硝煙

ドルドレオン

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『雨と硝煙の街』
第八章:神崎

《INNOVA》のデータ。
黒崎の名前。
姉の記録。

俺が求めていた“真実”は、ずっとそこにあった。
それを見ないふりをしてきたのは、俺自身だ。
この街の闇の深さを知っていたから。
俺が手を伸ばせば、誰かがまた沈むとわかっていたから。

だがもう、迷う理由はなくなった。

神崎仁——ただの探偵だった俺は、あの夜、確かに変わった。

その夜、俺はひとり、東都港の第六ドックへ向かった。
ここに《INNOVA》の下請け組織が使っているという“影の物流拠点”があるという。
八代からの情報は曖昧だったが、十分だ。
匂いさえ掴めれば、俺はそこから血の跡をたどれる。

倉庫の鉄扉は鍵が外れていた。
静かに開けると、中には予想以上のものがあった。

——人体の冷却カプセル
——薬品ラベルの剥がされたガラス瓶
——通信機器、モニター、そして……記録映像

俺は一台の端末を起動させ、映像ファイルを開いた。
そこには、3年前の火災事故の“前日”の映像が残っていた。

映っていたのは、姉だった。

白衣姿。焦燥に満ちた顔。
そして彼女の背後には——

黒崎礼司。
モニター越しでも、あの目は忘れられない。
冷たい理性。人を人と思わない、効率だけの眼差し。

「……実験対象が不安定すぎます。これ以上は——」
「問題ない。」黒崎は静かに言った。
「君の役割は観察だ、神崎沙耶。感情は、不要だ。」

次の瞬間、姉が彼に向かって言い放つ。

「あなたのやっていることは、ただの人体実験よ。人を兵器にしようとしてる!」

その言葉の直後、映像は途切れた。
ファイルの破損か、それとも意図的か。

俺は端末の画面をじっと見つめた。

ああ、分かったよ。

黒崎。
お前は人間じゃない。
いや、人間を捨てた者だ。
その代わりに手に入れたのが、“ゼロ”の名か。

——K-0(ケイ・ゼロ)
感情ゼロ。倫理ゼロ。罪悪感ゼロ。
冷徹で合理的な“秩序”の具現。

だがな、黒崎。
俺はまだ、人間でいる。

そして、お前を地獄へ引きずり込む資格がある。
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