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水曜日の午後、僕は表参道の古いジャズ喫茶で、誰かを待っていた。
正確に言うと「誰か」と言うしかなかった。なぜなら僕はその人の名前も顔も知らなかったし、会ったこともなかったからだ。ただ一通のメールが届いただけだ。
10月3日(水)午後3時。青いドアのジャズ喫茶「Rondo」。
コルトレーンの「Naima」が流れたら、カウンターで会いましょう。
それだけだった。差出人の名前はなかった。署名の代わりに、ただ一匹の猫の絵文字があった。灰色の長毛種のような、少し疲れた顔をした猫だった。
僕はそれを見て、何となく「行くべきだ」と思った。根拠はなかった。けれど僕には、そういう種類の直感がときどき訪れる。たとえば、午後にコーヒーを二杯飲むべきか否かとか、知らない駅で降りてみたくなるとか、左ポケットの小銭が今日は不吉な感じがするとか、そういったたわいのない種類の直感だ。でも今回は、それより少しだけ重たくて、なぜか音を持っていた。高い、金属的な音。遠くで鳴る風鈴のような音。
「Rondo」は骨董通りの裏路地にある、小さな地下の店だった。青いドアは少し塗装が剥げていて、かつて誰かが猫のシルエットを描いていた痕跡があった。
中に入ると、空気は外よりもずっと冷たく、静かだった。
ウッドベースの低音が床から染み込んでくるように響いていた。
僕はカウンターの端に座り、アイスコーヒーを注文した。
そして「Naima」が流れ始めたのは、それから十五分後のことだった。
正確に言うと「誰か」と言うしかなかった。なぜなら僕はその人の名前も顔も知らなかったし、会ったこともなかったからだ。ただ一通のメールが届いただけだ。
10月3日(水)午後3時。青いドアのジャズ喫茶「Rondo」。
コルトレーンの「Naima」が流れたら、カウンターで会いましょう。
それだけだった。差出人の名前はなかった。署名の代わりに、ただ一匹の猫の絵文字があった。灰色の長毛種のような、少し疲れた顔をした猫だった。
僕はそれを見て、何となく「行くべきだ」と思った。根拠はなかった。けれど僕には、そういう種類の直感がときどき訪れる。たとえば、午後にコーヒーを二杯飲むべきか否かとか、知らない駅で降りてみたくなるとか、左ポケットの小銭が今日は不吉な感じがするとか、そういったたわいのない種類の直感だ。でも今回は、それより少しだけ重たくて、なぜか音を持っていた。高い、金属的な音。遠くで鳴る風鈴のような音。
「Rondo」は骨董通りの裏路地にある、小さな地下の店だった。青いドアは少し塗装が剥げていて、かつて誰かが猫のシルエットを描いていた痕跡があった。
中に入ると、空気は外よりもずっと冷たく、静かだった。
ウッドベースの低音が床から染み込んでくるように響いていた。
僕はカウンターの端に座り、アイスコーヒーを注文した。
そして「Naima」が流れ始めたのは、それから十五分後のことだった。
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