友達の喪失

ドルドレオン

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私たちの青春は、堕落していたが、同時に輝いていた。
 醜い時代と、美しい時代の相克に、私たちは立っていた気がする。高校時代は遊びっぱなし。これといって勉強もしなかった。将来なんかどうにでもなると思っていた。そんな楽観的な観念が、私の脳髄に沁みついていた。薙は私の親友だ。高校の時から一緒に麻雀をやり、酒、煙草、荒れ放題だった。腐っていた。優等生を見ると、私たちは莫迦にした。高校は荒れていた。けれど、時折早稲田、慶應に行くやつもいた。
 そんな連中はどうでも良かった。薙は私とよく夕焼けを見ながら、煙草を吸った。彼は窃盗の常習犯だった。何でも奪った。まるで盗賊のように、彼は誇らしかった。
 そんな私たちも大人になって、社会を知った。それでも薙は窃盗を繰り返した。彼は莫迦だった。あまりにも白痴だったから、どこかおかしかった。けれど、何か人間臭かった。たまに彼の弱々しい、「ああ、もう駄目だ」という言葉を聞くと、心配になった。私はその時煙草を一つ恵んでやった。
 私は工場に勤務しながら、休日は薙とつるむ。居酒屋で酒を飲み、げらげら笑って、げそを食らい、阿保みたいに酒を飲んだ。彼は一升まるごと飲む。私は七合ぐらい飲んで、静かに飲んだ。彼はよく喋る。独房の話は面白かった。
「両手を紐で結ばれて、豚箱に放り込まれてよー、そして不味い飯を食ったぞ」
 そんなことを言いながらげそを食らい、酒を飲む。
 もう一度、私たちの時代にこれと言って黄金時代はなかったが、一瞬、一瞬が輝いていた。世間から見れば私たちは堕落者だが、私の血肉は、生に焦がれていた。
 けれど、どこか心の奥底で、今の自分に嫌悪していた。そして薙に真っ当な人生を送ってほしいと、漠然と考えたものだ。私は彼を肯定しながら、否定していた。けれど、否定しているときの自分は、どこか胡散臭かった。私は偽善者か? それとも悪か? きっと後者だろう。私はそれでも現状に満足していた。
 これは七月の莫迦に暑い夏の日であった。
 私は月曜日から、金曜日にかけて、怠惰に仕事をしていた。仕事が莫迦臭く感じる。何も魅力的なところなんかない。下らない。商品を神様である客に届け、達成感を得る? 下らない。私は働きたくない。黙って煙草を吸って、麻雀を打っていたい。麻雀は楽しい。スリルだ。私は強かった。沢山打った。プロなんか屁でもなかった。それより、雀荘のメンバーの方が強かった。彼らの方がよっぽど凌ぎを削っている。自分の生活がかかっているから、本気で打ってくる。けれど、私の方が強かった。よく薙と打ちに行った。私たち二人が来れば喜ばれた。たまにプロも打ちに来る雀荘だったが、彼らはマイナスで、私たちはプラスで帰る。
「よわ。あのレベルでプロやってんのかよ」薙。
「ああ、あそこは降りるとこじゃねえな、トップだからと言って漫然に打ってれば、足元をすくわれる。あれは、下との差を広げる打ち方をするべきだ」私。
「ああ、なあ武、この後飲み行こうぜ。この前くすねたものうっぱらって、金が入ったからよ」
「悪党だな、お前は」
「俺は悪党だ。悪だ。だがそれでいいのだ。善人ぶっている偽善者よりましだね。それより公然と、自分は悪党だ、って言ってるやつの方が好きだね。俺は無頼派さ。俺はてんで文学は読まねえが、太宰は好きだ。俺は太宰みたいに近い将来死ぬね」
「それはお前の直観か?」
「だなあ」
 私たちは本当に莫迦だった。莫迦すぎて、死にそうだった。まるで自分の堕落が、自分の魂を蹴落として、神に見放されるように。
 いや、神はこんな私たちを見放したに違いない。神? いないね。そんな高等な物。地球で頂点を張るのは、人間だ。そして地球で一番怖いのは、私たち、人間さ。
 薙は日中適当にバイトをしながら、暇なときは、エクセルを開いたり閉じたり、開いたり閉じたりしているらしい。それで月十六万の金が入るから、いい収入だ。そして休みの日は適当に店に入って、商品をくすね、それをネットだったり、買い取ってくれる店で売りさばく。彼が捕まったのは一回。豚箱で、呆然と天井を眺め、あー女を抱きてーなあ、なんてほざいていたらしい。本当に下らない人種なんだ。私たちは。

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