三時の雨

ドルドレオン

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市立図書館の古地図閲覧室は、思っていたよりも静かだった。天井が高く、長い木製の机に陽の光が斜めに差し込んでいる。古地図特有の、紙とインクが歳月を吸い込んだような匂いが漂っていた。

彼女は手慣れた様子で、大型の地図ファイルを一枚ずつめくっていく。まるで自分の部屋にいるかのように自然な手つきだった。

「見て、これ……1982年の地図」
彼女が指差したのは、僕の部屋があるあたり。
今では普通のアパートが立ち並ぶ住宅街だが、その地図ではそこに“記憶博物館”と記されていた。
記憶博物館。そんな施設、聞いたこともなかった。

「こんな建物、あったかな?」
「私も知らない。でもここ……ほら、“Vacuum Project協力機関”って書いてある」

彼女の声がかすかに震えていた。
ページの下部に、タイプライターで打たれたようなフォントでこう記されていた。

「1978年~1983年の間、Vacuum Projectの被験者データを一時保管。内部は非公開」

僕たちはしばらく黙ったまま地図を見つめていた。
ただの紙のはずなのに、そこからじんわりと熱が伝わってくるようだった。

「もしかしたら、このプロジェクトの残りのレコードは……そこにあったのかも」
彼女はぽつりと呟いた。「というか、今も“ある”のかも」

「でも、そんな施設もう存在してない」
「そう、だから逆に探せる。存在しないものって、たまに簡単に見つかるの。存在すると思い込んでるものの方が、よっぽど厄介」

彼女の言葉はいつも、少しだけ抽象的だった。でも、どこか説得力があった。
何より、彼女自身が“思い出されている存在”のように感じられてきていた。僕の知らない記憶の底から、浮かび上がってきたような。

図書館を出たあと、僕たちはその住所を訪ねてみることにした。
午後の陽射しは少し傾き、セミの声が遠ざかりはじめていた。

目的の場所に着くと、そこにはただの公園があった。
小さなブランコと、低い鉄棒。砂場。近所の子どもが一人、プラスチックのバケツで水を運んでいた。

「…おかしい。こんな場所、私見たことない」
彼女はその場に立ち尽くし、目を閉じた。

「ここ、何かが上書きされてる。まるで誰かが、記憶を“塗り直した”みたい」

そのときだった。
砂場の中央に、小さな黒い物体が埋まっているのが見えた。僕たちは無言でそれに近づいた。
それは、半分だけ砂に埋もれたレコードだった。白いジャケットに、今度は“右上”に黒い点。

彼女はそっとそれを拾い上げ、埃を払いながら言った。

「2枚目、見つけた」
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