硝煙

ドルドレオン

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『雨と硝煙の街』
第十章:生存者の証言

「名前は、朝倉映子(あさくら・えいこ)」
八代は情報と一緒に、封筒をテーブルに置いた。
「元・心理プロトコル部門の主任研究員。神崎沙耶とも直接やり取りしていた。火災事故後、行方不明になってたが……生きてたよ。」

封筒の中には、郊外の廃病院の写真。
そして、女の横顔。
痩せこけ、髪は乱れ、だがその眼には火が残っていた。

「今は自分を“患者”として登録してる。名前を変えて、誰にも会わずに10年以上。」

「……俺が行ったら、会うか?」

「わからねぇ。けど、神崎沙耶の弟だと知れば……話すかもな。」

廃病院は、東都の外れ、線路沿いにあった。
雨がまた降っていた。
この街の真実は、いつも濡れている。

俺が足を踏み入れたとき、埃のにおいが記憶を逆なでた。
かつて“ここ”でも、人が研究対象として記録されていたのかもしれない。

受付を通り、2階の突き当たりの病室。
ノックに応じた声は、細くかすれていた。

「どうぞ……」

中にいた女は、俺の顔を見るなり、目を細めた。
「あの子に……似てるわね……」

「神崎沙耶の弟だ。」
俺は率直に名乗った。「朝倉映子さん。話を聞きたい。」

しばらくの沈黙のあと、彼女はうなずいた。

「いいわ。私も、ずっと……誰かに話す時を待ってたのかもしれない。」
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