1 / 2
1
しおりを挟む
午後四時ちょうどに、僕は決まって図書館の四階、窓際の席に座る。ちょうどそこは、曇ったガラス越しに線路が見える場所で、たまに貨物列車がゆっくりと通り過ぎていく。ガタン、ゴトンという音は、誰かが遠くでピアノの鍵盤を鈍く叩いているように聞こえる。
僕はその席でいつも同じように、黒い表紙のノートと、ミルクを少しだけ入れた缶コーヒーを取り出す。ノートには何を書くわけでもない。日付と、天気、そしてたまに夢の断片。今日もまた、何も書かずにページをめくる。
その日、いつも通りページをめくっていると、ひとつの便箋がノートの間から滑り落ちた。僕の筆跡ではなかった。便箋は淡い青色で、紙の端に銀色の猫が印刷されている。まるで誰かが、昨日の夢から持ってきたみたいだった。
手紙にはこう書かれていた。
「あなたがこの席に座るのは、午後四時ちょうどですね。私はあなたを知っています。でも、あなたは私を知りません。
今夜、図書館の裏手にある古い階段を降りてきてください。音を立てずに。
そこに、私の話の続きを置いておきます。」
もちろん、そんなものは無視すればよかった。誰かの悪戯か、あるいは僕自身の記憶の罠だ。でも僕はその夜、言われた通りに古い階段を降りた。
階段は、思っていたよりも長く、そして深かった。まるで、図書館の建物全体が地中に沈み込んでいるような感覚にとらわれた。途中で一度だけ立ち止まり、後ろを振り返ったが、そこにはただの暗闇しかなかった。
階段を降りきった場所には、誰もいなかった。けれど、小さな机がぽつんと置かれていて、その上にもう一通の便箋が置かれていた。
「ありがとう。
あなたがここまで来てくれたことで、私はもう少しだけこの物語を続けられる気がします。
でも、この先はもう少し、深い場所になります。もしそれでも進むのなら、次の金曜日、午後四時。もう一度、あの席でお会いしましょう。」
僕は便箋をポケットに入れて、階段を静かに戻った。途中、微かに誰かの鼻歌が聞こえた気がした。ビリー・ホリデイの「I'll Be Seeing You」だった。
それ以来、僕は毎週金曜日、午後四時にあの席に座っている。でもあの便箋は、それ以来一度も現れない。
代わりに、僕の夢の中で、銀色の猫が階段の途中に座っている。
彼は何も言わない。ただ、僕がちゃんと来ているかどうかを確かめるように、ゆっくり瞬きをするだけだ。
僕はその席でいつも同じように、黒い表紙のノートと、ミルクを少しだけ入れた缶コーヒーを取り出す。ノートには何を書くわけでもない。日付と、天気、そしてたまに夢の断片。今日もまた、何も書かずにページをめくる。
その日、いつも通りページをめくっていると、ひとつの便箋がノートの間から滑り落ちた。僕の筆跡ではなかった。便箋は淡い青色で、紙の端に銀色の猫が印刷されている。まるで誰かが、昨日の夢から持ってきたみたいだった。
手紙にはこう書かれていた。
「あなたがこの席に座るのは、午後四時ちょうどですね。私はあなたを知っています。でも、あなたは私を知りません。
今夜、図書館の裏手にある古い階段を降りてきてください。音を立てずに。
そこに、私の話の続きを置いておきます。」
もちろん、そんなものは無視すればよかった。誰かの悪戯か、あるいは僕自身の記憶の罠だ。でも僕はその夜、言われた通りに古い階段を降りた。
階段は、思っていたよりも長く、そして深かった。まるで、図書館の建物全体が地中に沈み込んでいるような感覚にとらわれた。途中で一度だけ立ち止まり、後ろを振り返ったが、そこにはただの暗闇しかなかった。
階段を降りきった場所には、誰もいなかった。けれど、小さな机がぽつんと置かれていて、その上にもう一通の便箋が置かれていた。
「ありがとう。
あなたがここまで来てくれたことで、私はもう少しだけこの物語を続けられる気がします。
でも、この先はもう少し、深い場所になります。もしそれでも進むのなら、次の金曜日、午後四時。もう一度、あの席でお会いしましょう。」
僕は便箋をポケットに入れて、階段を静かに戻った。途中、微かに誰かの鼻歌が聞こえた気がした。ビリー・ホリデイの「I'll Be Seeing You」だった。
それ以来、僕は毎週金曜日、午後四時にあの席に座っている。でもあの便箋は、それ以来一度も現れない。
代わりに、僕の夢の中で、銀色の猫が階段の途中に座っている。
彼は何も言わない。ただ、僕がちゃんと来ているかどうかを確かめるように、ゆっくり瞬きをするだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
魔女の祝福
あきづきみなと
恋愛
王子は婚約式に臨んで高揚していた。
長く婚約を結んでいた、鼻持ちならない公爵令嬢を婚約破棄で追い出して迎えた、可憐で愛らしい新しい婚約者を披露する、その喜びに満ち、輝ける将来を確信して。
予約投稿で5/12完結します
女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る
小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」
政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。
9年前の約束を叶えるために……。
豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。
「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。
本作は小説家になろうにも投稿しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる