて
  お湯を絞ったタオルで汗ばんだ柊二の体を丁寧に
  拭いてやる。
  厚い胸板がゼェゼェと上下する。
  実桜は柊二に新しいパジャマを着せた。


  チッチッチッと時計の音だけが部屋に響く。

  少ししては柊二のおでこに当てられた熱冷シートを
  貼り替えた。


「……」

「ん……なに?」


  ハァハァと荒く息をつきながら柊二は
  うなされている。


「……お……み、お……」


  ”柊二……” 


「実桜……」


  そう言って掛け布団を握る柊二の手を実桜は上から
  ぎゅっと握った。
  柊二が薄目を開ける。
  うっすらと誰かが自分の手を握っていることに
  気づいた。


「み……お?」

「なぁに? 柊二。実桜はずっとココにいるから」


  柊二はほぅーっと息を吐き、
  安心したように再び眠りにつく。



  数時間後ふと柊二は目を覚ました。


「そうだ。俺、実桜と……」


  柊二は自分の手が温かい小さな手に
  包み込まれていることに気づく。
  学校の制服のまま柊二の手を握り椅子に座って
  ベッドに伏せって眠っている実桜。

  柊二は握られていない方の手で、
  そっと実桜の髪を撫でた。
  レースのカーテンから優しく注ぐ朝の
  日差しに包まれ、柊二の天使が目を覚ました。


「……オハヨ」


  実桜はすぐさま柊二のおでこの熱冷シートを
  剥がして、そのおでこへ自分のおでこをあてがって
  熱を診た。


「あぁ、良かった、熱、下がったよ」

「そっか、実桜が寝ずの看病してくれたおかげやな。
 おおきに」

「そんな……寝ずの看病だなんて大袈裟。私には
 こんな事くらいしか出来ないから」


  実桜の手首へ伸ばした柊二の手が、
  華奢な指に五指を絡めて繋がれ、
  そのまままだやや青ざめている頬に
  当てられた。


「実桜……もう少し……ここにいてくれるか?  
 もう少しでええから……」


  若さに似合わず、どんな苦境にも臨機応変に
  対応できる何事にも動じない柊二が、
  どこか弱気になっていることが感じられ、
  されるがままに、
  ここにいます、と答えた。


「かんにんな……明日には、ちゃんと元気に
 なるよって……心配、せんで……」


  また眠気が襲ってきたのだろうか。 

  柊二は、瞼が自然に下がろうとするままに任せた。

  その時、目を閉じた己の唇に、
  何か、覚えのある柔らかくて甘いものが
  押し付けられたのを感じて思わずぴくっと
  反応したが、目を開けることはしなかった。

  代わりに、覆いかぶさる頭の後ろに手を回して、
  もっとと促すように力をこめると、
  角度を変えてまた唇が重ねられた。

  眠気もなりを潜めてしまい、
  グミのような柔らかな肉を楽しんで、
  そっと舌を差し入れ、
  不意に逃げを見せる実桜の舌を絡めとる。 
  疲労で、体温が下がっているのか、
  実桜の口腔は、ひどく熱く感じられた。

  やがて実桜は、艶めいた吐息とともに、
  ゆっくりとその唇を離した。


「また、熱が上がっちゃうかも」

「そしたら、また、実桜が癒やしてくれよ」


  横たわって点滴をしたままの柊二は、
  片手で器用に実桜を引き寄せ抱きしめた。


「はい。よろこんで」

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