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『雨と硝煙の街』第三章:旧駅にて
午前2時47分。
旧・東都中央駅跡地。
かつては街の中心だったこの駅も、今は地下鉄計画の失敗と再開発の頓挫で打ち捨てられ、コンクリートの残骸と鉄骨の骨組みだけが風に軋んでいた。
風は冷たく、雨はしつこく、空気は腐った鉄と古い油の匂いを孕んでいる。
そして、この空間にはもうひとつの匂いが漂っていた。
危険の匂いだ。
俺はホームの影から様子を伺った。
いた。唐沢だ。
写真と同じコート、だが顔つきが違う。あれは「逃げている顔」じゃない。「狩る側」の顔だ。
目の奥にもう、人間らしい温度はなかった。
唐沢の前に立つ男。
初老のスーツ姿。分かる、あれは取引人じゃない。観察者だ。何かの「後ろ」にいる奴。組織の人間の匂いがする。
俺が手を伸ばした瞬間、背後から鋭く乾いた音。
——カチャッ。
「動くな。探偵さん。」
背後に銃口の感触。
浅い呼吸と香水の匂い。俺はその声を知っていた。
女だった。あの女。唐沢の妹を名乗った。
「まさか、あんた……」
「ごめんなさいね。でも、兄はもう止められない。だから……あなただけでも、ここで黙らせておくしかなかったの。」
「兄を助けたいって言っただろ。」
「助けるの。“神”として。」
そのときだった。ホームの奥で銃声が響いた。二発。短く、鋭く、正確に。
唐沢が動いた。取引相手の男が倒れた。
まるで最初から、交渉などなかったかのように。
「なにが起きてる……?」
「兄は薬を手に入れたの。感情を抑制し、判断力と暴力性を高める薬。軍需転用もできる代物。でも、それを渡したら世界が変わる。彼はそれを、“新しい秩序”に使うつもり。」
女の声が震える。どこかでまだ人間の心が残っているのかもしれない。
「彼はもう、兄じゃない。」
俺は振り返った。
そして言った。
「それなら、止めるのは——あんたしかいない。」
雨が止んだ。
だが俺の中には、嵐が吹き荒れていた。
午前2時47分。
旧・東都中央駅跡地。
かつては街の中心だったこの駅も、今は地下鉄計画の失敗と再開発の頓挫で打ち捨てられ、コンクリートの残骸と鉄骨の骨組みだけが風に軋んでいた。
風は冷たく、雨はしつこく、空気は腐った鉄と古い油の匂いを孕んでいる。
そして、この空間にはもうひとつの匂いが漂っていた。
危険の匂いだ。
俺はホームの影から様子を伺った。
いた。唐沢だ。
写真と同じコート、だが顔つきが違う。あれは「逃げている顔」じゃない。「狩る側」の顔だ。
目の奥にもう、人間らしい温度はなかった。
唐沢の前に立つ男。
初老のスーツ姿。分かる、あれは取引人じゃない。観察者だ。何かの「後ろ」にいる奴。組織の人間の匂いがする。
俺が手を伸ばした瞬間、背後から鋭く乾いた音。
——カチャッ。
「動くな。探偵さん。」
背後に銃口の感触。
浅い呼吸と香水の匂い。俺はその声を知っていた。
女だった。あの女。唐沢の妹を名乗った。
「まさか、あんた……」
「ごめんなさいね。でも、兄はもう止められない。だから……あなただけでも、ここで黙らせておくしかなかったの。」
「兄を助けたいって言っただろ。」
「助けるの。“神”として。」
そのときだった。ホームの奥で銃声が響いた。二発。短く、鋭く、正確に。
唐沢が動いた。取引相手の男が倒れた。
まるで最初から、交渉などなかったかのように。
「なにが起きてる……?」
「兄は薬を手に入れたの。感情を抑制し、判断力と暴力性を高める薬。軍需転用もできる代物。でも、それを渡したら世界が変わる。彼はそれを、“新しい秩序”に使うつもり。」
女の声が震える。どこかでまだ人間の心が残っているのかもしれない。
「彼はもう、兄じゃない。」
俺は振り返った。
そして言った。
「それなら、止めるのは——あんたしかいない。」
雨が止んだ。
だが俺の中には、嵐が吹き荒れていた。
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