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東京編
哀しみの中で見出した一条の光
しおりを挟むそうして迎えた退院当日 ――
「やっほ~、退院おめっとさん」
「利沙ぁ、迎えに来てくれたのー?」
「当たり前でしょ~。ほんとはめぐ達も来たがった
んだけど、卒業式の準備に手間取っててね」
「そっか……で、利沙、頼んでおいた事だけど――」
「あんたから希望のあった通り準備は完了したけど。
本気なん?」
「うん。とりあえず誰も知らない所に落ち着いて。
先の事はゆっくり考えたい」
「……OK。あやがそこまで覚悟決めてるなら、
私はもう何も言わへん ―― ほな、行こか」
それから絢音と利沙の2人は病院の正面玄関前の
タクシー乗り場から乗ったタクシーで、
一路、利沙の実家・森下家が所有する箱根の
別荘へ向かった。
***** ***** *****
別荘はバブルの時に利沙の父が購入した
間取り2LDKのリゾートマンションで。
つましく生活していく限りマンションから
出なくても事足りる設備が整っている。
身の回りの小荷物を手早く片付けた後、
利沙と絢音は、マンション内のコンビニで適当に
飲み物と食料を買い、部屋でお酒抜きの女子会を
始めた。
「……けどさ~、
各務は大人しく引き下がるかなぁ~」
「……結婚すれば……時が経てば、私の事なんか
きっと忘れる」
「話しを聞いた限りじゃ、かなりあんたに
入れ込んでるみたいじゃん?」
「……」
「本当のところ、あやはどう思ってたん?
各務に惚れてなかったの?」
「……遊びだって、割り切れてたら、
どんなに良かったかって思えるくらい、
好きだった」
しばらく間をおいて、利沙が呟いた。
「……胸、貸してやってもいいよ」
「あ? 何しに?」
「あんた、泣きそうな顔してるから」
「!!……」
「子供の頃から人一倍泣き虫のくせして、
こんな時だけやせ我慢すんじゃないよ」
「……」
これまで必死にひた隠し、
押さえ込んでいた感情が利沙の「やせ我慢するな」
のひと言で一気に溢れ出た。
利沙は号泣する絢音を、子供の頃みたいに
ガシっと力強く抱き止めた。
「うんうん ―― 素直でよろしい……」
キッチンで酔い覚ましの夜食を作りながら
利沙にも大林校長からされた話しをした。
「―― やっぱりあーちゃんはやれば出来る子、
だったんだ」
「もーうっ。感心してる場合じゃないよ」
「フフフ……けど、解決法は意外とシンプル
なんじゃない?」
「……」
「やりたいと思う事はまだひとつも諦めちゃダメ。
諦めるのはいつでもできるから」
「諦めるのはいつでも……」
「もっともっとおばさんになってから、
諦めればいいのよ。
そりゃ今は、優先順位はもちろんあるだろうけど。
どれを先に実現させるかの違いで、まだまだ、
よくばりでいいと私は思う。
全部実現させたって誰も文句は言わないよ。
絢音の人生なんだからさ」
「(私の人生)……」
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