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東京編
運命のイタズラ? ―― 2
しおりを挟む神田三省堂で、目的の本と専門用語辞書を手に取り
それ以外に目についた小説の原書や観光ガイドを
物色する。
―― あぁ、こんなのんびりした時間もたまには
いいなぁ~。
私は少し楽しくなって、巨大な書店内の探策を
始めた。
あらゆる書籍がカテゴリーごとに整然と分別されて
いる大型書店は、私にとって知識の宝庫だ。
2階、文庫・新書・純文学・ノンフィクション・
洋書、のフロアーで、
スティーブン・キング原作「グリーン・マイル」を
手に取る。
この物語は、トム・ハンクス主演で1999年に
映画化されている(日本公開は2000年)
1932年、大恐慌時代の死刑囚が収容されている
刑務所を舞台とするファンタジー小説。
他に同氏のモダンホラーも2冊一緒に購入した。
店を出ながら利沙に電話をかける。
「今本屋出たとこ、利沙は何処におるー?」
『もうすぐ本屋が見えてくるよ』
私は周囲を見渡す。
「何処よ……」
こちらへ向かってくる人並みの中で立ち止まって
呆然と私を見ている見覚えのある顔が視界に
入った。
「そんな……」
2度と会わないと決めた竜二さんが立っていた。
私も凄く驚いたけど、
彼はもっと驚いた表情で私を見ている。
耳の奥で大きく聞こえる自分の心臓の音と共に
周囲の景色が消え、竜二さんだけが私の目に
映っている。
2人の間の時間(時)が止まった……。
私はその場に凍りついてしまったよう動けなかった。
竜二さんも動かなかった。
『絢音っ!』という利沙の声で
2人の時間は元に戻り呪縛が解けた。
―― ここにいちゃいけない。
利沙の腕を引っ張って竜二さんと反対方向にある
地下鉄の昇降口へ走り出した。
「待て! 絢音っ!」
竜二さんの声が聞こえなくなるまで
全速力で走った。
やっぱりここへは来るんじゃなかった。
スマホのエディ機能を使って自動改札機を通過。
階段も一気に駆け下りて、息を切らしながら
ベンチに座った。
ハァ ハァ ハァ ハァ ハァ …………
「ちょっ、あん、た……足、速……っ」
息を整えながら利沙が笑った。
「……ごめん」
「……鉢合わせちゃったね」
「うん……もしかしたら、とは思ってたけど、
びっくりした」
「でも、久々に顔、見られたやん」
「それはそうだけど……」
「や~ん、絢ちゃんってば、カオ真っ赤」
「ウルサイ」
「……んじゃ、行きますか、明神さんの桜まつり」
「まさかあっちでも、バッタリ、なんて事はない
よね?」
「あー? アハハハ ――
んな偶然そうそうある訳ないじゃん。
大丈夫 だいじょうぶー」
「だよね…… じゃ、行こうか」
いえ いえ、
1度ある事は2度ある、のです……
*** *** ***
絢音の後を追いかけたけど、通行人が邪魔をして
俺は絢音の姿を見失った。
まだ心臓が激しく脈を打っている……。
体の震えも止まらない。
久しぶりに見た絢音は変わっていなかった。
話したかった……抱きしめたかった。
忘れる事なんか出来るハズがない。
こんなにも絢音を心から愛しているのにっ。
俺は強引に気持ちを切り替え、
本屋で静流の用事を済ませ会社へ戻った。
*** ***
何も言わずに執務室へと入ったオレを不審に思い、
静流が後に続く。
「―― ありがと、結構気持ちよかったでしょ?
外も」
分厚い本の入った袋を受け取った。
「まぁ、な。気分転換にはなった」
「お祭りは6時スタートだから、5時半位に迎えに
来るわね」
と、静流は戸口へ向かう。
「―― 絢音と会った」
「!!……それで?」
「追いかけたけど逃げられた」
「あっちは若いのよ、
親父のあんたが敵うわけない」
「……あのまま彼女を連れて逃げ、
各務とも一生縁を切ろうかと考えた」
「バカ言ってんじゃないのっ。今さら何よ」
「分かってるさ。冗談だ、冗談……」
ため息をつきながら出て行った静流を
確認すると、俺はぐったり椅子に沈み込んだ。
あの時、躊躇せず絢音を捕まえていたら。
その足で東京を ――
日本を飛び出して行けたのに。
各務を捨て、ずっと一緒にいられたのにっ……。
叶わぬ事とは分かっている。
大きな代償が伴うバカな行動を、
絢音が許さない事も分かっている。
それでも俺は絢音と一緒にいたかった。
女々しく泣き出しそうな顔を両手で叩き活を入れ、
俺は残りの仕事を再開した。
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