硝煙

ドルドレオン

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『雨と硝煙の街』
第九章:対峙

午前2時15分。
東都第十地区、かつての中央情報管理局ビル跡地。
今は廃墟。だが、情報の匂いがまだ残っている。
八代のルートから漏れてきた情報——**黒崎礼司はここに“現れる”**という。

まるで、俺を待っているような話だった。

コンクリートの崩れた壁を抜け、静まり返ったロビーへ入ると、そこにいた。

黒いスーツ。
皺ひとつない。
光のない目で、真っ直ぐにこちらを見つめていた。

黒崎礼司。

俺は足を止めた。
風が吹く音さえ、どこか遠くに感じた。

「……生きてたか、黒崎。」

彼はわずかに口角を動かした。
だが、それは笑みではなかった。ただの“反応”だ。

「生きているという定義が曖昧だな、神崎。」

「姉さんを殺したのは……お前だな。」

「彼女は、プロジェクトの倫理的リスクだった。排除しただけだ。」

その言葉は、予想通りだった。
感情はない。ただの“処理報告”。

だが、俺の中に渦巻いていた怒りは、もう爆発しない。
冷たく、深く、沈んでいる。

「今さら正義ぶる気はない。ただ、俺は……お前の目が許せねぇ。」

「目?」

「人間を見ていない目だ。生き物じゃなく、構成要素としてしか見てない。その目で、姉さんを“処理”したんだろ?」

黒崎は無言だった。
そして静かに歩み寄ってきた。

「……君も気づいているはずだ、神崎。」
「この国は、いや世界は“統制”を必要としている。感情ではなく、計算で未来を作る必要がある。私のやろうとしていることは、進化だ。」

「お前の言う進化は、命を数字にすることか?」

「そうだ。秩序は、犠牲を前提にしか成立しない。私も、彼女も、その一部だった。」

俺は銃に手をかけた。
だが、引き金には触れない。まだだ。まだ、話は終わっていない。

「その秩序が生んだのが“俺”だとしたら……お前にとっても誤算だな。」

「君は、計画の外側の存在だった。」

「それが、人間ってもんだよ。計画じゃ処理できねぇ存在だ。」

黒崎の瞳が、ほんのわずか揺れた。

たったそれだけ。
だが、それが感情だった。

俺は確信した。
こいつにも“まだ”人間のカケラが残っている。
そしてそれは、いずれ綻びになる。

俺は銃をホルスターに戻した。
黒崎の前で、撃たなかった。

「殺すのは、今じゃない。」

「なぜだ?」

「お前が何を恐れるのか、見極めるまではな。」

黒崎はそれ以上、何も言わなかった。
ただ静かに背を向け、そのまま奥の闇へと消えた。

俺はその背を見送った。
撃てた。
撃つ理由も、正当性もあった。
だが今の俺に必要なのは、勝ちじゃない。

——決着だ。
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