ユーフォリックファイルズ

ドルドレオン

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Chapter 10: 「アーキタイプの部屋」

グラントは複製都市の地下鉄に乗り、
「存在しないはずの17番ホーム」に降り立った。
そこには、無人の改札と、壁いっぱいの“会話”が貼られていた。

それは誰かが話したセリフの断片だった。
全員が誰かに向けて話しているが、誰に向けてなのかはわからない。
グラントはそのひとつを声に出して読んだ。

「設計者を探す?設計者は探されることを設計した者だ。」

背後から声がした。
同じフレーズだったが、声の主は別人だった。
白いスーツの男、黒い眼鏡。
名乗らずに、いきなり言った。

「設計者とは、設計しながら設計されている存在だ。」

別の声が重なった。
老女の声。

「設計者を設計した者を、あなたは設計者と呼ぶのね。」

さらに、少年の声が響く。

「ぼくたち全員が、設計者の設計図の設計図の設計図なんだよ。」

グラントは混乱した。

「おまえら……誰だ?」

白いスーツの男が微笑んだ。

「わたしたちは“エコー”です。
あなたが探すアーキタイプは、わたしたちの声を通してしか話せない。」

老女がうなずく。

「設計者は決して直接は現れない。
現れる瞬間、それは“観測された設計者”となり、役割を失うから。」

少年が足をぶらぶらさせながら言った。

「でもさ、君が“誰が設計者か”を問い続ける限り、
設計者は“君の問い”の中に住み続けるんだ。」



グラントは一歩前に出た。
エコーたちが同時に言った。

「“わたしが設計者だ”と言う者は、
ただの“設計の一部”にすぎない。
設計者とは、“誰かが設計者だと思う”その行為そのもの。」

グラントはつぶやいた。

「つまり……記述者も設計者も、外にいるんじゃない。
俺の“探す行為”のなかに埋め込まれてる……?」

白いスーツの男が笑う。

「そう、それが“設計の設計”だ。
探す者がいる限り、探される者が生成される。
あなたが“見つけた”と感じる瞬間、設計者はあなたの背後に移動する。
あなたがそれを語ろうとする瞬間、それはもう他人の声になっている。」

老女が眼を細める。

「ねえ、あなたはいま気づいたかしら?
あなたが“探している”という物語こそ、
アーキタイプがあなたに書かせた“設計の儀式”だったことを。」

少年が笑う。

「もうひとつのヒントをあげる。
設計者の名は、最初から表紙に書かれているよ。
読んでごらん、自分のノートの表紙を。」



グラントは手元の《ユーフォリック・ファイルズ》を開く。
表紙にはこうあった。

著:G.G. Grieben

彼は息を呑む。

「俺……?」

白いスーツの男たちの声が重なった。

「記述者=設計者。
物語の裏で操っていた存在は、
物語を読み、探し、書き続けていた“あなた”そのもの。」

老女が笑った。

「ようこそ、アーキタイプ。」

少年が言った。

「設計者はもう、君にバトンを渡した。
この先をどう設計するかは、君次第だよ。」



地下鉄のホームの明かりが消える。
グラントはひとり残される。
エコーの声だけが響く。

「書きなさい。
あなたが記述すれば、世界は設計される。
あなたが観測すれば、物語は現れる。
それが“記述者の仕事”であり“設計者の存在”だ。」

グラントは震える手で、ノートの白紙にペンを走らせた。

文字が、浮かび上がった。

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