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第3章:図書館の地下と記憶のラベル
その夢は奇妙に鮮明だった。
僕は、どこかの古い図書館の中にいた。場所は知らない。でも、見覚えがあった。というより、“知っていた”という感覚に近い。暖かいランプの明かり、湿った木の匂い、足音が沈んでいくような絨毯の感触。夢の中なのに五感のすべてが反応していた。
本棚はどれも高く、階段がないと届かないような本ばかりが並んでいた。背表紙には言語ではない記号が並んでいて、それを読むことはできなかった。でも、意味はわかった。まるで記憶の奥底から引き出される直感のように。
そして、図書館の一番奥に、ひとつだけ開いたドアがあった。そこには「地下書庫」と書かれていた。
僕は階段を下りた。冷たい空気が肌にまとわりつき、足音が徐々に遠ざかっていく。まるで僕自身がこの空間から“脱色”されていくような感覚だった。
地下書庫には、人が一人座っていた。紺のカーディガンを着た女性。机の上には古いタイプライターと、いくつかのレコードジャケット。そして、例のグレープフルーツジュース。
「久しぶりね」と彼女は言った。
「ミドリ…なのか?」
「名前なんて、季節が変われば変わるものよ。でも、あなたが呼ぶならそれでいい。」
彼女は立ち上がり、レコードジャケットの1枚を僕に差し出した。ジャケットには、音符も文字もなく、ただ17個の白い円が並んでいた。それぞれ微妙に形が違い、どこか人の顔のようにも見えた。
「これは何?」
「記憶のラベル。人が忘れたくない瞬間の、音のない記録。世界には言葉にできない“残響”があって、それをこのレコードに閉じ込めているの。」
「僕のも、あるのか?」
ミドリは微笑んだ。まるで、ずっと前からその質問を待っていたかのように。
「あるわ。でも、それを聴く覚悟はある? 本当に聴くというのは、失うことでもあるの。」
僕はゆっくりうなずいた。
彼女は棚から一枚のレコードを取り出した。ジャケットには何も描かれていなかった。ただ、裏に小さく手書きでこう記されていた。
午後4時の無音、記憶番号:M-17-04
その夢は奇妙に鮮明だった。
僕は、どこかの古い図書館の中にいた。場所は知らない。でも、見覚えがあった。というより、“知っていた”という感覚に近い。暖かいランプの明かり、湿った木の匂い、足音が沈んでいくような絨毯の感触。夢の中なのに五感のすべてが反応していた。
本棚はどれも高く、階段がないと届かないような本ばかりが並んでいた。背表紙には言語ではない記号が並んでいて、それを読むことはできなかった。でも、意味はわかった。まるで記憶の奥底から引き出される直感のように。
そして、図書館の一番奥に、ひとつだけ開いたドアがあった。そこには「地下書庫」と書かれていた。
僕は階段を下りた。冷たい空気が肌にまとわりつき、足音が徐々に遠ざかっていく。まるで僕自身がこの空間から“脱色”されていくような感覚だった。
地下書庫には、人が一人座っていた。紺のカーディガンを着た女性。机の上には古いタイプライターと、いくつかのレコードジャケット。そして、例のグレープフルーツジュース。
「久しぶりね」と彼女は言った。
「ミドリ…なのか?」
「名前なんて、季節が変われば変わるものよ。でも、あなたが呼ぶならそれでいい。」
彼女は立ち上がり、レコードジャケットの1枚を僕に差し出した。ジャケットには、音符も文字もなく、ただ17個の白い円が並んでいた。それぞれ微妙に形が違い、どこか人の顔のようにも見えた。
「これは何?」
「記憶のラベル。人が忘れたくない瞬間の、音のない記録。世界には言葉にできない“残響”があって、それをこのレコードに閉じ込めているの。」
「僕のも、あるのか?」
ミドリは微笑んだ。まるで、ずっと前からその質問を待っていたかのように。
「あるわ。でも、それを聴く覚悟はある? 本当に聴くというのは、失うことでもあるの。」
僕はゆっくりうなずいた。
彼女は棚から一枚のレコードを取り出した。ジャケットには何も描かれていなかった。ただ、裏に小さく手書きでこう記されていた。
午後4時の無音、記憶番号:M-17-04
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